被覆資材の大幅追録,養液土耕栽培一気収録


●減農薬・無農薬の重要な資材となってきた防虫ネットや紫外線カットフィルムなどの被覆資材の大幅追録,さらには話題の生分解性マルチについて,最新研究成果を収録!

●2002年版・追録第27号は,高品質でしかも環境への負荷の少ない技術として注目され,広がりつつある「養液土耕栽培」を,第12巻に新コーナーとして一気収録!

●その他,キャベツ(第7巻)の全面改定,特産野菜として人気沸騰のニガウリ,ウルイ(第11巻)を農家実例も含めて大幅改定,さらには新しく話題の山菜コシアブラも収録!


プロ農家から高齢農家,女性,定年帰農まで 生まれ変わった「野菜編」は日本の環境に優しい低コストの安全野菜づくり!

〈高品質と低コストの同時実現〉

 これまでの5年間の追録で,第1巻キュウリ,第2巻トマト,第3巻イチゴ,第4巻メロン類,スイカ,第5巻ナス,ピーマン,第6巻レタス,第7巻ホウレンソウ,コマツナ,第8巻(1)ネギ,第8巻(2)アスパラガス,第10巻マメ類と,「野菜編」全体にわたって作型別の構成を大きく変え,生育段階ごとに生育診断と栽培管理,作業方法を解説していく編成に全面改訂してきた。今回の追録27号では第7巻の「キャベツ」の項を一新。

 野菜も味・品質・安全性が三拍子そろい,しかも環境への負荷が少ない栽培技術でないと通用しなくなってきた。しかも増え続ける輸入野菜に対しては,価格での勝負が求められている。

 今回の追録は,高品質と低コスト,肥料溶脱や蓄積による土壌の悪化を食い止める技術,食べものの安全性を重点に,最新の研究成果と農家の取組みを大幅に収録した。全面改定したキャベツ(第7巻)では,病害虫対策として「耕種的病害虫防除法」(町田信夫氏 群馬県園試高冷地分場),「性フェロモン剤の利用技術」(豊嶋悟郎氏 長野県野菜花き試験場)を収録した。また,害虫防除については,第12巻に,新しい製品が目白押しの紫外線カットフィルム,生分解性マルチの最新情報,さらには,防虫ネットの実践的利用技術も収録している。未登録農薬問題で産地が揺さぶられているだけに,正しい農薬使用はもちろんのこと,農薬だけに頼らない仕組みづくりが重要である。いずれも減農薬・無農薬栽培に向けての必須資材である。役立てていただきたい。「養液土耕栽培」コーナーも新設した。

 その他,直売所での人気を呼びそうな新品目も収録。

〈環境への負荷が少ない栽培法へ〉

●養液土耕の展開

 第12巻に「養液土耕栽培」コーナーを新設した。養液栽培の代表であるロックウール栽培に比べると導入経費が安く,必要な肥料を必要な時期に必要量,少しずつ施すわけだから,土に残ることもないし,地下流亡することもない。

 広がりが今ひとつだったのは,一つは作物ごとの肥料吸収特性とリアルタイム土壌診断・栄養診断と処方,もう一つは安価とはいっても点滴灌水装置への投資が必要であることと,使用する液肥が高価だったからである。今回の新コーナーでは,そうした弱点を解決すべく,最新の研究成果を基にした肥料吸収特性と土壌診断・栄養診断データ,さらに安価な点滴灌水装置の工夫や,高価な液肥を自作する方法など実践的な記事を満載した。もちろん,最新の機材・資材情報も収録した。

 今回の追録で収録した実践農家の個性的な栽培技術は,養液土耕に取り組もうという方には魅力的である(前表)。研究段階のものとして抑制トマト・促成トマト,長段半促成トマト,ミニトマト,ミディトマトの管理技術を収録。

