農業技術大系・野菜編 2000年版(追録第25号)


●大改訂最終回として,果菜類のスイカ・ナスと,インゲン・エンドウ・ソラマメ・エダマメなどマメ類を大幅に改訂。

生育段階ごとに診断と管理,作業方法を解説する構成は,作型分化が一段落したなかで,プロ農家はもちろん,高齢者,女性,定年帰農も含めた幅広い層にピッタリ。

(1)スイカ・ナスの品種の動きとその栽培技術を,生育段階を追いながら詳述

(2)品質勝負のマメ類。生理・生態と栽培技術の最新情報によって,高齢者,女性だからこそできるミニ産地づくりの基礎データを収録

(3)直売所・摘み取り園など,チャンネルの広がった販売に即した品種など,新品種・在来品種も含めて大幅に改訂


新しい「野菜編」にトマト,イチゴ,キュウリ,レタス,アスパラガス,メロン,ピーマン,ネギ,スイカ,ナス,マメ類の大幅改訂が終わる

〈プロはもちろん高齢者,女性にも〉

●生育段階ごとの解説で使いやすく

 今回の追録で,主要品目の大改訂が終了する。4年にわたる大改訂によって,これまでの作型別の編成から,生育段階ごとに生育診断と栽培管理,作業方法を解説していく編成にした。目の前の野菜の状態をその場で診断し,適切な対策が打てるようにとのねらいであった。育苗方式とその選択,育苗管理,本圃での管理などを,最新の研究をもとにした具体的な手の打ち方を解説し,小力化技術や減農薬・減肥など環境保全型農業に向けた情報をお届けすることに徹した。

 図(第5巻)のような緻密な生育診断が各野菜ごとに配置され,その診断に基づいた手の打ち方が生育段階ごとに解説されており,高齢者や女性,定年帰農の人たちにも使いやすい構成と内容になっている。

 今回の追録では,スイカ,ナスなどの果菜類,エダマメやソラマメ,インゲン,エンドウなど,中山間地帯の水田転作作物として注目を集めているマメ類を大幅に改訂した。スイカやナスでは,ポット苗による緻密な栽培管理に加えて,セル成型苗の導入など新段階に移行する栽培管理を収録。高収益になるが手間がかかるマメ類では,高齢者や女性だからこそ生きる小力栽培による高品質・高収益技術を追った。以下,そのいくつかを紹介しよう。

●検索CDによって活用の幅拡大

 20頁に紹介した「農業技術大系・総合利用ガイドブック&総合索引CD-ROM」を利用すれば,品目を超えていろいろな野菜で試されている知見に簡単に巡り会うことができるようになり,まさに野菜園芸の百科としての機能満載の書となった。

〈高齢者,女性ならではの産地が続々と登場―マメ類〉

 第10巻のマメ類は,植物の生理・生態の充実も含めて,管理作業をていねいに紹介しており,その小力を目指した解説は,高齢者,女性の力を生かしたミニ産地つくりのバイブルとなりそうである。

●新鮮さを売る直売所の目玉 エダマメ

 エダマメは水田転換作物として急激に作付けが伸びている。収穫して莢をはずすと,わずか1日で糖分も旨味成分も半減するといわれている。しかしその一方で,海外からの輸入量はうなぎ登りで,品質も年々向上している。品質で勝つ! ことが至上命題である。その課題にこたえるべく,今追録で「食味」をめぐって,糖含量やアミノ酸などの品種による違い,集積の生理的解明,収穫後の変動などについて,増田亮一氏(食総研)に最新の研究成果を報告していただいている。

 とくにエダマメは在来品種が大活躍する。今回の追録では,各県で栽培されている枝豆の品種の調査結果とそれぞれの品種の特徴を報告していただいた(笹原健夫氏・山形大学)。とくに新潟県の「茶豆」や「丹波黒大豆」などについては,産地技術と篤農家の実践を合わせて紹介。エダマメ栽培についてのこれだけの技術紹介は他に類を見ない。必見!

●小力を実現する栽培技術・機械情報

 マメ類の栽培は,移植作業,整枝・誘引作業,収穫・調製作業がネックとされてきた。しかし,新しい栽培様式や移植機の開発によってその常識は変わりつつある。

 東郷弘之氏(鹿児島農試)に紹介してもらった「一条L字仕立て法」もその一つ。ソラマメの枝をうね方向に一列に揃えて仕立てる方法で,これまでは前屈みになって行なうしかなかった側枝摘除などの管理作業を座ったまま行なうことができ,女性や高齢者にはもってこいの技術である(写真)。佐藤睦人氏(福島県会津坂下農業改良普及セ)によるインゲンの「防虫ネット被覆栽培」も害虫防除回数を減らし,しかも品質アップを実現している。また,わい性インゲンでは,莢をもぎ取るという発想を転換して一斉に抜き取って収穫することによって中腰による収穫姿勢を減らそうという「わい性インゲンの一斉収穫栽培法」(小橋川共志氏・沖縄農試)も紹介している。

