●高品質生産に欠かせない省力新樹型,栽培法の特集
●定年帰農に最適な品目として産地が広がるイチジクの大改訂2年目
●優良品種の登場で元気を取り戻してきたスモモ,キウイの最新情報
●話題の果樹の新栽培法――養液栽培,樹液栄養診断に基づく施肥管理

既存樹を平行整枝短梢剪定に転換したブドウ園(愛知県豊橋市)

熊本県のモモのネット+平棚栽培のようす
鳥取県を中心に青ナシ産地では,‘ゴールド二十世紀’など黒斑病抵抗性品種に転換中。赤ナシ産地でも,‘幸水’を中心に30年を超えて品質も収量も低下してきた古木の改植が進められている。ところが,各産地から「幼木を成園に仕立てられない」という声が届いてくる。
この要因について詳細な検討が始められているが,最大の要因は,これまで私たちに幼木の仕立て方の経験があまりにも少ないことにあった。そこで鳥取県,千葉県,栃木県など各県の研究者の方々に,「整枝・剪定,間伐」「開園,改植,更新」の項目を,最新の研究と産地の動向に基づき総力をあげて全面改訂していただいた。ベテラン農家の方も,産地で指導にあたっている方も是非ご一読いただき,どこが問題だったのかを点検し,さらなるレベルアップを目指していただきたい。

さて,これまで果樹農家にとって苗木とは購入するものであった。しかし,ナシの各産地では自ら苗木の養成に挑戦する農家が多くなっているようだ。そこで,その試みを是非とも成功していただきたく,「苗木の養成と取扱い方」をテーマに鳥取園試・北川健一先生に執筆していただいた。圃場に合わせた台木の選択から,種子の採取方法,完成した苗木の取扱い方の注意点など詳細に解説されている(しばしば,取扱い方が悪いために養成に失敗する例も多いようである)。

苗木の養成といえば,リンゴでは,岩手県の高野卓郎さん,長野県の原今朝生さんなど,各地のわい化栽培の先進農家も導入している(それぞれ詳細は『果樹編』のリンゴの巻を参照のこと)。それについては現在,新しく品種登録されたJM系台木を使用した繁殖・養成法が実用化しており,今追録の「苗木の繁殖と大苗の養成」で紹介いただいた。是非,みなさんも挑戦していただきたい。
さて,リンゴのわい化樹の新植・改植をしている農家もあるが,多くの方は,わい化樹の高木化に対しては,追録13号で紹介した秋田県増田町・千田宏二さんのように間伐によって対応しているのが実状であろう。そこで今追録では,宮城農・園試の菊地秀喜先生に,「間伐と樹形改善」を執筆していただいた。「間伐樹の縮伐は行なわない」「残った樹が千鳥植えになるように間伐する」など,各産地の動向と試験研究の最新情報が紹介されている。
ここ数年,各樹種で省力化を実現できる新樹型,栽培法を続々と取り上げてきた。今年は,スモモとモモの棚仕立て,ブドウの既存樹の樹形改造による平行整枝短梢剪定への転換法の実際を取り上げている。
スモモ(山梨県の清水太郎さん):かつてはブドウをつくっていたのだが,その棚を利用してスモモを導入。確実な受粉がポイントの優良品種‘太陽’‘貴陽’をつくりこなすには,棚仕立てはぴったりだった。
モモ(熊本県の井上弘人さん):棚仕立てに転換したきっかけは,ヤガ対策のためのネット施設の導入だった。いまではメロンなどの野菜の施設にモモを植栽する農家も多くなっているという。
ブドウ(愛知県の守田作丞さん):種なし巨峰発祥の地,東三河のブドウ産地は現在,産地をあげて既存園からより省力的な平行整枝短梢剪定に転換中である。カキ(品種は次郎)も「一挙切り下げによる低樹高栽培」に全面転換。そして,あいた労力を活かそうと今年からイチジクのボックス栽培(超極早期作型)も試験的に導入している。
スモモ:‘太陽’‘貴陽’と優良品種の登場で一躍脚光を浴びてきたスモモでは,この2品種とともに‘秋姫’‘紅りょうぜん’‘サマーエンジェル’など最新の有望品種情報を「品種特性と栽培」に追加。
イチジク:「定年帰農の人や高齢者,女性にぴったりの品目」として全国的に栽培面積が増加している数少ない果樹。栽培技術も年々高度になっており,ここ数年間の追録で機敏に取り上げてきた。今回収録したのは,まずは愛知農総試で研究が進められている「樹液診断に基づく施肥管理」。イチジク栽培で一番のポイントは的確な追肥。栄養診断の方法をわかりやすく解説されているので,是非導入していただきたい。次いで広島県で取り組まれている,早期摘心(4節摘心)による収穫期の分散方法。そしてイチジクでもついに開発され,多様な形で導入も始まっている養液栽培(昨年はブルーベリーを紹介した)。