今回の追録で収録した農家事例

農家

品目

品種

様式と特徴

タイトル

住所

収録巻

津村政数

キュウリ

インパクト

養液土耕栽培:ハウスだけでなく露地の養液土耕も。完熟牛糞堆肥4~5tを隔年施用

インパクト 養液土耕ハウス栽培

香川県

第1巻

曽川政司

トマト

ファーストパワー

養液栽培:保水シート耕応用の高設栽培。若い樹で年中最高の味直売

ファーストパワー・養液栽培による一段密植栽培

宮崎県

第2巻

中村弘吉

トマト

桃太郎シリーズ, ファーストトマト

養液土耕栽培:大型ガラス室での作型組合わせ

桃太郎シリーズ 抑制栽培,ファーストトマト 促成栽培

愛知県

第2巻

小田忠四郎

トマト

桃太郎エイト

養液土耕栽培:雨よけ栽培。堆厩肥毎年5t目標に施用

桃太郎など 雨よけ栽培

広島県

第2巻

湯浅忠重

イチゴ

さちのか

養液土耕栽培:イチゴ―イネの2作体系。籾がら堆肥3t連年施用

さちのか 養液土耕栽培

徳島県

第3巻

石橋一行

イチゴ

とよのか

土耕栽培:愛華農法,高品質安定7tどり。麦わら4t+樹皮堆肥3.3t施用

とよのか 愛華農法

福岡県

第3巻

南蔵王ベリ ーファーム

イチゴ

四季成りイチゴ

養液栽培:高設ロックウール,契約栽培

四季成りイチゴ(ペチカ,夏んこ) 養液栽培

宮城県

第3巻

高橋紀博

温室メロン

雅夏系2号,雅夏系

養液土耕栽培:トマト―メロンの年2作体系。稲わら1tを収穫後施用

夏どり温室メロンの養液土耕栽培

愛知県

第4巻

市川浩章

ナス

千両

養液土耕栽培:切戻しによる2年連続栽培。2年越しおがくず完熟堆肥7~10t施用

千両 養液土耕栽培

徳島県

第5巻

仲間 勲

ニガウリ

群星,汐風

土耕栽培:作型組合わせとインゲン輪作。稲わらマルチ施用

ニガウリ 周年栽培

沖縄県

第11巻

●リアルタイム栄養診断・土壌診断法

 今追録で,養液土耕栽培のコーナーに,山田良三氏(愛知県農総試豊橋農技センター)に「リアルタイム栄養診断・土壌診断の実際」(第12巻)を執筆していただいた。山田氏は,養液土耕で失敗する原因の一つには,土壌からの養分を考えなかったことがあると指摘する。そこで山田氏はトマトとメロンを素材に,RQフレックスによる栄養診断と生土容積法による土壌溶液診断の具体的なやり方とを紹介している。

 まずは測定部位をどこにするかである。図に示したが,トマトでは果実がピンポン球の大きさになった直下葉を選び,その中位にある小葉の葉柄。メロンでは果実肥大初期に着果した果実の直下葉,成熟期も同様である。なおメロンは葉の数が少ないため,葉を採取する代わりに摘果枝を数本残しておき,その葉の葉柄を用いてもよい。次に採取する時間と天候だが,いずれも晴天時の昼間が適当である。もちろん,トマトとメロンについての診断基準値も下の表のように紹介している。

 養液土耕栽培に取り組む農家だけでなく広く役に立つ情報である。ぜひご一読いただきたい。

●新型被覆資材の活用

 減農薬や廃棄物減らしに向けての被覆資材が続々登場している。第12巻で徹底的に追及した。

 紫外線カットフィルム とりわけ効果が大きい波長380nm~400nm以下の近紫外線をカットするPO系フィルムが,近年市販されるようになって注目を集めている。

 高市益行氏(独・農研機構野菜茶業研究所)に,害虫・天敵・病害に対する最新の情報をもとに,使い方の留意点も含めてまとめていただいた(「紫外線カットフィルムの種類と特性」第12巻)。それだけでなく被覆資材がかわることで施設内環境も変化するため,同時に「施設の環境条件と野菜の生育」も全面改定をお願いした。

 生分解性マルチ ポリマルチは産業廃棄物として1997年から適正処理が義務づけられた。そこに登場したのが「生分解性マルチ」で,「使用後は自然界に存在する微生物によって低分子化合物に分解され,最終的には水や二酸化炭素などの無機物に分解される高分子素材」と定義されている。大塩哲視氏(兵庫県立農林水産技術総合センター)に,製品ごとの特性と比較試験,利用事例と留意点をまとめていただいた(「新たなマルチ資材」第12巻)。なお,キャベツでの利用については,小沢智美氏(長野県野菜花き試験場)による「生分解性マルチの利用」(第7巻)も収録。

 防虫ネット 害虫が入らないように作物をネットで覆うという単純な仕組みだがなかなか奥が深い。目合いの選び方,張り方でこんなにも効果が異なるのかとはっとさせてくれる記事だ。田口義広氏(岐阜県専門技術員)は,どう覆ったら効果が高まるのか,図のような張り方の方法を豊富に紹介しながらネット利用の世界のおもしろさを展開し,意外な盲点を浮かび上がらせてくれる。自家用野菜栽培農家からプロ農家まで,必読の記事だ。

〈販売を有利に導く栽培法への挑戦〉

●1年中,糖度7~8以上の高品質トマトを届ける「一段密植栽培」

 直売農家に話題を呼びそうなのが,宮崎県の曽川政司さんが取り組んでいる「養液栽培による一段密植栽培」である(第2巻農家事例)。一段目の果実を収穫し終えたらすぐに次の苗を定植する繰返しによってハウスの利用回転数を上げるこの技術については,昨年の追録26号で岡野邦夫氏(農研機構花き研究所)が「省力・軽作業の一段密植連続養液栽培」で紹介している。その農家実践版が今回の曽川さんの取組みである。

 曽川さんはこの技術を取り入れた動機を,「顧客や販売先から周年おいしいものをという要望があった」と書いている。促成による長段どりでは,樹が若いときと終わりの頃では,当然のことながら果実のおいしさは違ってくる。それに,栄養生長と生殖生長が同時に進むトマトでは,生育のコントロールに繊細な技術が求められる。その点,養液栽培による一段密植栽培では,着果結実までの栄養生長主体の生育ステージと,摘心・着色・収穫までの生殖生長主体の生育ステージに単純化することができるため,生育コントロールがしやすいのが特徴である。

