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飼料用米の利用は、わが国の豊富な水田資源を活かしながら自給率の向上に大きく貢献する。これまでの粗飼料主体の自給飼料と異なり、デンプンを主成分とする濃厚飼料である。そのような飼料用米の特徴を活かす利用技術について収録。
乳牛の泌乳能力は著しく向上しており、その能力を最大限に発揮させるには栄養価の高い濃厚飼料を多給する必要がある。しかし、それは蛋白質の過剰摂取が疾病や繁殖障害を増加させ、供用年数を短くする要因にもなっている。そこで、粉砕処理した玄米を濃厚飼料の40%に代替し、低蛋白質給与にしたところ、乳量や乳成分が従来と変わらなかった。イネWCSを給与飼料全体の20%とする自給型の飼料設計も含めて、福井畜試・和田卓也氏が「飼料米(玄米)を活かした低蛋白質給与による乳牛の飼養改善」で解説。
黒毛和種肥育牛にもち米、うるち米の粉砕玄米を給与(市販濃厚飼料の15%、25%を代替)。発育成績、枝肉成績とも慣行肥育とほぼ同等の高品質な牛肉生産が可能である。ただし、飼料用米を微粉砕したことで飼料摂取量が低下。ルーメンアシドーシスは見られなかったが、多給する場合は飼料中の易分解性炭水化物と繊維のバランスに注意。とくに、もち米はデンプンのほぼ全量がアミロペクチンで構成されているため、体内での消化スピードが速い。また、飼料用米はβ-カロテン含量が少ないため、全飼料中のビタミンA含量の調整も必要。山形農総研・三上豊治氏が「黒毛和種肥育牛での飼料用米(玄米粉砕)の給与」で解説。
図1 乳牛用の粉砕玄米(粒度2mm以下)
トウモロコシに比べて、玄米や大麦はアミノ酸リジンの含量が高く、暑熱期の肉豚の発育低下を改善する。また、玄米は多価不飽和脂肪酸含量が低いことから、ロース部位の皮下脂肪内層のオレイン酸の割合が高くなりる。さらに、乾燥、粉砕処理した製茶加工残渣を、肥育前期に重量比で2%、後期に1%配合し、枝肉中の背脂肪を低減させて上物率が向上。佐賀畜試・脇屋裕一郎氏が「飼料用米、大麦、製茶加工残渣を混合給与した肥育豚の暑熱対策技術」で解説。
飼料用米給与豚肉に対する消費者の認知度や知識は現在まだ高いといえない。そこで、目で見てわかる情報として、飼料自給率の向上や水田農業の支援など、飼料用米活用の意義や背景についての情報も合わせて提供することで、消費者の「食べる前の受容」が高くなる。また、豚肉の品質は慣行と比較して遜色なく、「食べたときの受容」にも問題がない。しかし、普及と定着の段階である現在、万が一品質の悪いものが消費者に提供されないよう、十分な注意を払う必要がある。畜草研・佐々木啓介氏が「飼料用米給与豚肉に対する消費者受容」で解説。
初産牛は経産牛に比べて足の動きが素早く、搾乳中の蹴り行動が搾乳者の怪我の原因になりやすい。そこで、人との接触機会が少なくなる受胎確認後から分娩までの間に、未経産牛に対して定期的に乳房への接触処置を施したところ、初産分娩後の搾乳時のストレスを軽減するとともに蹴り行動が大いに抑制された。また、頸への愛撫処置により、人と牛との親和関係がよりよく改善され、分娩後60日目ころには同じく搾乳中の蹴り行動が抑制された。帯畜大・古村圭子氏、宇鉄健史氏が「搾乳中の蹴り行動の要因とその制御」で解説。
牛白血病は、削痩、元気消失、眼球突出、下痢、便秘がみられ、末梢血液中に腫瘍細胞が出現する。現在のところ予防法と治療法がなく、発症した牛は数週間で死亡する。基本的には、検出キットで感染を把握し、ウイルスを広げる危険性の高い牛を摘発し、それらを優先的に分離飼育、更新することで、汚染農場での感染率の低減や清浄化をはかる。また、吸血昆虫のアブなどが容易に出入りできないよう、牛舎の入り口、窓を防虫ネットで覆うのも、ウイルス感染の抑制に有効である。岩手大・村上賢二氏が「牛白血病」で解説。
近年の養豚は集約化され、コンクリート舎内での飼養が一般的となり、発育に必要な微量元素、とくに鉄分の摂取が困難になっている。そこで、熊本県の地域資源で、吸収されやすい鉄分が豊富に含まれている精製阿蘇黄土を子豚に給与。貧血改善には効果が認められなかったものの増体に影響せず、子豚の鉄なめ行動や他個体への接触行動が抑制され、休息行動の発現が促進された。秋田県大・小池晶琴氏が「阿蘇黄土の添加が子豚の血液性状、成長、行動に及ぼす影響」で解説。
