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酪農経営は乳代による売り上げ増だけでなく,在群期間の長期化による経費節減も大切―。乳牛の乾物摂取量と産乳量のエネルギーバランスは泌乳前~中期がマイナス,中~後期がプラスになる。この痩せすぎと肥りすぎの変動が乳牛短命化の原因。そこで,乾乳期間短縮などによる泌乳持続性の向上で,その変動を小さくする。さらに,難産回避,寄生虫駆除,暑熱ストレス緩和などで乳牛を長生きさせる(以降,段落冒頭の太字部分は記事タイトル)。
飼養管理意識が酪農経営に及ぼす影響 ―徳島県の牛群検定農家を事例として― 徳島県の牛群検定農家は所得確保のために,どのようなことを重視しているのか? 調査の結果,生産性の向上ではなく,可能な限り無駄を省き,生産コストを削減することを目指そうとしている経営が多かった。とくに,乳牛の「乳量増加」ではなく,「在群期間の長期化」および「乳成分の安定化」を重視する意向がみられた。この背景には,受胎率低下による空胎時の飼料給与,乳房炎などの疾病による追加的な生産コストの増加,乳質基準に対するペナルティを回避したいという意向が働いていると考えられた。九州大学・長命洋佑氏が解説。
生涯乳量を増やす泌乳持続性 分娩後,徐々に乳量が上昇し,ピーク乳量が低く,その後の乳量低下が小さな特性を「泌乳持続性が高い」(泌乳曲線の平準化)という。従来,総乳量を上げるためにはピーク乳量を上げなければならなかったが,分娩後に早く多く食わせる技術に農家間で差が出ている。そのため,飼養管理が難しい泌乳前期ではなく,中後期に乳量を多くすることができれば,乳量を増加させつつ,飼養管理の困難さが解消できる。安価で良質な粗飼料が十分に確保できず,栄養濃度の高い飼料を食い込ませる技術が不十分な経営が多いわが国では,泌乳持続性が高い牛のほうが望ましい(図1)。家畜改良事業団・富樫研治氏が解説。
図1 泌乳持続性が高い牛と従来通りの牛の泌乳曲線
乾乳期間短縮の意義と方法 酪農では通常,泌乳期と泌乳期の間に休息期をとる。これが乾乳期であり,伝統的に60日間が最適とされてきた。これは次の泌乳期の乳生産が最大となることを示した牛群検定記録などの遡及的な解析研究から確立されたものである。しかし,乳牛の遺伝的改良と飼養管理の改善の結果,わが国の乳牛の乳量は著しく増加し,現在は多数の乳牛が分娩前60日で20kg以上の乳生産がある。乾乳時に高乳量の牛ほど分娩時に乳房炎に感染するリスクが高い。そこで,乾乳期間を短縮し,前乳期の搾乳期間を延長することで出荷乳量の増加と,乳量が低下してからの安全な乾乳が期待できる(図2)。北海道農業研究センター・中村正斗氏が解説。
図2 乾乳期間短縮の牛(n=8)と従来通りの牛(n=10)の泌乳曲線(3産以上)
分娩難易が酪農経営に及ぼす影響 難産は,泌乳量の損失,繁殖性の低下,死産の上昇をもたらす。難産による損失量を具体的な減収として捉えると,難産の発生は顕著な経済的損失をともない,酪農経営に及ぼす影響が大きい。そのため,乳牛の飼養管理では,難産をなくす適切な対策が必要である。難産は遺伝要因だけでなく,人為的問題など非常に多くの環境要因が積み重なって生じる現象である。供用種雄牛の選定,分娩時の観察,適切な介助と牽引,さらにはストレスを与えない分娩房などの整備を行ない,正常な分娩や自然分娩を心がけることが肝要である。日本ホルスタイン登録協会・河原孝吉氏が解説。
寄生虫の駆除と生産性・繁殖成績 乳牛は,出生から育成期を経て乳汁生産を迎える成牛に至る間,その飼養環境・形態が大きく変化する場合が多い。その飼養環境・形態に応じて,対応する寄生虫も異なってくる。寄生虫の存在下では,牛群全体が本来の生産性を阻害されている。そこで疫学調査などでその存在が確認された場合,まず寄生虫を駆除することで確実に増体量改善や繁殖成績の向上,および病傷事故低減などの生産性の向上が期待できる。駆虫プログラムの取り組みは,ホルスタイン種育成乳牛の生産性の向上にとってきわめて効果的な手法である(図3)。NOSAI宮城・高橋史昭氏が解説。
