民間流通に移行した現在,“売れる”ためには何が課題なのか? 解決方法は? コストダウンの方法は? 悩みの全てにお答えします
「ダイズ・ムギ本作」の施策で大幅に栽培面積が増加したダイズ,民間流通に移行してさらに品質が問われるムギ…国をあげてのこの「本作化」を実りあるものにするために,「作物編」総力を挙げて大追録!
▽アメリカのダイズ作の収量が270kg/10aと年々上がっているのに,日本ではこの20年間170kgに低迷。かつて,最高収量780kgとれたという日本のダイズがなぜ伸び悩んでいるのか? ダイズという作物を徹底解剖して,多収穫の道を探る
▽暖地コムギでは低タンパク含量が問題に。売れるコムギづくりのための,タンパク含量低下回避策の徹底追及
▽低コスト,個性的なダイズ・コムギ作のための新品種情報を網羅
▽水田の多面的利用のための基盤整備や環境整備の基礎技術に加えて,さらに2事例を追録
●ダイズはまさに国産時代に突入
遺伝子組替えダイズが登場したせいばかりではないだろうが,食品メーカーから,国産ダイズへ熱いエールがおくられている(日本農業新聞より)。
全国納豆協同組合連合会常務の本間照蔵氏(札幌市にある関東食品社長)は語る。
「納豆メーカーは年間売上げ1億円ほどの社が圧倒的。その程度の規模のメーカーが生き残るには,地場の材料を生かすことを検討する必要がある。全国の納豆製造仲間にそのことを話している」。
全国煮豆惣菜商業協同組合連合会長の金子親代司氏(金子総本店社長)も,「国産のダイズでないと,煮豆に味をつけることはできても“こく”がでない。国産ダイズを使うことが“付加価値”になっている」と語り,丸久味噌の丸山邦雄社長は「技術は素材を超えられない」と,国産ダイズにこだわる。
いい品質のダイズを安定供給できれば,新しい地場産業が栄える時代に入ってきたのである。
●“大地の匂い”の国産コムギ
平成12年産麦から,これまでの間接統制から実需者との契約に基づく民間流通に変わった。実需者からの需要があり,契約が成立すれば,その県の奨励品種でなくとも栽培できるし,自由に販売できる。
パン用コムギとして人気の‘ハルヒカリ’は,生産量の4倍の需要があるという。足りなくて困っているのが実状である。
●個性派新品種情報を満載
これまでの麺類加工用途一辺倒だったコムギにも個性的な品種が登場している。その他のムギ類の新品種も含め,栽培特性だけでなく加工適性情報も含めて一挙に網羅した。
ダイズではセンチュウ抵抗性品種がふえ,黒大豆(‘いわいくろ’‘みすず黒’など),納豆用(‘鈴の音’),また青臭みの発生がない品種(‘いちひめ’‘エルスター’)など,多様な品種がつくられている。
契約さえ成立すればどんな品種でもつくることができるようになった今,加工して販売することも考えた品種選択はより重要さを増している。
●ダイズは地力消耗作物なのだ!
わが国のダイズの多収穫記録をご存じだろうか。過去,東北地方で780kg/10aという記録が残されている。現在の平均収量は170kgと,その4分の1にも達していない。その原因が実は,地力涵養作物だと思われてきたダイズが“地力消耗作物”であったというのである。
今追録で,「米で安定して600kgとれるのだから,ダイズでも400kgとれて同等」という大山卓爾氏(新潟大学)に,ダイズの養分吸収の研究から新しいダイズのとらえ方を提起していただいた。それによると,子実生産のために大量の窒素を要求するダイズだが,困ったことに,子実生産の時期になると施した窒素を吸収しなくなる性質を持っているのである。つまり,ダイズ多収のカギは,いかに窒素をじょうずに吸収させることができるか,なのだ。
大山氏は,施肥窒素(アンモニア態,硝酸態),地力窒素,根粒による窒素のダイズ吸収量の違いと体内での移行の仕方から,ダイズの特性を明らかにし,高品質・多収のための施肥の仕方を解きほぐしていく。多収・高品質には欠かせない情報が詰め込まれた労作である。
●ダイズの多収と高品質を同時実現する技術
ここ数年,地力窒素と収量,通気性と根粒,出芽と収量,加工をとり入れた事例など,「作物編」ではダイズ増収技術を追究してきた(4頁の表参照)。今回の追録でさらに充実。
テーマ | 著者 | 記事の内容 | 追録年 |
水田転換畑の地力窒素とダイズの収量 | 有原丈二 | ダイズは“地力収奪作物”であることを提起。水田転換畑でのダイズ収量が低下している原因は地力窒素の減少にあり,ダイズ自身も土壌有機物を分解していることを明らかにした | 1998 |
