●観光農園,新規就農者,作業の改善など,多様なねらいで急増するイチゴの「高設栽培」。どんなシステムが伸びているのか? システムの特徴は? 価格は? 農家事例も収録。
●これまでほとんど明らかにされてこなかった,海外から施設・技術ともに導入されているフェンロー型大型温室の実態に迫る。プロ農家必見!
●昨年のキャベツに続き,今追録ではもっともポピュラーな野菜のダイコンとニンジンで,生育段階ごとに作業を解説していくコーナーを新設。
その他,減農薬を実現する,施設内での一時的高温(熱ショック)による病害虫防除技術,イチゴの炭疽病抑制技術,キュウリでのeネット栽培などを収録。
昭和47年,『農業技術大系野菜編』は野菜の周年生産と新しい産地形成に向けて,指導者や産地リーダーへ,栽培技術の確立と定着をめざす最新情報を年1回のペースでお届けする加除式の本としてスタートし,以来,追録も28回を重ねてきた。
この間,野菜生産をめぐる状況は大きく変化してきた。海外からの生鮮野菜輸入の常態化,国内産地の担い手の高齢化,大型施設の導入による周年栽培,一方で,高齢者や女性たちによる産直・加工と結びつけた,新しい少量・多品目・高品質生産産地も登場してきている。
「野菜編」はそうした状況に応えるため,追録によって中身を大幅に変えてきた。
高齢になっても女性でも続けられる,体がラクでしかも働きやすい省力・小力的な技術の追求 育苗法,耕起法,栽植様式,整枝法,栽培システムなど,これまで以上の収量・品質を実現できるラクラク栽培情報を収録。
直売所や産直での販売を目指す農家への情報の重視 品目では,第11巻の「地方品種」に加えて,ここ数年の追録で,ギョウジャニンニク,ウルイ,コシアブラ,ズッキーニ,ニガウリなどの詳細な栽培法。第5巻のナスでは,独自に在来種・地方品種の個性的技術も紹介。もう一つは機能性情報の充実である。野菜の種類や品種からみた機能性成分など,直売するときのワンポイント情報として生かすことができる。
従来の作型別技術編成を替え,生育段階ごとに,生育診断と栽培管理,作業方法を解説 生育診断を重視してその生育に応じた手の打ち方がすぐにつかめる編成に一新。高齢者や女性,初めて取り組もうとする新規就農者にとっても使いやすい構成と内容になっている。
〈改訂品目〉キュウリ(第1巻),トマト(第2巻),イチゴ(第3巻),メロン・スイカ(第4巻),ナス・ピーマン(第5巻),レタス(第6巻),キャベツ・ホウレンソウ・コマツナ(第7巻),ネギ(第8-(1)巻),アスパラガス(第8-(2)巻),エンドウ・インゲン・ソラマメ・エダマメなどマメ類(第10巻)が終わり,今追録で,ダイコン・ニンジン(第9巻)が加わった。
プロ農家に向けての新システム,新技術,環境負荷を減らす技術の追求 追録26号では第12巻「養液栽培」の改訂,27号では新しく「養液土耕栽培」を設け,今追録では「環境制御」のコーナーを設けて,話題を呼んでいるフェンロー型大規模温室を軸に,環境制御の最新研究と現場での技術を収録。
追録によって「野菜編」は,プロ農家から,高齢者,女性,新規就農者まで,幅広い担い手による新しい産地づくりを応援する内容に生まれ変わった。以下,今回の追録28号での内容を紹介する。
イチゴを中心として,「高設栽培」は全国的に広がっている。今追録で,各県の専門技術員および試験場の先生方の協力を得て,それぞれの県で導入されているシステムとその特徴,導入農家戸数,面積などを調査していただき,その結果を「イチゴの高設栽培・都道府県別普及状況」(第3巻)として収録した。システムの多様さに驚かされるが,観光イチゴ園での導入,イチゴ栽培農家の様式転換,また新規就農農家など,導入した農家も多様である。
高設ベッドの材質,培地の種類,培地量,栽植密度,肥培管理,培地加温の有無,導入経費などの詳細な情報は,これから高設栽培を導入しようと考えている人には大いに役立つ情報であろう。
各県で独自の高設システムが開発されている。普及面積でみると,香川県開発の「らくちんシステム」,長崎県開発の「長崎方式」,次いで愛知県の「ゆりかごシステム」が続く。今追録で愛知県の「ゆりかごシステム」を,齋藤弥生子氏(愛知県総農試)に紹介してもらった(第3巻「プランター栽培システム=愛知方式」。香川方式,長崎方式は第3巻にすでに収録済)。