図3 外放牧場の育成牛
左は糞便から牛鞭虫,乳頭糞線虫,ネマトジルス,一般線虫が検出された牛群。右は適切な駆虫プログラムを施された牛群で,毛艶がよく,増体も順調。
暑熱期の乳牛の生理と生産性に及ぼす剪毛の影響 乳牛の体温は,熱の産生と放散との差で決まる。熱産生は飼料摂取量や維持エネルギー要求量と関連して増加することから,現段階では制御がむずかしい。いっぽう,夏季暑熱時での乳牛の熱放射は,体表への血流量,発汗量,気温や湿度,風速などの環境条件によって変化する。この体表面からの熱放散の促進により体温の上昇を抑制することが,現実的な対策として考えられる。そこで,夏季暑熱時の剪毛が,体温,飼料摂取量,血液性状などに及ぼす影響を検討し,熱放散が改善されたことが原因と思われる成果が得られた(図4)。広島大学・沖田美紀氏らが解説。
図4 剪毛部(左)と有毛部(右)
昼夜放牧が乳牛の繁殖性に及ぼす影響 昼夜放牧を行なう農場での放牧期と非放牧期の乳牛の繁殖性の相違を考察した結果,産次が高く,授精回数が多いいっぽうで,初回授精日数,空胎日数,分娩間隔は良好であった。また,初回授精受胎率は年度による相違があり,授精1回当たりの受胎率は北海道平均値より低いものの,発情発見効率や妊娠率は良好であった。さらに,放牧期と非放牧期の乳牛の繁殖性の相違には,放牧草を効率的に活用する繁殖管理と放牧期での乳生産が増加する飼養管理による影響が大きく,非放牧期に比べて放牧期での乳牛の繁殖性に良好な影響を及ぼす可能性が指摘された(図5)。名城大学・林義明氏が解説。
図5 昼夜放牧中における乳牛のマウンティング行動とスタンディング行動
行動量の変化(歩数計システム)による発情の発見 高泌乳化にともなう乳牛の繁殖性低下は世界的に問題となっている。要因の一つとして育種改良による繁殖生理の変化があるが,飼養管理や繁殖管理といった要因の関与も見逃せない。なかでも,牛群の多頭化や高泌乳化が発情発見率の低下をもたらしている。そのため,行動量の変化を利用する発情発見法が開発され,普及が急速に進んでいる。ホルモン剤を多用する定時人工授精法が普及している米国でも,評価されるようになってきた。北里大学・坂口実氏が解説。
養豚経営におけるベンチマーキング ベンチマーキングは,成果を向上させるための情報および知見を得ることを目的として,生産プロセスや成績を継続的に測定・比較する。養豚産業界では継続的な成績の改善および比較を行ない,生産測定値の目標値と標準値を供給している。生産者や獣医師にとって,農場の繁殖生産性・肥育生産性・財務での問題点を見つけ,改善するために有用である。さらに,収集されたデータは,現場に役に立つ生産研究にも使用され,研究成果が参加生産者と獣医師から広がって,やがて養豚界全体に還元されていく。明治大学・纐纈雄三氏が解説。
繁殖雌豚の最適な授精回数およびタイミング 養豚生産では,繁殖雌豚の1回の発情期間に2回または3回の授精を実施することが,広く推奨されている。そこで,雌豚への1回目種付け時と再種付け時での,2回と3回交配の経済的な利益の比較を行なった。初回種付けでは3回交配が2回交配より分娩率も分娩時生存産子数も上回ったが,再種付けでは2回交配と3回交配で分娩率も分娩時生存産子数にも差はなかった。利益を最大にするためには初回種付けされる雌豚には3回交配を,再発情した雌豚には2回交配が望ましい。ただし,2回交配であっても分娩率を1%上昇させれば,3回交配による利益を超える。明治大学・纐纈雄三氏が解説。
異腹混合哺育による子豚の早期社会化 異腹混合哺育は,哺乳期から異腹子豚とともに一群として生活させて互いに社会的関係を早期に成立させておくことで,離乳時に初めて異腹子豚と群を編成するよりもストレスが少なくなる。離乳後の群再編成直後の敵対行動を軽減させ,社会的順位の確立が促進され,離乳後の増体も優れる。1週齢から混合哺育する場合と,2日齢以内に混合哺育を開始する場合とで実験を行なった結果,分娩直後の異腹混合飼育による早期社会化が,離乳にともなう子豚の苦痛軽減の一助となり,ひいてはブタのウェルフェアの向上につながると考えられた。麻布大学・田中智夫氏が解説。
