●2001年版・追録26号は,「養液栽培」のコーナーを一新! さらには,消費が伸びているホウレンソウ,コマツナの全面改定,個性的特産野菜の新品目を強化!


(1)原理と実際が分かれば,「養液栽培」もコストダウン! 2年にわたる全面改訂第1弾。今回は,培地選択,養液つくり,養液管理,排液処理,器具消毒の実際を徹底的に追跡しました。来年は,養液土耕の新コーナーも新設!

(2)野菜専業,産直・朝市農家必見! 過去4年にわたる11品目の大改訂に続き,葉もの野菜と特産野菜の充実で,プロ農家はもちろん,高齢者,女性,定年帰農を含む新規就農者必見の「野菜編」に。

(3)野菜の機能性情報を充実させ,有利な販売に結びつく研究成果を満載!


プロ農家から高齢農家,女性,新規就農者まで 生まれ変わった「野菜編」は日本の野菜と農家を応援します

〈輸入野菜に負けない生産と販売に向けて〉

 年々増加し続ける輸入野菜……。一方で引き起こされる国産野菜の値崩れ。ネギ,シイタケ,イ草がセーフガード暫定措置として輸入規制されたが,ことは規制された3品目だけにはとどまらない。しかし,嘆いているだけでは未来は拓けない。海外の野菜産地でもすでに連作障害が発生し,日本の研究者がその対応に海外まで足を運んでいるのが実態である。今こそ,海外産地にはマネのできない品質と多収,そして日本独自の個性を打ち出した野菜を,安全にしかも環境に影響の小さい方法で生産し続ける技術革新が求められている。

 これまでの4年間の追録で,第1巻キュウリ,第2巻トマト,第3巻イチゴ,第4巻メロン,スイカ,第5巻ピーマン,ナス,第6巻レタス,第8巻(1)ネギ,第8巻(2)アスパラガス,第10巻マメ類と,「野菜編」全体にわたって作型別の構成を大きく変え,生育段階ごとに生育診断と栽培管理,作業方法を解説していく編成に大改訂を行なってきた。今回の追録でさらに,周年化による野菜専作の主要品目であるホウレンソウ(第7巻)の全面改訂を行ない,栽培面積・消費量ともに伸び続けているコマツナ(第7巻)の品目コーナーを新設した。両品目ともに,市場出荷だけでなく地元の朝市などでも新鮮さを届ける目玉品目。いかに新鮮で栄養価の高い安全なものを届けるかが重要な鍵を握っている。

〈だれでもできる省力栽培技術追跡〉

●話題の不耕起栽培

 環境保全型技術の一つとして注目されているのが不耕起栽培である。イネでは不耕起や無代かきが話題を呼んでいるが,野菜でも連続うね栽培,そして長期連続うね栽培へと広がってきたた。

 耕起の必要性について,従来次のように指摘されてきた。

 1)雑草の防除,2)単一作物の継続的作付け,3)施肥効率の向上,4)水分吸収の向上,5)病害虫の防除。

 除草剤の開発によって,耕起の目的も変化してきた。耕うんは,物理性の改善,固まった土壌を膨軟にして根張りをよくする,ガス交換によって微生物の活動を改善する,堆肥や肥料を土に混和する……といった具合である。

 しかし,高齢化したり規模拡大してきた農家にとって,こうした耕うんやうね立て作業は,労働強度も強く,できれば耕うんしないで栽培しつづけることができればそれに越したことはない。今回の追録でも省力・高品質栽培に向けての不耕起栽培に関する最新の知見を紹介した。

●トマトの不耕起栽培

 今回の追録で兵庫県中央農業技術センターの時枝茂行氏に,耕起に対する歴史的な見方と,10作以上連作を続けたトマト栽培の研究成果をおまとめいただいた(第2巻)。

 栽培試験が続けられているのは,根腐疫病の多発で栽培が困難になった圃場だが,そこに太陽熱処理後に不耕起・平うね栽培されている,もちろん自根である(品種:ハウス桃太郎)。3作目に根腐疫病が発生したが,作付け終了後に再度太陽熱処理したらその後発生していない。また,視察者に持ち込まれたと思われる萎凋病の発生も,根の接触による緩やかな広がりにとどまり,「もしも耕うんしていればもっと広範囲に発病したと思われる」と報告しておられる。もう一つは気象変動への耐久性である。試験中に暖房機が故障して気温3℃まで低下し,その後,換気窓の故障で38℃まで上昇したというが,そうした変動に強かったのは不耕起のトマトだったという。「不耕起では深根型のために影響が少なかった」とのことである。