海藻を豚の飼料に添加給与すると、肥育期間の飼料摂取量が減少しても同等の発育を示し、免疫能を活性化する。LWD三元交雑豚、デュロック種、ランドレース種で飼料に海藻を添加したところ、獲得免疫の活性を示す物質の産生量が高まり、自然免疫活性の指標も上昇。海藻への着目理由、試験の方法と結果、海藻添加のほか、βグルカン添加、酵母添加が免疫能に及ぼす効果、農場での実証試験について、東北大・鈴木啓一氏が「海藻添加飼料による育成豚の免疫能改善」で解説。
鶏の産卵率や卵殻質の低下を改善するため、従来は絶食処理を行ない、換羽を誘導する方法(強制換羽)がとられてきた。しかし、鶏へのストレスが大きく、死亡する危険もある。そこで、ふすまや米ぬかなどを主体とした低エネルギー飼料の給与で換羽・休産を誘導することにより、鶏の健康状態を良好に保ち、長期にわたり産卵性能と卵質を維持する飼養管理技術(誘導換羽)を開発。さらに制限給餌、粉砕籾がらの配合、シンバイオティクスも併用。愛知農総試・大口秀司氏が「低エネルギー飼料による「誘導換羽法」」で解説。
前千葉畜総研・村野多可子氏が「産卵異常をもたらす感染症と飼養環境要因」について解説。産卵率の低下、性成熟や産卵ピーク到達の遅れ、高産卵率の持続性の悪化、卵重の低下、卵殻色の退色、卵形・卵殻質の異常、濃厚卵白高の低下、卵黄色の低下、異物の混入・異臭など。感染症はウイルス(鶏伝染性気管支炎、産卵低下症候群、鶏脳脊髄炎、ニューカッスル病)、細菌(マイコプラズマ症、伝染性コリーザ)、寄生虫(ロイコチトゾーン症、トリサシダニ、ワクモ、鶏回虫)、飼養環境要因は飼料(飼料用米、エコフィード)、飼養管理(ストレス、暑熱、収容羽数、飲水、誘導換羽)、不活化油性アジュバントワクチンについて。
わが国の最近の気候に見られる温暖化現象は、このまま定着していく公算が大きい。そこで、日獣医大・對馬宣道氏、田中実氏が「クーリング・パッドを備えたトンネル換気型無窓鶏舎」について紹介。大型の排気用ファンを鶏舎の一端に配置し、反対側にはクーリング・パッドを備えた広い入気口を設けることにより、鶏舎内に縦断的な空気の流れをつくり出す換気のやり方である。
定置放牧では輪換放牧のような牧草再生のための人為的な休牧期間がなく、牧草生産量と利用草量は放牧開始の時期と放牧強度によって決定される。定置放牧では輪換放牧に比べて牛1頭当たりの牧区面積が広く割当草量も多く、牛が牧草を選択採食する機会が増加する。そこで、同様の放牧強度と放牧開始日で泌乳牛を放牧した結果、定置放牧では1日1頭当たりの利用草量が春季に集中するものの、年間の利用草量は輪換放牧に劣らなかった。北海道畜試・遠藤哲代氏が「泌乳牛の定置放牧と輪換放牧での生産性の違い」で解説。
乳牛の集約放牧草地に用いられる寒地型イネ科牧草のうち、ペレニアルライグラスは栄養価が高く短草利用に適するが、冬季気象条件の厳しい北海道東部地域では栽培が安定しない。いっぽう、チモシーは越冬性に優れるが、強い短草利用には耐えられない。施肥管理は、必要な施肥量の草種間差や地域間差が相対的に小さく、むしろ各酪農場の放牧飼養管理の違いに強く影響される。施肥標準の考え方と土壌診断に基づく施肥対応も含めて、酪農学園大・三枝俊哉氏が「乳牛集約放牧草地の草種特性と施肥技術」で解説。
世界的な異常気象や穀物需要の増加などによる飼料穀物価格の高騰を受け、自給飼料を効率的に利用した飼料設計が望まれている。飼料用トウモロコシはTDN収量が高く、購入飼料費の低減と単位面積当たりの乳生産量の増加が期待できる。破砕処理すればトウモロコシサイレージの栄養価が向上し、その特性を踏まえた飼料設計によって疾病のリスクも減らせる。北海道根釧農試・谷川珠子氏が「粉砕処理トウモロコシサイレージによる乳牛の飼料自給率向上」について解説。
黒毛和種はホルスタイン種に比べて未熟で出生し、脂肪の蓄積が少なく寒さに弱く、摂取すべき初乳の抗体量が高く、生時体重は小さいが増体率は高く、体高の伸長が育成前期に集中し、群飼が強いストレスとなる。しかし、現場ではそのような特性が意外と知られておらず、子牛に負荷の大きい管理(哺乳量の不足、早すぎる離乳、粗飼料の多給、幼齢期からの群飼)がなされ、損耗率の著しく高い農場も見られるという。そこで、北海道白老町の獣医師・佐野公洋氏が「哺乳期の飼養管理と下痢対策」について解説。黒毛の生理的特性、それらを踏まえた、育成のスタートである哺乳期の具体的な飼養管理法について紹介。