豚枝肉の価格変動の要因と動向 豚枝肉の上物価格は,中物価格,肥育豚生産費,子豚購入価格,CIF輸入豚肉価格との間に正の相関,牛肉消費量,鶏肉消費量,豚肉推定出回り量,豚肉輸入量,可処分所得,豚肉消費量との間に負の相関がみられる。主成分分析では,流通関係の要因,次いで生産価格,気象関連の影響を受け,鶏肉や牛肉などの競合食品の単価や消費量の影響を大きく受けている。年間の変動では,夏期の高温で繁殖成績が悪くなって春先の子豚が減少して高騰し,また,肉豚生産性の低下によって豚枝肉価格はさらに高騰し,秋期に涼しくなって肉豚出荷量が回復すると下落している。瑞穂農場・鹿熊俊明氏が解説。
エコフィードの現状と展望 食品循環資源(食品製造副産物,食品廃棄物・残渣)からつくられる飼料をエコフィードと呼んでいる。名称の由来は,燃焼させ炭酸ガスを排出することがない「環境に優しい」という意味のEcological,比較的安価であるという意味でのEconomicalのEcoを借用した造語である。エコフィードの原料となる素材は多様であり,2012年度には,958万tの食品循環資源が飼料化されている。エコフィードの製造は,乾熱乾燥法,減圧乾燥法,ボイル乾燥法,油温脱水法,リキッド方式,サイレージ化,煮沸方式がある。元日本大学・阿部亮氏が解説。
飼料中リジン/蛋白質比による肥育豚の脂肪交雑向上技術 豚肉の筋肉内脂肪を増やす方法として,低蛋白飼料,低リジン飼料などがよく知られている。しかし,これらの飼料による方法では筋肉内脂肪含量は増加するものの,肥育豚の飼料摂取量や増体量が低下したり,赤身の肉量(筋肉量)が減少することが知られている。そこで,「ゆで中華めん」などをおもに用い,低リジンにせず,やや高蛋白とし,リジン/蛋白質比を低下させた飼料を肥育豚に給与し,増体性に悪影響なく筋肉内脂肪を増やすことができた(図6)。和歌山県畜産試験場・前田恵助氏が解説。
パン残渣飼料による霜降り豚肉生産 埼玉県は大消費地に近いので大規模なパン製造工場が多く,昔からパン残渣を飼料として活用する養豚農家が多く存在していた。そのため,1990年代からパン残渣の有効性について研究を実施し,2000年代に入り,パン残渣を給与した豚肉の品質や食味の変化を調査し,本当に筋肉内にサシが入るのか検討した。その結果,パン残渣の特性(リジンおよびリノール酸含量が少なく,オレイン酸含量が多い)をうまく活用し,肉質の優れた付加価値の高い霜降り豚肉生産方法を開発した(図7)。埼玉県農業技術研究センター・中村嘉之氏が解説。
肥育豚へのパン残渣の給与 2000年ごろにパン屑主体エコフィードの多給で脂肪交雑豚肉が生産できることが知られるようになると,関西を中心としていくつかのブランド豚肉が生み出され,高値で取引されるようになった。しかし,この段階ではパンくず類の需要の高まりとともにパン類利用技術が普及したいっぽうで,脂肪交雑豚肉の発生メカニズムは明らかにされていなかった。そこで,パン主体エコフィードの栄養評価を行ない,配合飼料との互換性を明らかにし,脂肪交雑豚肉を効率的に生産するための給与技術を検討した。宮崎大学・高橋俊浩氏が解説。
肥育豚へのうどん残渣飼料の給与 香川県はうどん用小麦粉の使用量が約6万tと全国第1位,さらに人口1,000人当たり「そば・うどん店」事業所数や1世帯当たりうどん・そば(購入・外食)の年間支出金額なども全国第1位である。製麺業者やうどん店が多く,製造過程で出る切れ端などや期限切れなどが廃棄されている。うどんは,使用原料が明確で成分も比較的安定しており,デンプン質に富んでいることから,それらを利用したエコフィードで,豚肉の新たな特徴付けができないか,取り組んできた。元香川県畜産試験場・上原力氏が解説。
