●働きやすい新樹形,隔年結果を克服する高品質・安定生産技術を大特集
低樹高・省力新仕立て法,わい性台木や植物調節剤の利用,傾斜地の園地改造(カンキツ),摘花・摘果,受粉作業の省力技術などの新研究・新技術
カンキツ:注目のヒリュウ台木の使いこなし方と植物調節剤の利用法
リンゴ:青森県成田行祥氏の斜立仕立ての実際を詳細に解説
モモ:「低樹高栽培」を新設。主幹形,大草流,大藤流,Y字仕立て,棚仕立て,わい性台木など一挙収録
ナシ:2本主枝一文字整枝,2本主枝H形整枝など省力新仕立て,結果枝を安定して確保できる「幸水の摘心栽培」や花芽の安定確保をめぐる新研究
●産直・直売時代を迎え撃つ…多彩になった品種の情報と鮮度保持技術を全面改訂
図1のモモ園は,兵庫県佐用町の定年帰農グループ「佐用ピーチ倶楽部」が栽培している,樹高3.5mの主幹形低樹高栽培園である。オーナー制度に取り組むために1樹当たりの果実数が100個ほどになる主幹形を導入したのだが,新梢の連続摘心と夏季剪定で樹勢を制御することで低樹高化を実現している。水田の鋤床層で根圏が制限されたことも幸いした。主幹から直接,側枝や結果枝を配置する単純な仕立て法なので,定年退職したばかりの果樹栽培未経験農家でも容易に取り組むことができた。
従来,果樹栽培は難しく,熟練した農家でないと取り組めないとされていたが,追録16号は,各地で開発されている初心者や高齢者,女性でも取り組めるさまざまな栽培法を紹介する。
●モモ・低樹高栽培
「低樹高栽培」のコーナーを新設。
山梨県の「大藤流」「大草流」,長野県・千野正雄氏が開発した「斜立主幹形整枝」,山梨果樹試が開発した「Y字形仕立て」(図2),そして九州各県で導入が進む「平棚仕立て」など,現在各地で取り組まれているモモの低樹高栽培の実際を詳細に解説。
その他,実用化が期待されている「枝垂れ性品種」(果樹研・八重垣英明先生)や,各種わい性台木の特性と穂品種との相性に関する最新研究(岡山大学・久保田尚浩先生)を収録。
●リンゴ・斜立仕立て
傾斜地でも快適に作業ができるマルバ台開心形での懸崖仕立て(図3)を考案した,青森県平賀町の成田行祥さんの事例を収録。わい化樹では,「斜立・L型2本主枝仕立て」→「斜立V型」→「垣根仕立て」へと発展。早期多収が可能な独特な大苗養成法なども紹介されている。
●ナシの省力整枝法「2本主枝一文字整枝」「2本主枝H形整枝」
2本主枝一文字整枝は,千葉県のナシ農家が開発した,2本の主枝を直線的に配置して,亜主枝を設けずに主枝から側枝を直接とる仕立て法(図4)。苦労してもなかなか整えるのが難しい亜主枝が不要なので,剪定作業が単純になり,雇用労力も導入しやすい。また,人工受粉,摘果などの作業時間も大幅に削減できる。
H形整枝は,千葉農試が開発した一文字整枝の改良版で,一文字整枝で問題になる,成木後の主枝基部付近から発生する側枝の強大化を回避できる(図5)。2本の主枝からそれぞれ2本の亜主枝を出してH字形に配置し,側枝を亜主枝と直角方向に誘引するもの。
●ナシ・着花管理の新技術
腋花芽の着生が不安定な‘幸水’で,長果枝を長年利用する方法が開発された。群馬園試の吉岡正明先生が開発した「摘心処理」である。すべての側枝で,先端部から発生した新梢2本を残し,そのほかは果そう葉を残して摘心することにより,安定した結果枝更新サイクルが確立できる(長果枝50%,2年枝30%,3年枝20%が基準)というもの。
ナシの花芽形成の機構については,新梢の誘引処理や夏季剪定などの栽培管理と花芽形成との関連が詳細に解明され,抗オーキシン・サイトカイニン物質など花芽形成を促進する植物ホルモン(マレイン酸ヒドラジッドなど)も特定されている(果樹研究所・伊東明子先生)。
●カンキツーヒリュウ台を使いこなす
