農薬中毒の知識
農薬別中毒症状
〈有機リン剤〉
EPN、
シュアサイド、スプラサイド、
DDVP、バイジット、
サリチオン、ダイアジノン、マラソン、スミチオン、トクチオンなど
①急性中毒(軽い場合)
頭痛、頭が重い、倦怠感、違和感、めまい、吐き気、息苦しい、冷汗。
②急性中毒(重い場合)
顔面蒼白、ひとみが小さくなる、よだれが出る、多量の発汗、腹痛、下痢、歩行困難。
③慢性中毒
頭痛、全身倦怠感、不安、集中困難、記憶力減退、怒りっぽい、不眠、神経過敏、下肢の知覚異常。
〈カーバメート系殺虫剤〉
サンサイド、ランネート、
メオバール、
ツマサイド、バッサ、デナポンなど
①急性中毒(軽い場合)
有機リン剤に同じ。ただし、有機リン剤より症状が早く現われる。
②急性中毒(重い場合)
有機リン剤に同じ。
③慢性中毒
有機リン剤に同じ。
〈有機塩素剤(殺虫剤)〉
チオダン、
ケルセン、
アカールなど
①急性中毒(軽い場合)
全身倦怠感、脱力感、頭痛、頭が重い、めまい、吐き気、嘔吐。
②急性中毒(重い場合)
不安、興奮状態、部分的な筋けいれん、知覚異常(舌、口唇、顔面)、てんかん様けいれん。
③慢性中毒
めまい、全身倦怠感、吐き気、嘔吐、手のふるえ、てんかん様けいれん、肝臓・腎臓の障害。
〈硫酸ニコチン〉
①急性中毒(軽い場合)
頭痛、頭が重い、めまい、吐き気、食欲不振、唾液が多く出る。
②急性中毒(重い場合)
強い激しい吐き気と嘔吐、脈が速くなる、動悸、胸苦しい、冷汗、顔面蒼白、下痢、全身脱力感、呼吸困難、手のふるえ、けいれん、精神錯乱。
③慢性中毒
食欲不振、下痢、動悸、不整脈、不眠、神経過敏、不安、手のふるえ。
〈クロルピクリン〉
①急性中毒(軽い場合)
眼の痛み、涙が出る、結膜充血、咽頭痛、くしゃみ、咳、皮膚の水疱、びらん、かぶれ。
②急性中毒(重い場合)
強い咳、喀痰、呼吸困難、ぜんそく様発作、眠りがちの状態、手のふるえ、運動失調、けいれん。
③慢性中毒
刺激が強いので慢性中毒はあまりないが、急性中毒の後遺症として、頭痛、めまい、失語症などがあとまで残ることがある。
〈臭化メチル〉
①急性中毒(軽い場合)
頭痛、頭がぼうっとする、あきっぽくなる、嘔吐、めまい、酩酊状態。皮膚に接触した場合に灼熱感、水疱。
②急性中毒(重い場合)
上気道の刺激・灼熱感、呼吸困難、喀痰、手足のふるえ、狂躁状態、昏睡状態。てんかん様発作。
③慢性中毒
急性中毒が主で慢性中毒はあまりないが、吸入から数週ないし数か月で憂うつ症、神経衰弱、言語障害、歩行障害、視力障害を起こすことがある。
〈ジチオカーバメート剤(有機硫黄剤)〉
ダイセン、
ダイファー、
マンネブダイセン、ジマンダイセン、
ビスダイセン、
ダイセンステンレスなど
①急性中毒(軽い場合)
吸入では、咽頭痛、咳、喀痰。
②急性中毒(重い場合)
腎臓障害を起こし、顔面のむくみ、血尿など。
③皮膚・粘膜障害
皮膚では、発疹、掻痒感(アレルギー性の強いものが多い)。
眼では、結膜炎。
④慢性中毒
慢性中毒はあまりみられないが、奇形を起こす作用をもつものが多い。
〈有機塩素剤(殺菌剤)〉
キャプタン、
ダイホルタン、ラブサイド、
ブラシサイド、ダコニールなど
①急性中毒
吸入すると、気管支炎、肺臓炎を起こし、咳、喀痰、呼吸困難など。気管支喘息様の発作。
②皮膚・粘膜障害
露出部分(顔、眼、耳など)の掻痒感、紅斑、発疹、結膜炎。
③慢性中毒
慢性中毒はあまりみられないが、奇形を起こす作用をもつものが多い。
〈有機砒素剤〉
アンサー、
ネオアソジン、
モンガレ、
モンキットなど
①急性中毒(軽い場合)
