●手間で稼ぐ,高齢者にぴったりの品目「ナバナ類」コーナー新設
●話題の「カラーピーマン」の最新研究と農家事例,さらにはジューシーで甘い,新用途のタマネギ「サラたまちゃん®」,短根の「サラダゴボウ」の産地事例,ジネンジョ・パイプ栽培の最新技術
●環境にやさしい灌水同時施肥栽培,ハイガターベッドの最新フェンロー型温室栽培事例(トマト),話題のイチゴ新品種‘さがほのか’情報など
元気な産地にはそれなりの理由がある。今回の追録では,ますます元気な個性的な野菜とその産地の取組みを紹介している。その着眼点は,高齢者と女性を主役にした品目選び,新しい需要を開拓する品目選びと技術開発,そのための作業の工夫が絶えずなされていることである。まずは,今回の追録でとりあげた,カルシウムや鉄をたくさん含んでいる健康野菜として人気の高いナバナ類(第7巻)を紹介する。
●高齢者と女性が主役のナバナ産地
千葉県JA君津の天羽園芸部会。平均年齢65歳のナバナ産地である。最高齢の部会員はなんと80歳を超える。1人1人の栽培面積は小さいが,手間をしっかりかけて調製し,単価で稼ぎ出す。蕾が見えるか見えないかの状態で収穫し,きちんと束ねて,大田市場で平均800円/kg。10a当たりの粗収入は40万円をゆうに超える。
部会長の石井英さんのペットボトルを利用した播種機(写真1),調製のときの束づくり用の枠(写真2)など,作業がはかどるように工夫された高齢者ならではの産地技術(写真3)も紹介している(西村良平氏 地域資源研究会)。

写真1 ペットボトルを利用したナバナの手づくり播種機

写真2 ナバナの束づくり用の枠
手前のものは花蕾を揃える側にアクリル板が貼ってある

写真3 ナバナの点播器「ハンドシーダー」
●冬の間の空きハウスを利用したナバナ産地
キュウリ栽培のパイプハウスの空き期間を利用したナバナ産地が,岩手県水沢市の農家グループの取組みである。品種は,東北農業試験場が育成した‘はるの輝’。収量1,500kg/10a,kg単価600円で,粗収入はなんと90万円。冬場の稼ぎとしては十分な額だ。
リーダーの高橋典雄さんは,ハウスが空く10月下旬から3月上旬までをナバナ栽培にあてる。低温要求量が大きいこの品種を,野菜の予冷やお米の貯蔵に使っていた簡易予冷庫を用いて「春化処理」することで,12月下旬~翌3月収穫を実現している(高橋守氏 岩手県農業研究センター)。
ナバナ栽培は全国的に増えているが,その品種の特性はさまざまである。それらの特性を石田正彦氏(野菜茶業研究所)に整理していただいた。各地のナバナ産地の品種選択と作型,また,使用可能な農薬や各地の栽培技術や荷姿など,ここまでまとめられた情報は他に類を見ない。
カラーピーマンを経営内充実品目としてとらえたのが,第5巻に収録した宮崎県の斉藤芳和さんの事例である。ピーマン栽培の停滞を打ち破るべく,ピーマン栽培の一部をカラーピーマンに転換して成功している経営と技術は見事である(深田直彦氏 宮崎県総合農業試験場)。
話題先行のきらいがあるカラーピーマンだが,それを経営的に安定させるには何が必要か? また従来の軒の低い施設を生かすための斜め吊り下げ誘引(写真4)や省力化を目指したネット誘引など,未熟果で収穫していたピーマン栽培とは決定的に異なる生育の見方と管理方法は必見である。樹勢の見方,生理障害の情報など,ナバナと同様,ここまでまとまった情報はない。