高設栽培の実例として,愛媛県の農家,赤松保孝氏考案「るんるんベンチ」を,芝一意氏(宇和島中央農改普及セ)に執筆をお願いした。10a当たり100万円以下でできるシステムとして,県を超えて広がりつつあり,話題を呼びそうである。施設の設計,施工まで自力で行なうため,詳細な施工写真も含めて,イチゴの栽培法を詳述。また,香川県「らくちんシステム」についても,リーダーである岩倉青助氏の取組みを高橋孝明氏(香川県西讃農業改良普及セ)にお願いした。
高設栽培にも弱点がある。ベッドの耕うん作業である。高い位置にあるだけに,耕すのが大変だし,機械を使うにしても安全性が問題となる。今追録で,高設栽培のベッドを耕す小型耕うん機情報を藤原正志氏(みのる産業)に紹介してもらった。
キュウリの疎植・側枝片側誘引
「高設栽培」のように栽培システムを変えることによる作業改善もあるが,栽植密度や整枝法を変える手法もある。今追録で収録したキュウリの「疎植・側枝片側誘引」(第1巻,金井幸男氏 群馬県農業技術セ)は,受光態勢と作業効率を向上させるために,通路数を減らして通路幅を広くとって側枝を片側のみに誘引する技術である(図1)。写真1,2のように,作業中も葉に触れることがなく衣服の濡れもなくなる。収穫・葉かき・防除などもうんとラクに。作業時間も,慣行様式(1,200株/10a)に対して側枝片側誘引(720株/10a)では87時間の短縮(抑制栽培)となっている。収量も増えているから,実に魅力的な技術である。



このほかにも,これまでナスの一文字整枝法(第5巻「仕立て方と生育・収量,作業性」,宮本重信氏 元奈良県専門技術員),ソラマメの一条L字仕立て(第10巻「整枝・誘引と作業の省力化」,東郷弘之氏 鹿児島県農試),ピーマンの主枝1本仕立て(第5巻「仕立て方と生育,収量,作業性の違い」,石井亮二氏 茨城県江戸崎農業改良普及セ)など豊富に収録している。
イチゴ栽培では,育苗のための圃場を準備するのが大変であった。それなら親株から出るランナーを苗にしてしまおうというのが,「栽培株からの採苗による低コスト体系」(第3巻,内藤雅浩氏 山口農試)である。親株床にかかっていた作業が一切なくなるから,大幅な労力削減になるのはもちろん,雨よけ状態での採苗だから,炭疽病にかかりにくい利点もある。高設栽培での採苗法も紹介されており,実際のやり方も詳しい。
ちなみに,今追録ではイチゴの炭疽病について,「炭疽病の減農薬防除と病害抵抗性育種」(第3巻,森利樹氏 三重県科学技術振興センター),「底面給水による雨よけ高設ベンチ―ノンシャワー育苗」(第3巻,越川兼行氏 岐阜県農技研)も収録されている。ぜひご一読を。
やはりイチゴでの例だが,うねを壊さずに連続利用することでぐんとラクにする技術もある。愛知県のイチゴ名人藤江充氏の技術を,齋藤弥生子氏に紹介していただいた(第3巻「とちおとめ・連続うね利用栽培」)。全国的に注目を集めている技術で,作業がラクになるのはもちろんのこと,施肥窒素量は半減。4作続けても物理性の低下は見られず,毎年10a当たり6t以上の収量を維持。
耕し方による省力技術はこれまでもたくさんある。「トマト,キュウリの不作畦栽培」(白木己歳氏 宮崎県総農試 ),「不耕起・平うねでの連続栽培」(時枝茂行氏 兵庫県立中央農技センター)ほか,「土壌施肥編」にも「不耕起栽培での生育と施肥―春・夏季コマツナ」(野呂孝史氏,東京都農試),「硬い土壌(うねなし)での生育・収量」(白木己歳氏 宮崎県総農試)など,いずれも力作揃いである。
冒頭で述べたように,7年前の追録22号から,これまで17品目にわたって作型別の技術解説から生育段階と作業に併せた編成に改訂してきた。今回の追録では,ダイコンとニンジン(第9巻)である。「栽培の実際」というコーナーを設け,川城英夫氏(千葉県農総研)にまとめていただいた。「生理・生態を生かす栽培の基本」で,栽培場面での各技術と,なぜそうするのかということを生理・生態をおさえながら実践的に追求し,品質向上(機能性も含む)と結びつけた記述とした。また,「栽培のポイント」では,一番栽培しやすい時期と作型を例にして,基本的な作業を解説。ここを見るだけで,ダイコンづくり,ニンジンづくりの基本とその技術がわかる。