繁殖経営では、売り物である子牛に対してスターター、良質乾草の給与、初乳製剤、ビタミン剤の投与、ワクチン接種など労力を傾注するのに比べ、売りものでない母牛への管理への配慮は乏しく、とくに栄養要求量が急激に高まる分娩前後に飼料給与量を減らしたり、序列闘争でターゲットになりやすい未経産牛や初産牛を経産牛といっしょに群飼したりと、避けたい管理方式を目にする農場も多いという。そこで、同じく佐野公洋氏が「繁殖雌牛(母牛)の周産期飼養管理とその効果」について解説。母牛の飼養管理について、最も重要である分娩前後の「別飼、増飼」を中心にその実施状況や市場成績との関連、具体的な手法、実施農場での改善事例について紹介。
牛に合わせたえさと環境で1年1産を継続し、オリジナル配合飼料の年間給与で蛋白不足を防ぎ、立派な体格でも繁殖障害ゼロ。岐阜県恵那市の繁殖農家・中根まき子氏が自身の経営を「繁殖経営=繁殖牛75頭」で紹介。1年1産による経営効果、母牛のえさの蛋白不足問題、増し飼いのやり方、育成期のえさの与え方のほか、管理の要点も。たとえば、下痢させなければ子牛は勝手に育つ、離乳・群飼いのストレスを最小限に、ストマックチューブの改造と使い方、根気よく声を掛けて体に触れる、子牛への思い入れをもつ、難あり牛を肥育にまわすなど。
肥育豚を日中に屋外飼養すると、濃厚飼料の摂取量が少なくなり、増体量や飼料要求率の生産性が低下し、肥育日数も延長する。しかし、背脂肪厚が薄く、背腰長が長く、ロース芯面積が大きくなり、赤肉歩留りの高い豚肉生産となる。さらに、給与飼料の工夫により筋肉内脂肪含量を制御すれば、軟らかい豚肉を生産することも可能である。長崎農技セ・本多昭幸氏が「肥育豚の赤肉歩留りを高める日中屋外飼養」で解説。
ヘラオオバコは古くからハーブとして食用や薬用にされている有用植物である。豚や鶏に乾草粉末を給与すると、枝肉の格付が向上し、腹腔内脂肪の蓄積が抑制され、脂質の成分である不飽和脂肪酸の割合が改善される。しかし、ヘラオオバコの乾燥や粉末化、飼料への添加には手間や労力がかかる。そこで、放飼場に直接ヘラオオバコを播種し、伸長したヘラオオバコを肉用鶏で利用。秋田畜試・力丸宗弘氏が「ヘラオオバコの放飼場栽培による高品質鶏肉生産」について解説。
去勢鶏は、精巣を取り除いた雄鶏である。大きく成長し、肉は軟らかく、霜降り肉のようになり、より高い価格で販売できる。しかし、鶏の精巣は体内にあるため、外科的に取り除く必要がある。その技術を習得するには、かなりの忍耐と多くの経験を要する。そこで、同じく力丸宗弘氏が「鶏の去勢技術と肉質向上」として解説。鶏の去勢は不要な雄びなの有効活用でもある。
図2 良好な伸長を示す第一胃絨毛(90日齢子牛)
豚の排泄物に由来する環境負荷物質、窒素の軽減策として、粗蛋白質含量を下げた飼料の給与が有効である。その分不足するアミノ酸を添加した飼料を給与すると、豚の発育を損ねることなく、排泄される窒素量を低減できる。窒素量の低減は、豚房や堆肥化で発生するアンモニア量も低減する。福岡農総試・尾上武氏が「アミノ酸添加低蛋白質飼料による豚の尿量、窒素排泄量、アンモニアの低減技術」について解説。
養豚経営での悪臭はとくに苦情が多く深刻である。臭気対策は、除糞作業の励行、脱臭資材給与などによる発生源対策、脱臭資材散布や脱臭装置の設置などがある。福岡農総試・小山太氏が「養豚施設の臭気物質と戻し堆肥による臭気低減」について解説。養豚施設、とくに発生源である糞尿が搬入される堆肥化施設での臭気の発生状況と戻し堆肥の混合効果について紹介。
乳牛の糞尿は混合物で処理されることが多く、水分も高く、ハンドリングが悪い。堆肥化時に多量の水分調整用副資材が必要となり、経済的、労力的負担が大きい。牛床上で泥濘化した糞尿は、悪臭の発生を引き起こすとともに牛体の汚れの原因となる。乳牛の排泄水分量、とくに尿の排泄量は飼料中のカリウム含量に大きく影響されることから、カリウム含量の少ない自給飼料を活用すれば、糞尿由来の排泄水分が低減できる。元群馬畜試・都丸友久氏が「低カリウム自給飼料による乳牛の排泄水分量の低減」で解説。