写真4 従来の施設を生かすピーマンの低樹高ハウス
そのほか,カラーピーマンでは三村裕氏(京都府農業資源研究センター)による総論に加え,各県連絡試験でまとまってきた「土耕栽培」と「養液栽培」の最新研究成果を,井上恵子氏(福岡県専門技術員)と山本正志氏・前田幸二氏(高知県農業技術センター)にまとめていただいている。
なお,第5巻と第7巻には新しくカラーピーマンとナバナのコーナーをつくり,カラー口絵も追録したので,ぜひご覧いただきたい。
●ゴボウを短くしてサラダ用に
ゴボウは長くて真直ぐ…そんなイメージをひっくり返したのが,宮崎県の(有)新福青果の「サラダ用ゴボウ」。新福青果は今年の全国農業コンクールでのグランプリと毎日農業大賞の受賞でご存じの方も多いと思うが,野菜を海外に輸出する革新的な取組みなど,話題満載の農家である。
どんなに努力しても短いゴボウにしかならない土地もある。それを何とかしたくて,社長の新福秀明さんはカット工場をつくり,短いゴボウだってカットしてサラダ用にすればいいじゃないかと販売に挑戦する。その努力が実って販路が安定し,地域の農家が頑張ってつくった農産物を,既存の市場では相手にされないものでもすべて引き取ることができるようになった。また,地域の高齢者・定年退職者で構成する(有)宮崎アグリサポートも創設。定年後,地域で農業をやってみたいという人をも巻き込んだ展開が進められている。
詳細は本編をお読みいただきたいが,青果物を販売先の仕様に併せて調製・加工・パック詰めするパックセンターの体制と施設は見事。トレーサビリティのシステムなど,読みどころ満載である(第12巻 大塚寛治氏 九州沖縄農業研究センター)。
●超極早生品種を使ったジューシーで甘いタマネギ生産
発想を変えて売れ筋野菜となったもう一つが,極早生の品種を使って,辛味の少ないサラダ用タマネギとして,そのブランドを確立した熊本県芦北地域の「サラたまちゃん部会」の取組み(第8-(2)巻 福永博文氏 熊本県芦北農業改良普及センター)である。
水田裏作を利用した日本一の早出しタマネギ生産で,従来のタマネギのイメージをひっくり返した。辛味が少なく,ジューシーで甘いタマネギ。それをサラダ用タマネギとして売り出したのである。商品名は「サラたまちゃん®」。葉を切り落としたものと,葉付きのもの(写真5)で販売。現在,部会員150名,作付け面積80haで,販売金額は3億円に達している。

写真5 葉付きサラたまちゃんの荷姿
茎も食べられる
平均年齢は65歳を超える。ここ数年は,定年退職後の新規就農者も参入してきている。
この産地の魅力は超極早生種を使った早どり栽培だけはない。太陽熱消毒,生分解性マルチの導入,播種時期の厳守,除草剤の不使用,消費者との交流など,環境に優しく,楽しみもつくり出す産地づくりが結束を強めている。
産地としても,「サラたまちゃん®」以外にも,葉タマネギ,ペコロス栽培,お歳暮用のセット栽培,長期保存用と,地域をあげて周年出荷に取り組んでいる。
旧来の発想を変えることで,高齢者地域の担い手となり,販売の道も開拓していった取組みは,これからの野菜産地づくりに大きなヒントを与えてくれている。
春まき秋どりの大産地である北海道の大規模タマネギ栽培技術についても全面改訂を行なったのでぜひご覧いただきたい(第8-(2)巻 室崇人氏 北海道農業研究センター)。
施設栽培は環境制御技術がさらに深化している。今回の追録では,複合環境制御を駆使したハイガター型のフェンロー型施設栽培(写真6)。大規模露地栽培では,センサーを駆使した精密農業の成果を収録した。