 果実肥大期に食塩を加えて塩類ストレスをかけて糖度をあげ,夏場で糖度7以上,それ以外の時期は糖度8以上を実現している。2年目を経過した今,予想どおり個人宅配と直売所での販売が大きく伸びている。秀品率は非常に高くなり,樹上完熟出荷のスーパーへの販売も好調である。

 この記事は,この栽培方式開発に携わった渡邉慎一氏(独・農研機構野菜茶業研究所)と曽川さんとの共同執筆によるもので,施設設計はもちろん,緻密な栽培管理についても詳細に紹介されており,必読である。

●夏の輸入イチゴに勝つ! 四季成りイチゴ栽培

 旬がなくなった感のあるイチゴだが,いまなお埋まらないのが夏季の高温期を中心とした7~10月の端境期である。ケーキ用の需要は年間とおしてあるため,この端境期はアメリカ合衆国などからの輸入に頼っている。しかし,輸入物は果実が硬くて酸味が強いため,「夏秋期の国産イチゴの生産拡大」への期待は大きい。今回の追録で,夏場の国産イチゴとして注目を集める「四季成りイチゴ」の記事3本を収録した(第3巻)。

 四季成り性イチゴの育種を手がける独・農研機構東北農業研究センター由比進氏・松永啓氏らによって,最新の研究成果を盛り込んだ「四季成り性品種の特性」(改訂),今回の企画のために全県にアンケート調査を行なって栽培面積・品種・作型・課題などをまとめた「四季成り性イチゴ栽培の現状」(新規)を収録した。そのほか,現地事例として,鹿野弘氏(宮城県農業・園芸総合研究所)に宮城県で養液栽培による四季成りイチゴの大規模栽培を手がける「南蔵王ベリーファーム」(代表山口勝敏氏)を紹介していただいた。四季成りイチゴの大規模養液栽培はほとんどないため,貴重な情報となるはずである。

●多収と味と品質の限界に挑むイチゴ栽培

 九州を代表するイチゴ名人といえば福岡県の石橋一行さんである。‘とよのか’で規格内収量7tもすごいが,石橋さんによれば「とろうと思えばもっととれるが,これくらいで高品質のイチゴを気楽につくるほうがいい」とのこと。管内平均収量の40%以上も規格内収量が多いことが明らかになり,しかもA品比率が高かった。

 きっかけとなったのが,「愛華農法」という独特の資材群を駆使した栽培法である。小柄だが葉が厚く,草勢の衰えがないため,1番果,2番果の谷間がない。石橋さんのイチゴを一度見てみようという人が後を絶たないが,皆見学に来るのはその収穫の谷間の時期。自分の目で見てその成りっぷりに驚くという。

 この3年間,石橋さんのイチゴを見続けた川崎重治氏(生態園芸研究所)に,その技術のすべてを明らかにしていただいた。薬剤の散布回数も減り,薬剤費も30%ほど節減できており,市場も注目している。なお,その資材については『土壌施肥編』第7-(2)巻に収録している。

〈新品目で顧客をつかむ〉

●人気の山菜 コシアブラ,ウルイ,ギンボ

 知る人ぞ知る山菜といえば,東北地方でしか味わえなかったコシアブラであろう。「タラノメよりも香気が強く,タラノメ以上の食味をもつ」とされるウコギ科ウコギ属の落葉高木で,春にその新芽を摘んで食用に供する。増殖が難しく,東京などの大消費地で知られるようになったのは最近のこと。それだけに魅力一杯の山菜である。

 今回の追録で,コシアブラの産地技術を阿部清氏(山形県農業研究研修センター)に,とりわけ珍重される2月下旬をねらう技術を中心に,紹介していただいた(第11巻)。

 もう一つがウルイ,ギンボである。ウルイは植物学的にはオオバギボウシ。第11巻にすでに収録されていたのだが,需要の伸びとともに作型が分化してきたため,今回は1~3月に収穫するハウス促成栽培を加えて全面的に改訂した。コシアブラとともに中山間地域の魅力品目である。

●ニガウリの全面改定

 NHKの朝の連続ドラマの人気と相まって,もはや特産野菜の枠を超え始めたのがニガウリである。かつては沖縄県の特産野菜だったものが,「ゴーヤーマン」人形でブレイクし,ゴツゴツした突起のある果実の姿,苦み,そして健康イメージをアピールする夏場の野菜として,九州はもちろん関東までその栽培は広がっている。各県で新品種も育成されてきており,今回の追録で坂本守章氏(沖縄県農試園芸支場)に全面的に改訂していただいた。また,新しくニガウリの周年栽培に取り組んでいる仲間勲さん(沖縄県)の技術を収録。都会のスーパーでも見かけるようになったニガウリだが,直売所でもますます人気。連作障害を回避する仲間氏の輪作技術も参考になる。