 図は,全国の公的な試験場で研究されている不耕起栽培の成果をまとめたものである。果菜類,葉菜類問わず,同程度の収量が得られていることに注目していただきたい。

●コマツナの不耕起連続栽培

 そうした研究の一つとして,東京農試の野呂孝史氏に今回の追録で「コマツナの不耕起連続栽培」を紹介していただいている(第7巻)。年間6~7作の周年栽培されているコマツナ栽培で,毎作後の耕うん作業を省こうと,緩効性肥料を第1作目に施した連続栽培試験の成果である。5作,6作目になると生育不良も現われたが,肥料の種類や施肥量をさらに検討することによって実用化できるのではないかと指摘されている。3~4作目までの不耕起連続栽培であればなんら問題がないことも明らかにされている。

 ちなみに,『技術大系土壌施肥編』では,不耕起について土壌管理の側から追求し続けている。併せてぜひご一読を。不耕起のおもしろい世界が広がってくるはずである。

●マルハナバチによる着花管理

 ナス(第4巻)では着花促進技術としてホルモン剤が利用されてきたが,そのための作業時間やその後の花抜き作業が大変で,加温促成栽培などの長期作型では全労働時間の20~25%を占める。

 その作業の省力技術として登場したのがマルハナバチの受粉への利用である。問題とされていた,厳寒期の着花不良,果型の不安定,ハチの活動が悪いといった課題をクリヤーする技術が確立した。高知県農業技術センターの前田幸二氏にその技術(温度管理,導入時期と群数,更新時期,ハウスからの脱出防止策,薬剤との関係,整枝・摘葉などの栽培管理など)を詳細にご報告いただいた。

〈周年化すすむ葉物野菜の高品質・安定生産〉

●ホウレンソウ(第7巻)の全面改訂

 周年化,連作化にともなって,低温伸長性や耐暑性を備えた品種や耐病性を備えた多様な品種が作出されている。耐病性については,ホウレンソウの三大病害,ウイルス病,べと病,萎凋病についての最新の品種情報を収録した。とりわけ,萎凋病について現存するほとんど全ての品種を用いた東北農試の研究をもとに,耐病性からみた品種特性を収めた。栽培圃場の条件や作型によって,品種を選択するための貴重な情報となるはずである。

 栽培技術も,従来の作型別構成を一新し,共通の栽培管理作業を追いながら,最新の研究情報を駆使した構成とした。

 さて収穫する時刻だが,意外にも,収穫を午後1時ころおよび夕方4時ころにするとビタミンC含量がもっとも高まることが土岐和夫氏(道南農試)によって指摘されている。また,ホウレンソウ栽培にかかる作業時間の約7割を占める収穫・調製・包装作業について,収穫機械,調製機械,包装機械などが続々開発されている。作業場のレイアウト,人員の配置法(作業ライン)など最新の研究成果をお届けする。

 また,新たに「要素欠乏・過剰症」(清水武氏 大阪府立農技セ),「重要病害と対策」(田口義広氏 岐阜県専門技術員),「近年問題なる害虫と被害,防除法」(片山順氏 京都府京北農業普及セ)を設け,栽培が周年化して従来とは比較にならないほど多様化した病害虫に対する対処法を収録した。

 なお,産地の独自な栽培については別項を設け,平坦地・暖地・高冷地・東北地方・北海道の代表的産地技術を紹介。

●コマツナ(第7巻)の新設

 栽培しやすい,根ごと収穫するため連作障害が出にくい,栄養豊富(表)というわけで,もともとは東京と江戸川区が発祥の地のコマツナだが,西日本にまでその栽培は広がっている。しゃきしゃきした歯触りとさわやかな色合いが受けて,消費も数年前から伸びつづけている。

 今回の追録で新しくコマツナのコーナーを設け,発祥の地である東京から,野呂孝史氏(東京都農試),高尾保之氏(東京都専技),田中邦雄氏(東京都専技)の布陣によって,品種,栽培管理,病害虫・障害対策と全面収録した。輪作に組み込む野菜としても重宝で,今回収録した技術情報は産直や朝市に野菜を出荷する人たちにとって大いに役立つはずである。