写真6 ハイガターベッドに仮植した状態
本定植位置をわきのフィルム土に置く。ドリッパーと倒伏を防ぐ竹串を刺す
●ハイガターベッドのフェンロー型施設トマト栽培
大型のフェンロー型温室の導入がすすんでいるが,そのなかでももっとも最新式といわれているハイガター栽培ベッドを導入した「(有)とまとランドいわき」を紹介した(第2巻 常磐秀夫氏 福島県農試いわき支場)。6億7000万円を投入した2.4haのこの大型施設は海外からの導入施設であるが,環境を複合制御するためのさまざまな取組みがなされている。換気は,換気開始温度のほか,日射量,湿度,光の強さ,風速,風向,スクリーン開度などの細部苦木がかかわっている。暖房,給液,CO2濃度などにかかわる細部項目の詳細が明らかになった。この記事では,海外導入の環境制御技術だけでなく,とまとランドいわきで工夫されている,施設内の温度設定,給液濃度の設定など,日本型技術の創造に向けての情報は大変に貴重である。
なお,大型フェンロー型ハウスの事例として昨年の追録28号で収録した宮城県の「(有)サンフレッシュ松島」(第2巻)もあり,比較してみると興味深い。また,基本的な研究として,「大規模化,周年利用に向けた温室構造と環境制御」(第12巻 石井雅久氏 農業工学研究所)や「細霧冷房による地上部環境制御」(第12巻 林真紀夫氏 東海大学)などもあり,併せてご覧いただきたい。
●センサー利用のキャベツ直播栽培
北海道十勝地方の大規模畑輪作地帯で検討されている技術である。畑作に導入されてきた野菜作だが,出面さん(雇用労働)を確保するのが難しくなってきたなかで検討されているのが,直播栽培であり,直播でありながら機械収穫が可能な栽培体系の開発である(第7巻)。品種選択,種子の選別,播種深度,栽植密度,雑草の処理方法など,移植栽培と同等の収量性を確保できる。
この栽培体系でもう一つ注目しておきたいのが,個体別生育モニタリングによって生育のバラツキを確認する技術開発の進歩である。それをパソコンに画像として記録することができるシステムは,今後の可能性を感じさせてくれる(山縣真人氏 北海道農業研究センター,八谷満氏 生物系特定産業技術研究支援センター)。
●灌水同時施肥で環境保全
予想したほどの大きな伸びが見えない養液土耕栽培だが,じょうずに生かすことによって施肥を大幅に減らし,環境にやさしい栽培が可能なることを示してくれているのが千葉県の富塚重雄さんをはじめとするJAグリーンウェーブ長生のトマト栽培である(第2巻 若梅均氏 千葉県長生農林振興センター)。窒素施用量は,メロン後に栽培した当初は6分の1に。現在でも基肥なしでスタートし,窒素施用量は半分くらいですんでいるという。
原水に重炭酸が多く含まれているこの地域での灌水チューブの目詰まりを防ぐ養液の配合技術,JA育苗センターから供給される稚苗を使った直接定植の管理方法(写真7)など,緻密な管理技術の記述は大いに参考になる。

写真7 トマトの直接定植とpFメーターによる水分管理
追録27号で養液土耕栽培コーナー新設し(第12巻),各作目での栽培事例を収録したが,併せてご覧いただけると示唆に富んでいる。
*そのほかにも,やっと県外へも開放することになったイチゴの新品種‘さがほのか’の品種特性および栽培技術の詳細な記事(第3巻 豆田和浩氏 佐賀県農業試験研究センター)。目標とする草姿,果実による診断と対策など,図も魅力的である(図1)。また,直売所でも大人気のジネンジョで大問題になっているウイルス病に対してウイルスフリー苗を供給するシステムとその技術(第10巻 飯田孝則氏 愛知県西三河農林水産事務所),ジネンジョのパイプ栽培(政田敏雄氏・岩政幸人氏 政田自然農園)の改訂などを収録している。

このほか,第3巻 イチゴ基礎編(織田弥三郎氏),第6巻 セルリーの品種利用と作型(塩川正則氏),第8-(1)巻 ニンニクのウイルス病対策(庭田英子氏・忠英一氏)なども改訂。