口腔・食道の灼熱感、呑み込むことが困難、嘔吐、腹痛、呼気・便のニンニク臭。
②急性中毒(重い場合)
コレラ様の下痢、血便、四肢痛、筋肉の攣縮、けいれん、せん妄。
③皮膚・粘膜障害
全身性剥脱性皮膚炎、色素沈着、角化症。
④慢性中毒
下肢のしびれ、知覚障害、脱毛、めまい、鼻中隔穿孔、貧血。
〈ブラストサイジン(ブラエス)〉
①眼障害
結膜の充血、不快感、異物感、涙が出る、眼の痛み、眼瞼の発赤、腫張。
さらに進行すると、角膜炎、角膜潰瘍、角膜白濁、視力障害を起こす(眼障害が特徴的なことに注意)。
②急性中毒
口からでは、吐き気、嘔吐、下痢。
吸入では、咳、痰、発熱。さらに進行すると、気管支炎、肺臓炎を起こすこともある。
④慢性中毒
はっきりしていない。
〈PCP〉
①急性中毒(軽い場合)
食欲異常亢進、全身脱力・倦怠感、頭痛、頭が重い、意欲減退、記憶力減退、感情不安定、息切れ、四肢のしびれ感。
②急性中毒(重い場合)
吐き気、嘔吐、強い発汗、高熱、顔面紅潮、苦悶、低血圧、脈が速くなる、胸痛、腹痛、昏睡、けいれん。
③皮膚・粘膜障害
かぶれ、座瘡様発疹(ニキビ様の発疹)、結膜炎、咳、くしゃみ、喀痰。
④慢性中毒
食欲不振、胃腸障害、貧血、肝臓・腎臓障害。
〈フェノキシ剤〉
ヤマクリーン、
ローンキープ、2、4-Dなど
①急性中毒(軽い場合)
咽頭痛、胸骨後部痛、胃痛、頭痛、めまい。
②急性中毒(重い場合)
筋肉痛、四肢の知覚異常、筋肉の繊維性攣縮、項部強直、体温上昇、脈拍増加、血圧降下、肝臓・腎臓障害、意識混濁。
③皮膚・粘膜障害
皮膚かぶれ、目・鼻・咽頭・気管の灼熱感。
④慢性中毒
運動神経の障害、肝臓・腎臓の障害。
〈パラコート剤〉
グラモキソン、プリグロックスL、マイゼットなど
①急性中毒
口からでは、嘔吐、不快感、下痢、口腔・咽頭・食道・胃などの痛み、筋肉痛、けいれん。少しすすむと、血尿、乏尿、黄疸。さらにすすむと、咳、痰、呼吸困難、最後には肺繊維症を起こして死亡(軽症はなく、すべて重症)。
②皮膚・粘膜障害
皮膚かぶれ、爪変色、結膜炎、角膜炎、鼻出血。
③慢性中毒
はっきりしていない。
〈有機フッ素剤〉
フラトール、
テンエイテイ、
ヤソキラーなど
①急性中毒(軽い場合)
全身違和感、頭痛、過興奮、情動不安、吐き気、嘔吐、腹痛。
②急性中毒(重い場合)
筋肉のけいれん、てんかん様けいれん、言語障害、心臓障害(不整脈、血圧下降、期外収縮、心室細動)、呼吸障害、低血糖。
③慢性中毒
貧血、心筋変性。
農薬中毒の応急手当
〈口に入ったとき〉
→やかんの水で口をすすぐ
口についたり、口の中に入ったりしたら、すぐに水でうがいをすること。そのために、水を入れたやかんをいつも用意しておくとよい。
→水を飲んで吐きだす農薬を飲んだときは、水や食塩水を コップ2~3杯のませ、指を口の中にさし込んで吐かせる。これを胃の内容物が出てこなくなるまで、くり返す。
→吸着剤を飲んでおく
上のあとに、腸へ入った農薬が吸収しないよう、吸着剤(活性炭またはアドソルビン)を30gぐらい飲ませる。
〈吸い込んだとき〉
→衣服をゆるめて深呼吸させる
すぐに新鮮な空気のあるところへ移し、衣服をゆるめて深呼吸させる。歩かせないことが大切で、保温にも注意すること。
呼吸が弱くてよだれがたまるときは、うつぶせに寝かせて頭を横に曲げ、よだれが口の外へ出やすいようにする。
→呼吸がない場合は人工呼吸する
呼吸が止まった場合は、人工呼吸が必要。
まずあおむけに寝かせ、口の中のよだれをふきとる。首の後ろに手をやってアゴを持ちあげ、口と気管と肺が水平になるようにする。この場合、首をできるだけ後ろへそらし、アゴをひき出すことが大切である。