転作畑の通気性と根粒の働き | 阿江教治 | ダイズの根の酸素要求特性から,転作畑の条件を検討。ダイズの窒素供給源として重要だと考えられてきた根粒性善説に対して,その酸素要求量の多さから,かえってダイズの体内に蓄積した光合成産物を浪費しているのではないかと問題提起 | 1998 |
出芽で決まるダイズの収量 | 有原丈二 | 水田転換畑でのダイズ栽培は,出芽の成否によって収量が大きく変動する。これまでその原因は茎数不足にあるとされてきたが,実は出芽時の酸素不足がその後の生育への大きな影響を与えていることを証明。出芽を良くする方法も提起 | 1998 |
水田転換畑での肥効の現われ方と施肥法 | 藤井弘志 | ダイズの窒素吸収量が急激に増える開花期以降にどう追肥すればよいのかを明らかにした力作。緩行性窒素を,培土期(本葉7葉期)に培土作業と一緒に追肥することによって増収することを明らかにした | 1998 |
水田転換畑での除草 | 山本泰由 | 地域によって多様な発生生態を示す雑草に対して,除草剤による体系防除はもちろん,広がりつつある不耕起播種ダイズでの耕種的防除も網羅 | 1998 |
汎用コンバインによる収穫とその条件 | 杉山隆夫 | 集団営農によるブロックローテーションで,汎用コンバインによる収穫が増えている。収穫ロス・汚粒の発生を最小におさえる汎用コンバイン取扱い技術と,そのための栽培の工夫を紹介 | 1998 |
【事例】〈青ダイズ,ミヤギシロメ〉最高級の青ばたダイズで豆腐加工・販売 | 宮城県 上下堤生活改善倶楽部 | "生活改善グループのアイデアで1丁1,500円の豆腐直売,特産のカキと組み合わせた産直など,地域の転作ダイズが飛ぶように売れていく | 1996 |
【事例】〈コスズ,スズユタカ〉桑園跡地栽培のダイズで納豆・味噌加工 | 福島県 JAそうま | 地域農産物に付加価値をと,JAは遊休農地となっていた桑園跡地に納豆用ダイズを作付け。地域の加工施設で製造する「しんちゃん納豆」が完成。売れ行き好調 | 1996 |
【事例】〈ナカセンナリ〉価格保証・作業請負でふえた地元産ダイズで豆腐加工・販売 | 長野県 北御牧味の研究会 | 地元産ダイズの味の良さ,無添加の「みまき豆腐」は村内はもちろん村外からも注文が。高齢者・女性もダイズの生産加工の主力部隊に | 1996 |
【事例】〈タマホマレ〉転作ダイズで味噌加工・販売ダイズ 新しい高品質多収技術を確立するための最新情報(ここ数年の追録から) | 滋賀県 木村秀夫 | 受託栽培も行ない,とれたダイズの味噌加工に取り組み,宅配産直と消費者交流に,自家産無添加味噌が活躍 | 1996 |
今回の追録では新しい施肥法として「被覆尿素の深層施肥」技術を高橋能彦氏(新潟県農試)に紹介していただいた。
これは播種位置の直下20cmに被覆尿素を施す方法で,初期は溶け出す量が少ないため根粒菌への影響は少なく,大量の窒素が必要な子実生産の時期に供給できるという。溶け出した尿素は速やかにアンモニアに分解されるが,施肥した位置が深いために硝酸態窒素になりにくく,アンモニア態窒素のまま土に吸着される。このため窒素に敏感な根粒菌の発達や活力に悪影響を及ぼすことが少ない。また,被覆尿素(100日タイプ)は子実生産のころに60%が溶け出すため,アンモニア態窒素の形でダイズにスムーズに吸収されるというわけである。20%以上の増収効果が得られている。
追肥の時期については,ダイズの生育診断が欠かせない。へたな追肥は根粒菌の働きを低下させ,かえって減収に結びつくことすらある。根圏土壌の分析と,地下部と地上部の生育をあわせて総合的に判断しないと,追肥の効果はあがらない。そのシステムについても高橋氏が紹介しているので,ぜひ参考にして欲しい。
各県の施肥については,新潟県と佐賀県の例を追録した。水田転換畑でのダイズ栽培がふえているため,茎葉や堆肥などの有機物施用や,土質による地力窒素の発現の違いによる基肥と追肥の施肥量など,県を越えた栽培技術の情報が盛り込まれている。
水田転換畑のダイズ栽培については,2年前の追録20号で「地力窒素」「通気性と根粒」「除草」など大きくとりあげている。今回の追録とあわせてご活用いただきたい。
●売れるコムギの違いはどこに?