肥育豚へのシロップ廃液の給与 フルーツゼリーの製造過程で残渣として発生するシロップ廃液は,長崎県内の食品工場で年間約4,000tもの量が排出されている。主成分であるショ糖は家畜の嗜好性が高く,消化率も高い反面,液状残渣であること,また,常温では腐敗が進みやすいことなどから,これまで多額のコストをかけて廃棄処分されてきた。そこで,シロップ廃液を常温で簡易に保存する技術について検討し,リキッド飼料原料として肥育豚に給与したさいの産肉性および血液成分に及ぼす影響を調査した。長崎県農林技術開発センター・本多昭幸氏が解説。
チョコレートの飼料利用による肥育豚の発育と肉質への影響 チョコレート残渣は,主として欠品を防ぐための過剰生産により,生産量の約1~2%にあたる3,000~6,000t発生するとされ,おもにセメント熱源や肥料として利用されている。熱に弱く,粉末化して乾燥飼料に混合することが困難なため,飼料化が進んでいないが,高脂肪のため栄養価は高く,含有するカカオバターは飽和脂肪酸を多く含み,カカオマスに含まれるポリフェノールによる抗酸化能が期待できる。そこで,発酵リキッド飼料に添加し,給与による影響について検討した。畜産草地研究所・芦原茜氏が解説。
乳用牛へのサツマイモ焼酎かすケーキ混合発酵飼料の給与 焼酎かすの乾物率は5.5%であり,乾物中に粗蛋白質23.6%,粗脂肪9.1%,粗灰分7.3%,可消化養分総量65.9%を含んでおり,家畜の飼料として有望である。近年,焼酎かすをスクリュープレスによって分離後,遠心脱水処理によって固液分離した液体部分を加熱することで濃縮処理した焼酎かす濃縮液や,固体部分をケーキ状にする方法が採られている。このうち固体部分である焼酎かすケーキは,他の飼料と混合して発酵させることによって,長期保存ができ乳用牛への給与が可能となる。宮崎県畜産試験場・西村慶子氏が解説。
岩手県岩泉町での経営展開と牧野管理 岩手県岩泉町は日本短角種の主要産地の一つで,大川地域・安家地域で繁殖・肥育が行なわれている。大川地域は林野率が高い山村地域で,もっとも山間部の釜津田地区,役場の支所などがある大川地区,もっとも岩泉町中心部寄りの浅内地区に分けられる。牧野組合は,釜津田地区の釜津田肉牛生産組合,大川・浅内地区の大川肉牛生産組合の2つが存在する。2つの牧野組合は,同じ河川の流域であり,気候・文化条件が類似しているいっぽうで,それぞれ土地条件が異なっており,経営の違いが比較できる(図8)。岩泉産業開発・岸岡健太氏が解説。
生菌剤の添加による肉用名古屋コーチンの無投薬飼育 名古屋コーチンの無投薬飼育は,抗菌性物質を使用しないことによる生産性の低下やコクシジウム症などの疾病の発生が危惧されることなどにより,普及していない。そこで,餌付けから出荷までのすべての飼育期間に生菌剤を用いた場合の生産性や免疫性に及ぼす影響(無投薬飼育),餌付けから4週齢までの肥育前期は抗菌性物質を使用し,5週齢以降の肥育後期にシンバイオティクスを用いた場合の生産性や免疫反応に及ぼす影響(減投薬飼育)について検討した。愛知県農業総合試験場・美濃口直和氏が解説。
牛肉の脂肪酸組成が食味に及ぼす影響 牛肉は,概して飽和脂肪酸の割合が低く,オレイン酸などのモノ不飽和脂肪酸割合(MUFA)が高いほうがおいしく,MUFAのなかでもとくに,オレイン酸がおいしさに貢献しているといわれている。今後のわが国の黒毛和牛の育種改良を進めるうえで,脂肪酸組成と食味との関連を明らかにすることは,もっとも喫緊で肝腎な研究課題の一つである。そこで,肉質等級と脂肪酸組成が明らかになっている黒毛和種牛肉を用い,どの程度食味に影響するのかを分析型パネルで検討した。東北大学・鈴木啓一氏が解説。
牛肉の外観,理化学特性が官能評価に及ぼす影響 買受人,仲買人などの食肉流通業者は,消費者の意見や感想を反映させながら牛肉の購買に当たっており,価格形成や消費者ニーズへの対応などで重要な役割を果たしていると考えられる。そのため,食肉流通業者による黒毛和種高品質牛肉の官能評価とその肉の理化学分析で両者の関係を明らかにすれば,より厳密で客観的な牛肉の官能評価法を確立できるかもしれない。そこで,長崎県農林技術開発センター管内にある食肉地方卸売市場で行なった官能評価の結果を紹介する。長崎県農林技術開発センター・橋元大介氏が解説。