農業技術大系・畜産編 2009年版(追録第28号)


追録28号 企画の重点

●2009年版(追録第28号)輸入飼料の価格も安定せず,畜産を取り巻く情勢はますます先行きが見えなくなってきた。そのいっぽうで素性のたしかな畜産物への関心は高まるばかりである。

●2009年版(追録第28号)今回の追録では,そのような生産者と消費者の国産志向に応えるべく,新しいコーナー「飼料イネ(WCS・飼料米)の利用」(第7巻)を立ち上げた。あわせて「飼料資源の有効活用」コーナー(おもに第7巻)では食品残渣や地域資源の利用技術も充実させた。

●2009年版(追録第28号)そのほか,乳牛の放牧管理(第2-(2)巻),肉牛の給与技術(第3巻),養豚のふん尿対策(第8巻),採卵鶏の新しい経営(第5巻)といったテーマでお届けする。


自給飼料,地域資源の活用で,相場に振り回されない,たしかな経営を築く

飼料イネの“今”がまるごとわかる

 飼料イネへの関心の高まりは,余剰米対策の第1期,転作・青刈り利用の第2期,稲発酵粗飼料が本格化した第3期を経て現在,第4期を迎えている(図2)。機械開発・品種育成が進められ,栽培・調製・給与技術も確立され,山間の小さな棚田で直播栽培が試みられるなど(図1),多様な広がりを見せている。

図2 飼料用イネの栽培面積と歩んだ道のり

図1 山間棚田での飼料イネ直播播種風景
新潟県佐渡市の中山間棚田(標高320~350m)で,耕作放棄地対策として‘夢あおば’の直播栽培実証試験を行なった(裸籾を手作業で播種)。条件の悪い圃場では398kg/10aであったが,漏水が少なく水温を比較的高く維持できた圃場では粗玄米680kg/10aを得た。条件さえ整えば,こうした圃場でも直播で,ある程度の収量を得ることは可能である(2007年中央農研北陸研究センターの試験成績)

 栽培面では,湛水直播での出芽改善(鉄コーティングなど),低コスト省力的な疎植,暖地での2回刈り(ひこばえ収穫),オオムギとの2年3作体系(飼料イネ→オオムギ→飼料イネ)など,地域・経営の個性を活かした導入が進められている。

 また,乾物収量・TDNと水分含量の推移による収穫適期の判断(図3の糊熟期~黄熟期),乳酸菌・酵素製剤・尿素などの添加によるサイレージ品質・貯蔵性の向上,ロールベールサイレージ体系での機械化(牧草用・飼料イネ専用)と作業性の向上,脂肪交雑に影響するβ‐カロテンを減らす肥育牛向け予乾処理,乳牛での消化特性を踏まえた好適な切断長やTMR混合割合も見い出されている。

図3 WCSの乾物収量,栄養価および水分含有率の推移
TDN:可消化養分総量

 牛肉・豚肉の機能性を高める飼料米給与技術のほか,茨城県,長野県,鹿児島・熊本県での活用事例も盛り込み,飼料イネの“今”がまるごとわかるよう,第7巻の新コーナー「飼料イネ(WCS・飼料米)の利用」で特集した。

食品残渣の飼料化,既存資源の活用

 小田急では食品リサイクル法の施行を契機に,グループ全体で1日約21t排出される食品廃棄物の再利用に取り組み,その一部をリキッド発酵飼料にし,契約養豚農家に供給するしくみ「ループリサイクル」をつくり上げた(図4)。生産された豚肉はグループ内で高い評価を受け,差別化戦略をもって積極的にグループで販売されている。

図4 食品スーパーにループリサイクルの図を掲げて豚肉を販売

 そのほか,ジャガイモ澱粉かす,生米ぬか,モウソウチク,スギ間伐材,トウモロコシ乾燥蒸留かす(バイオエタノール副産物)の飼料化(以上,第7巻),少量モグサによる施灸技術(第2巻),破砕処理トウモロコシサイレージの多給技術(第2巻),カンナくず敷料による豚育成期間の短縮(第4巻),アルファルファの生産性を高めるトウモロコシとの短期輪作体系(第7巻)といった既存資源の活用法も紹介する。

乳牛の放牧―マイペース酪農のしくみに迫る

 低投入型のマイペース酪農を実践する北海道中標津町・三友盛行さんの農場を調査した佐々木章晴さんの考察を収録した(図5)。施肥量が少なくても牧草の生産性が保たれるのは周囲よりも遅い施肥時期が牧草の生育に合っているから―。遅い刈取りによる繊維の多い草は牛の健康を保ちつつ,繊維の多い牛糞が堆肥化を良好にし,繊維の多い堆肥が土の保肥力を高める。配合飼料給与量が少なく,環境負荷も小さな低コスト経営のしくみを大胆に描く(第2巻)。

図5 三友農場の酪農のまとめ

 放牧では,糞虫による牛糞分解と牧草の窒素吸収への効果(第7巻),乳牛ではないが,放牧牛のための携帯用飼料の開発(第3巻)も収録した。

肉牛の給与改善―高蛋白育成の実践事例

 高蛋白育成とは従来の「子牛のハラはわらでつくる」という常識を覆し,育成前期は高蛋白飼料を4kgまで増給し,育成後期は4kgで横ばいのまま,良質粗飼料を多給する育成法である(図6)。この給与法で育成した子牛は「肥育で伸びる(肥育農家が儲かる)」と岡山県真庭市の繁殖農家・内田広志さんはいう。また,北海道新ひだか町静内地域は軽種馬(競走馬)産地だが,競馬業界の縮小にともない和牛生産を模索し,高蛋白育成で産地化に成功した。両者の取組みを紹介する。

図6 子牛の飼料給与法
発育のよすぎる去勢も雌と同じく,給与量を落としていく

 そのほか和牛では,日本飼養標準肉用牛2008年版改訂の要点,和牛の近交係数をめぐる課題と提言(以上,第3巻)も収録した。

養豚の糞尿処理対策,採卵鶏の新しい経営

 糞尿処理時にアンモニア酸化細菌などによって亜硝酸濃度が高まると,地球温暖化を進め,オゾン層も破壊する亜酸化窒素ガスが発生する。それを亜硝酸酸化細菌の添加で抑える(といっても手順は通常の戻し堆肥),それが結果的に硝酸濃度の高い堆肥の生産にもなる技術である(図7)。豚ぷん処理では,古紙と混合した豚糞コンポストと育苗ポットへの展開,豚舎汚水由来MAPのリン酸資材としての特性(以上,第8巻)も収録した。

図7 完熟堆肥添加試験における堆肥中硝酸濃度の推移(豚ぷん堆肥化)

 また,自然卵養鶏の規模は1,000羽以下が主流だが,今回は6,000羽と7,000羽で,それぞれ積極的な卵の販売・加工を展開している経営(図8)を,詳細な飼養技術とともに紹介する(2記事とも第5巻)。

図8 妻のセンスで生まれた加工品
(1)鶏飯弁当「鳥めし」の売りは大きな卵焼。卵の香りと旨味を味わえるよう,塩と砂糖だけで味つけ。だし巻きのように冷えてもふっくらとした食感になるように巻き方を研究した。(2)平飼い卵の濃い味が口いっぱいに広がる手づくりプリン。(3)シフォンケーキ,(4)ロールケーキは膨張剤・香料などの添加物をいっさい使わない。平飼い卵独特の細かい泡立ちと香りを最大限に生かしている