今回,佐藤導謙氏(北海道中央農試)に紹介していただいた「春まきコムギの秋まき栽培」技術は,ムギが民間流通に移行した現在,注目を集めそうだ。
実需者からの要求に対して大幅に不足しているのが,製パン適性のある国産のコムギ。にもかかわらず栽培面積がふえないのは,農家が,‘ハルヒカリ’などの製パン適性のあるコムギは収量が低く,しかも穂発芽して品質低下を起こしやすいということを熟知しているからである。
収量を秋まきコムギ並みに高め,しかも収穫時期を早めることによって穂発芽を防いで品質安定を実現しようというのがこの「春まきコムギの秋まき栽培」である。この方法は,本来は春にまく品種を根雪になる直前にまき,翌年の融雪直後から生育させることによって,春まきコムギの弱点であった生育量不足を補おうという「究極の早まき技術」である。まだ未確立の部分も残されているが,成功すればメリットは図り知れない。
今回の追録で,平成4年から試行錯誤してきた北海道江別市の片岡弘正氏の技術を紹介した。平成5年には644kg/10a,平成12年には462kg/10aの実績。年次による収量のばらつきは大きいものの,すごい多収を実現している。現在,片岡氏のコムギは地元の江別製粉などで,新しい商品開発の需要な原料として引く手あまただという。
●注目! コムギタンパク含量の制御技術
このところ西日本のコムギに対して苦情の多いのが,コムギのタンパク含量の低下である。麺用として適正とされている粗タンパク含量は10~11%と言われているが,九州をはじめとした西日本で栽培されているコムギの粗タンパク含量は7~9%となっていからである。これでは,輸入コムギには立ち討ちできない。この課題に対して,今回の追録で,土屋一成氏(農水省九州農試)に追肥によるタンパク含量アップに関する最新の研究成果を紹介していただいた。追肥の時期と量,肥効調節型肥料による出穂10日後追肥がタンパク含量を向上させるというデータも紹介している。
●高品質実現のための病害虫情報を一新
今回の追録で,ダイズとムギについての病害虫のコーナーを一新し,環境保全型の防除法についても最新の情報を網羅した。
多収・高品質生産に向けての栽培技術だけでなく,病害虫情報と防除法が充実することによって,水田転作,「ムギ,ダイズ本作」をめざすための必携の書となった。
売れるムギ・ダイズづくりに意欲的に取り組む農家および農家集団の事例を,新たに6つ追録した。
ダイズでは,輪作(ダイズ―種ジャガイモ―秋まきコムギ―緑肥エンバク―アズキなど)による収穫残渣を全量返すことで徹底的に土つくりを行ない,10a当たり安定して400kg以上を実現している,北海道の高橋敦・香津枝さん夫婦,畜産農家と提携して堆肥を駆使し,不耕起栽培や無人ヘリ防除もとり入れた集団栽培に取り組む栃木県の下・北・沓掛大豆機械利用組合,兼業農家中心の営農組織で平均350kgを実現している佐賀県見島営農集団を紹介した。
コムギでは,乳牛経産牛56頭を飼育する北海道木村隆美氏のコムギづくり。自家産と堆肥交換で集めたの麦稈を牛の敷料として利用し,2年間をかけて完熟させた堆肥は絶品で,700kg/10aを実現。ユニークなのが,前述した北海道の片岡弘正氏の「春まきコムギの初冬まき栽培」。もう一つが,前述した地域独自の出穂10日後追肥技術を生み出した滋賀県東近江地域の取組みである。集落ごとに生育診断を行なうための展示圃場を設け,農家はその生育を見ながら自分のコムギの生育と比較して施肥量を決めていくという方法である。収量・品質ともに向上し,製粉業者に品質分析を依頼してさらにその技術を磨いている。
集団的な取組み事例が多いので,ブロックローテーションでのムギ,ダイズ栽培には大いに参考になる。
●中山間地域の画期的基盤整備法
農家の負担が少なく,しかも歳をとっても働きやすい基盤整備ができれば,耕作放棄地は減るはずである。その想いから完成したのが「道路抜き工法型等高線区画」システムである。新潟大学の有田博之氏に詳述していただいた。
この工法は,法面の面積を最小(当然,基盤整備による減歩率も最小となる)にしながら,作業能率は落とさないという工法である。土の移動が少ない分だけ経費はかからず,しかも畦畔の面積が少ない分だけ,その後の畦畔の雑草管理の手間も省けることになる。
現在,この工法をパソコンの三次元空間でシミュレーションできる「圃場整備計画作成支援システム」が開発され,どんな田んぼになるのかを画面上で確認することができるようになった。このシステムについては(財)日本農業土木研究所(TEL. 03-3502-1387)へ。
●水田の多面的利用事例の充実
今回,2つの事例を収録した。
一つは,佐賀県白石町の今泉生産組合の取組み。有明海のそばにあり,干拓によってできた集落である。七夕コシヒカリという早期のコシヒカリ栽培に挑戦し,その前後の水田を,畜産農家と有機的につながりながら野菜を導入する。集落営農によって荒れた田んぼが一つもない。転作を見事に活かした展開である。Uターン青年,新規就農も加わり,早朝研修会,畦道研修会,夫婦同伴の宿泊研修など,年間の集まりの活発さは他に例を見ない。
二つ目は,東京都のベッドタウンとして急激に宅地化が進んだ埼玉県上福岡市の農家,野沢裕司さんの休耕田を活かしたビオトープ運動。
ビオトープといえば,今回の追録では,休耕田・水路・溜め池などの水辺をどう活用するか,地域の自然を取り戻す設計のプロ,株式会社ミックの木村保夫氏に,設計の仕方や管理の方法をおまとめいただいた。地域活性化の基本技術として役立てていただきたい。