カンキツでは,高糖系カンキツを中心にわい性台木のヒリュウ台が導入されている。糖度が上りにくく隔年結果しやすい肥沃な土壌で樹勢を落ちつかせ,高品質果実を生産するために導入されているのだが,失敗も多いようだ。そこで,1)直根が少なく細根の比率が高いため,本格的な結実開始までは摘蕾・摘果を行なって,樹高が1.6~1.8m程度まで樹冠の拡大に努める。2)11月下旬までには収穫し,その後ただちに施肥をする。降雨がなければ灌水して樹勢を回復させる,などヒリュウ台を使いこなす方法を実践的に紹介していただいた(「カンキツ台木の作用機作と栽培管理」(果樹研・緒方達志先生),「有望台木の特性と利用―ヒリュウを中心に」(果樹研・高原利雄先生)。
●植物調節剤を使いこなす
摘花・摘果,衰弱樹の樹勢強化,さらには品質向上のためには植物調節剤の利用は欠かせない。しかし,効果が安定しなかったり,連用によって根部の発育が悪化して樹勢の低下をまねいていることも多いようだ。そこで鈴木邦彦先生(果樹研)と河瀬憲次先生(河瀬技術士事務所)に,植物調節剤の効果的な利用法について全面改訂をしていただいた。
新梢の発生を促すために「減花」剤としてジベレリンの利用が広がっているが,高価なのが欠点であったが,マシン油と混用すれば低濃度でも効果が上がるなど,植物調節剤の効果的でコストがかからない利用法を詳細に解説。
なお,西洋ナシでもエテホン液が摘花剤,摘果剤として農薬登録された。散布適期,濃度,品種による効果の違いなど詳細に検討されており,新規に加えた(青森畑作園試・高田睦先生)。
●各果樹で長期保存が可能になった果実の鮮度保持・貯蔵技術
広範に使用されるようになった「MA包装」(技術会議・長谷川美典先生)では,続々と登場する各種機能性フィルムの使いこなし方などを詳細に解説。また,オウトウで1か月,モモで1.5か月,ナシで5か月など長期保存が可能になった負イオン+オゾン混合ガス併用冷温高湿貯蔵(0℃,95%)法も紹介。このように貯蔵技術の開発は目覚ましく,最新の研究に基づいて「貯蔵の基礎」も全面改訂した(以上,果樹研・田中敬一先生)。
●雹害への実践的な対処法
ここ数年雹害が多発し,各地で甚大な被害を及ぼしている。傷口からの水分蒸散を防ぐための蒸散抑制剤やガムテープの利用,着果調節,施肥法など降雹後の対処法を果樹研の鈴木邦彦先生に詳細に解説していただいた。
●省力化を実現する「園地改造」を新設
これまでも各地で園地改造が取り組まれており,作業の省力化はもちろん,品種管理の面でも高い成果を得てきた。しかし,従来の方法では,急峻な園地ではなかなか導入できなかった。今回の追録で紹介したのは,旧四国農試で取り組まれてきた,低コストで,傾斜25度以上の急傾斜地園でも導入可能なさまざまな園地改造法を紹介していただいた(技術会議・長谷川美典先生ら)。5馬力の狭幅作業道造成機を利用した,狭幅作業道と組み合わせたモノレール園の造成法。縦方向だけでなく,横方向にも機動力が広がり,荷物の積下ろしが簡易に行なえるプラットホームを取り付けた多目的モノレールシステム。傾斜地園の保全法(多年生草種の利用など)や,3次元の立体画像を使った複雑な園地で園内作業道を設計できるパソコンソフトなど。
●産直時代に対応した品種情報の改訂
リンゴは早生,中生,晩生ともに個性的で,高品質新品種が揃ってきた。ナシは‘二十世紀’‘幸水’‘豊水’の三水の時代が続いてきたが,‘南水’など新品種を導入する産地が多くなっている。耐病性品種など有望な新品種が次々と登場しており,育種の最新の動向も含め全面改訂した。
●カンキツの新栄養診断法
冬季の根のデンプン含有率で樹体の栄養状態を把握する方法(静岡柑橘試・杉山泰之先生)。ヨウ素比色法,ヨウ素デンプン反応による方法など簡易な診断法が開発され,果樹でも栄養診断に基づいた的確な栽培管理が行なえる道が拓けてきた。