〈販売を有利に導く機能性情報〉

●野菜の機能性物質とアピールポイント

 専作農家はもちろん,産直農家,直売農家にとって,その品目のよさをアピールするのに欠かせないのが,機能性である。今回の追録では,大改訂を行なったホウレンソウ,新規追録のコマツナについて,その機能性を紹介した。

 ホウレンソウでは,代表的な機能性である抗酸化物質を増加させるための植物性酵素の種子浸漬や,ホウレンソウの有害物質としてよく知られるシュウ酸含量が低い品種や栽培法の情報も収録している。コマツナもまた,含まれている栄養成分はアピールポイントの一つである。表にあげたように,カルシウムや鉄などはホウレンソウをしのぎ,ビタミンCも豊富に含んでいる。

●「機能性」で大系を検索

 今回の追録だけでなく,第12巻には津志田藤二郎氏(食品総研)による「機能性」に関する研究が収録されており,ガンの抑制作用を持つ機能性物質含量と含まれている野菜,含量の高い品種などの情報を納めている。消費者に伝える情報としてお役立ていただきたい。昨年の追録ではナスの伝統品種‘加茂ナス’では,紫外線による突然変異を抑制する物質があることも報告されている。

 ちょっと脇道にそれるが,「作物編」にもコメ,ムギ,サツマイモ,ダイズなどに含まれる機能性成分,「果樹編」「畜産編」でも機能性が重視されており,機能性を串刺しにして見ていくだけでも,有利販売に結びつくヒントが隠されている。

 今度新しく,全「農業技術大系」の検索機能をもった,編ごとの技術大系CDが発売される。全文テキスト化され,選び出した記事や図表を自在に編集できるため,お持ちになっている「野菜編」の情報活用をさらに充実させるためにお役立ていただきたい。

●機能性の塊 特産野菜の追録

 第11巻特産野菜には機能性に富んだ野菜がたくさん収録されている。今回の追録で,新たにギョウジャニンニク,ズッキーニ,モロヘイヤ,ヤーコンを収録した。朝市・産直の個性を打ち出す品目として有望なものばかりである。それぞれ,原産地,含有成分の薬理作用,生理・生態と生育特性,品種・栽培の実際と,最新の研究成果を実践的に紹介いただいている。例をあげる。

 アイヌネギという呼び名で思い当たる人もいると思うが,そのにおい成分が,動脈硬化・脳梗塞の予防効果,コレステロールの抑制,ダイエット効果,ガン予防などの薬理作用があることで脚光を浴びているのがギョウジャニンニク。はっきりしていなかった生態的特性を明らかにし,図のような生活環を紹介し,未発表の研究データも公開している(井芹靖彦氏 元北根室地区普及セ)。

 塊根に多量のフラクトオリゴ糖とポリフェノールが含まれていることで,その機能性が注目されているのがヤーコン。医学分野の研究データも駆使し,その栽培技術を公開していただいている(中西建夫氏 近畿中国・四国農研セ)。

〈養液栽培コーナーの一新〉

 昨年の追録送付時にお願いした「野菜編」読者のアンケートによると,「養液栽培に関する記述を」と記されたものがたくさんあった。確かに,養液栽培の面積はこのご時世のなかでも増加している。野菜にかける先進的農家の声にこたえて,2年間にわたって養液栽培コーナーの全面改定を行なう。今回は基礎部分の改訂で,これまで購入することが当たり前だった培養液を自分で調製するための基本と応用を,今夏スウェーデンで行なわれた養液栽培の国際学会の情報も含めて,最新の研究成果を元におまとめいただいた。

 電気伝導度(EC),mg等量,イオンバランスといった,養液栽培には欠かせない用語もしっかり解説しながら,作物ごとのイオンバランスとその濃度,自然条件や作物の生育ステージに合わせた,培養液管理の基礎と実際をじっくりとおまとめいただいている。培養液がもっと安価で,しかも自分の作物に合わせたものを自作できるとしたら,養液栽培の可能性はさらに拡大していくはずである。

 来年は,最新の養液栽培施設の技術情報,それに先進的実践農家の方々にその技術をおまとめいただく。さらに,話題の「養液土耕」について新コーナーを設け,基本的な考え方はもちろん,各作目ごとにどんな培養液をどのように施肥灌水していくか,最新の研究成果および実践農家の取組みを収録する予定である。