もう一つ重視しているのが,内容成分(機能性)である。今追録でも,ダイコンでは,辛味成分,糖,ビタミンC含量,ニンジンではカロテン,糖,揮発性成分(ニンジン臭)などについて,どうすれば内容成分を豊かにできるのか,栽培条件や品種との関係から明らかにしていただいた。
生理・生態を栽培の側に引きつけて解説した記事は,これまでになかったスタイルである。農業大学校の生徒さんや新規就農者にとって,栽培を学び始めるための基本となる貴重な情報となるはず。ぜひご活用ください。
大規模温室が増えてきているなか,とりわけ話題を呼んでいるのが,構造材が細く光環境に優れるといわれる高軒高のフェンロー型温室である。他業種からの参入,たとえば工場の海外移転敷に伴ってその跡地に会社が2haの大型フェンロー型温室をつくって農業に参入したとか,話題には事欠かない。「野菜編」ではすでに,追録22号で静岡大学の糠谷明氏に「オランダタイプの栽培システム」(第2巻)として,オランダでの技術とわが国への導入第1号である香川県大川北部温室トマト生産組合の事例を紹介していただいている。
今回の追録で,大型温室の環境制御という観点から,温度管理,湿度管理,養液管理など,基礎的な研究と実例に基づいて追求を開始した。
換気という面から石井雅久氏(農工研)に,フェンロー型温室,屋根型解放温室の環境についての基礎的な知見,温室メロン栽培の本場静岡県で,フェンロー型温室を利用した温室メロン栽培での研究成果を大須賀隆司氏(静岡県農試)に(いずれも第12巻)。
フェンロー型温室の実践事例として,戸祭章氏(仙台農業改良普及セ)に,年1作,28~29段で10a当たり30tの実績を上げている宮城県「(有)サンフレッシュ松島」の取組みを紹介していただいた。収量培養液管理の独自な工夫,温度・湿度管理,炭酸ガス施用などなど,オランダと松島町の気温や日照を比較しながら,収量や経費などの面も含めて,まとめていただいた(第2巻トマト農家事例)。現在,宮城県内の仲間と,JAの枠を超えた「サンフレッシュトマト生産部会」が設立され,全農経由で共通ブランド「サンフレッシュトマト」の販売が始まっている。
周年生産の問題は,夏場の高温をどう制御するかである。今追録で,林真紀夫氏(東海大学)に,「細霧冷却」による温度制御の詳細な報告をまとめていただいた。また,パソコンを使って,外気乾湿球温度条件などを入力することで,画面上に細霧ノズルの設置数や細霧噴霧量を決めるためのVETH線図を簡単に描くことができるプログラムも紹介していただいている。希望者には配布していただける。朗報である(第12巻)。
従来は作物が栽培されていない状態で行なわれていたものを,作物の立毛状態で行なおうという技術である。佐藤達雄氏(神奈川県農総研)は,作物へのダメージを最少に抑えながら,害虫や病原菌を抑える温度と暴露時間を,キュウリの場合は「45℃,1時間」と報告している(第1巻)。ミナミキイロアザミウマ,オンシツコナジラミ,ハモグリバエなどの害虫,うどんこ病やベト病などの病原菌に効果がある。
おもしろいのは,熱ショックによって抗菌活性が高まったり,細胞壁を木質化して,害虫に対する防御反応起こるという指摘。植物の秘めた力に驚きである。
福島県の夏秋キュウリ産地で問題になっていた急性萎凋病に対して,農家とJAと普及センターとが共同で開発した技術である。目合い1mmのネットを,従来の支柱の外側に簡単なパイプ支柱を組んで浮きがけするという方法である。
生育期間中の管理作業をしやすく,しかも防虫ネット内にマルハナバチやミツバチを導入して流れ果や尻細果を出さないという実践的な技術で,殺虫剤は慣行14回に対して0~2回に激減。急性萎凋病は皆無となった。

「みんなの役に立つのなら」と大橋金光氏(福島県安達農業普及所)にまとめていただいたものである(第1巻)。
そのほかにも,イチゴの新品種‘濃姫’‘アスカルビー’‘さつまおとめ’の「生理・生態と栽培技術」,夏秋出荷を目指すイチゴの短日処理による栽培などを収録した。