そして息がもれないよう、鼻をつまんで口うつしで息を吹き込む。
〈皮膚についたとき〉
→石けんでよく洗う
皮膚を石けんでよく洗い、付着した農薬を除去する。アルカリにあうと分解してしまう農薬も多いので、普通の石けんを使うのが一番よい。
少なくとも15分くらいかけて、よく洗う。
→衣服についたときはすぐ脱ぐ
防水性でない衣服に農薬がついた場合には、すぐ下着まで全部脱ぎ、皮膚を石けんでよく洗って、別の衣服に着替える(ズボンに農薬がついたのを、作業が終わるまでそのままにしたため中までしみこんで、ひどい皮膚障害を起こした例がある)。
〈眼に入ったとき〉
→きれいな水でまず洗う
きれいな水の中で、目をパチパチさせる。あるいは、やかんや水道の水を流しっぱなしにして洗い流す。
少なくとも15分間ぐらい洗いつづける。
→洗眼器を用意しておく
できたら、洗眼器をいつも用意しておき、すぐ水で洗う。
洗剤の入っていたポリエチレンの容器をきれいに洗って乾かしたものに水を入れ、洗眼器のかわりにするのもよい。
→手で眼をこすらない
このさい大事なことは、決して手でこすったりしないこと。ガーゼでかるく眼をおさえて、早めに専門医の診察をうける。
散布直後の健康チェック
農薬の散布時には必ず健康のチェックをする(下の表を参照)。
〈散布前のチェック〉
頭が痛いなどの症状がひとつでもあれば、散布作業をしないほうが安全である。
〈散布中・散布後のチェック〉
どのような症状が出たか、チェックしてみよう。
●症状が少しでも出たら(軽症)
頭痛や、頭が重いという症状が出たら、中毒症状のはじまりと考えてよい。すぐ散布の仕事をやめるか、だれかと交代すること。
●中等症以上にすすんでいるとき
体力を消耗させないように、自分で歩かせないで、まわりの人が静かに安全な所へはこぶことが大切。そして衣服をゆるめて静かに寝かせる。
できるだけ早く医師にみてもらうこと。
●皮膚や目の症状がおきたとき
皮膚がかぶれて赤くなったとき、軽い場合には、副腎皮質ホルモン入り軟膏などを使う。また、その上から冷湿布する。
目が痛いとか赤いという場合、やたらにそこをきたない手でこすってはいけない。角膜にかいよう(潰瘍)ができていることもあり、こすると感染を起こして、かえって悪くなるからである。
症状が重いときは、皮膚科や眼科専門医の診断を受けたほうがよい。
一般の病院にかかる場合の注意事項
病院にかかるときは、次の事項をよく確認して、受診していただきたい。診断や治療の大きな助けになろう。
〈事故発生の状況〉
①農薬の調製中か、散布作業中か(ハウスなどの施設の中か)、あるいは散布後に症状が出たか、防具の着用はどの程度であったか。
②散布中でなければ、どのような状況であったか(たとえば、散布後の畑に入ったとか、他人の散布した農薬がかかったとか)。
③誤飲、誤用か(農薬と知らずに飲んだか、皮膚にかけたか)。
④自殺企図か。
〈農薬の種類、剤型、濃度と摂取量〉
①農薬の種類、名前(できれば、使用した農薬の空きビンや袋、あるいはラベルを持っていく)。
②農薬の剤型(乳剤か、水和剤か、粉剤か、粒剤か)。
③濃度、希釈倍数(原液か、500~2,000倍に希釈したものか)。
④摂取量(口から飲んだとき)。
⑤散布中の中毒の場合、散布の量と時間。
〈中毒症状が出るまで〉
①散布を始めてから、症状が出るまでの時間。
②口から飲んだときは、その時刻と中毒症状が出るまでの経過時間、また嘔吐したかどうか
■執筆 松島松翠(長野県厚生連健康管理センター)