 機械化ではエダマメの移植機,「スーパーひっぱりくん」開発(梁瀬俊雄氏・日本甜菜製糖)が注目。ネギから始まったチェーンポット簡易移植機を改良したもので,連続紙筒を利用して移植作業にかかる時間が大幅に減り,鳥害防止にも有効。

〈スイカ・ナスへのセル成型苗導入〉

 苗の質,接ぎ木作業,草勢管理のしやすさなどの点からポット苗による育苗が大部分であったスイカやナスにも,セル成型苗の波が押し寄せている。新しい技術だけに,どの作型に適しているのか,また育苗方法,その後の管理技術の情報が求められている。

●セル成型苗はどの作型に生きるか

 今追録では「育苗方式と育苗法」を充実させた。スイカでは,田尻一裕氏(熊本農研セ)にポット苗とセル成型苗(直接定植)の詳細な比較試験結果を報告していただいた(写真)。セルトレイの外側が乾きやすいという弱点を補う灌水と,育苗トレイを浮かして設置することで根の活力維持と風通しをよくすることによってガッチリとした健苗が仕上がる。収量的にもポット苗に勝るとも劣らないという。

 堀田行敏氏(愛知農総試)はナスで,セル成型苗の直接定植を生かすために,第一果の着く節位を下げる採穂法で接木する方法を紹介している。収穫時期を早めるとともに,樹に着果負担をかけることによって栄養生長に偏りやすいセル成型苗の草勢を安定させる技術(図)。増収効果もあるという。

 スイカにせよナスにせよ,セル成形育苗はまだ始まったばかり。床土の選択や施肥技術など,最新の研究成果を紹介している。

●台木選びと接ぎ木技術

 土壌病害回避のために台木の重要性は高まっている。スイカ,ナスともに現在利用されているほとんどの台木,またナスではトナシムなどの新しい台木の特徴と穂木との相性,接木苗の生育を解説してもらった(スイカ第4巻,ナス第5巻)。また接ぎ木の方法については,実に詳細な作業手順が図入りで紹介されているので,初めて接ぎ木に取り組む人にも大いに参考になる。ナスでは,割り接ぎ用簡易器具「らくつぎ」(写真)を紹介している。これまで熟練を要した台木や穂木つくりの作業を,初めての人でも90%以上活着するという。また,接ぎ木の機械化についても,開発中のものまで含めて8種類の方法が紹介されている。

●スイカ栽培を見直す新研究

 スイカ栽培の可能性を考える上で参考になるのが渡邊慎一氏(農水省野菜・茶試)の報告である。これまでスイカの立体栽培では「果実が小型化しやすい」といわれ,その原因については「ストレス説」「下位葉の日当たり悪化説」など,推測の域を出ていなかった。それを,総葉面積と果実肥大,光合成生産能力,光合成産物の転流がどこに向かうか(ソース・シンク関係)といった綿密な調査によって明らかにした労作である。

 結論は,スイカの果実は葉面積と受光量の総量によって規定されるというものなのだが,仮に立体栽培によって栽植密度を高めて果実が小玉化しても糖度は必ずしも低くはならないことから,葉面積や受光態勢を適切に設定すれば,糖度などの品質を維持したままで果実の大きさを自由に制御できる可能性が示唆されている。立体栽培によって管理作業が楽になり,消費者の嗜好に合わせて高糖度を維持しながら果実の大きさを制御できるとしたら・・・おおいに夢をかきたててくれる。

〈いまや在来品種の時代到来!〉

 スイカにしろナスにしろマメ類にしろ,今回の特徴の一つは,在来品種の復活も含めて,個性的な品種が消費を開拓しているということである。

 スイカでは,‘マダーボール’や‘うり坊’といったラグビーボール型のスイカ,今回は取り上げなかったが‘田助’といった黒皮のスイカ,ナスではカラー口絵にもあげた‘絹皮水茄子’‘梨茄子’‘さつま白ナス’‘十全’といった在来種,エダマメでも‘茶豆’‘丹波黒大豆’‘小真木ダダチャ’といった在来種が大人気を博している。一品種で全国を制覇するという時代は終わりを迎えつつある。今回の追録では,品種のコーナーを充実させた。スイカでは現在までの品種の流れを詳細に追い(萩原俊嗣氏・萩原農場),ナスでは主要品種以外に「在来品種の特性」のコーナーを設けて,現在でも栽培し続けられている品種,今後話題になりそうな品種を紹介している(吉田建実氏・野菜・茶試)。

 直売所の魅力を倍増させるためにも,こうした在来品種,個性的品種に注目してはどうだろうか。