キウイ:すでに話題の果肉の黄色いゴールドキウイ(品種名:ホート16A)を導入している産地も登場した。国内でも香川県を中心に多彩な品種が育成されており,「品種生態と栽培特性」を全面改訂していただいた。単調だった店頭のキウイのコーナーが賑やかになっており,キウイ生産者にとっては朗報である。また,安定した収量と高品質を両立させる,葉柄を中心とした栄養診断基準が設定された「施肥と土壌管理」,省力的な液体受粉技術の確立した「開花,受粉と結実」などを改訂して充実した。

今追録で,各産地で急速に導入が広がっている光センサー選果機の,リンゴとカンキツ各産地の最新情報を紹介していただいた(第8巻果樹共通編。「光センサー選果機の生産面での活用」)。産地の生き残り策のひとつなのだが,このままでは「高価な篩」が加わっただけになる,という声が強かった。しかし,ここで紹介されているように,秋田県増田町では,光センサーのデータに基づいて栽培暦を何度も改訂して産地全体のレベルアップに成功している。またカンキツでは,地理情報システム(GIS)とリンクすることで,膨大な選果データを園地ごとの栽培管理に活用することが可能になり始めている。今後の展開に期待したい。
◎いよいよ登録間近の新鮮度保持剤……1-MCP果樹の品質保持技術として,CA貯蔵以来の画期的な資材として注目されている1-MCP(1-メチルシクロプロペン。商品名:スマートフレッシュ)が,ようやく日本でも農薬登録申請された。開発されたアメリカはもとより,欧州でも急速に利用が広がっているという。日本でもリンゴとナシ,カキそれぞれで,この資材を効果的に活用する手法が開発されており,今追録でいち早く紹介していただいた。鮮度が長期間保持できるだけでなく,十分に熟した適期収穫が可能になる果樹もあり,その意味では消費を伸ばしてくれる資材でもある。課題は日本の消費者に認知されるかどうかだが,近々われわれは,この資材を使用した輸入果実との競争に迫られることは間違いない。
◎地球温暖化にどう対応するか……温州ミカンを中心に地球温暖化の影響は着実に日本の果樹栽培に訪れているようだ。そのなかで最も影響が大きいといわれる温州ミカン産地では,着々と次代を担う品種の選択が行なわれている。今追録で品種のコーナーを一新した。そして,「温暖化対応技術」として愛媛果試南予分場で開発された「樹冠上部摘果・樹冠上部剪定」についてきわめて実践的にまとめていただいた。
◎草生栽培をめぐる新研究……モモ園の地表面管理第8巻に「草生管理」のコーナーを新設したのは2000年の追録。乗用草刈機の普及やナギナタガヤなど優良な草種が発見されたこともあるが,各地で草生栽培が広がっている。そこで問題になる養分の競合や施肥量などについて,福島果樹試による綿密な試験研究の成果をご紹介いただいた。結論は「樹間の作業車などの通行部分を草生とし,幹周辺は4~6月の養分補給を兼ねて,マルチ(稲わらなど)または清耕で管理するのがよい」。そのほか清耕,マルチ,草生などの組み合わせ方での養分の溶脱,必要な各要素の施用量などについても詳細に検討されている。皆さんが取り組まれている草生栽培の成功の一助になるものと思う。
●お知らせ
追録1号からお送りしてきた,各年度の「登録新品種」は昨年度をもって終了させていただきました。品種情報については,(独)農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所のホームページで「果樹品種情報検索システム」(URL:http://www.fruit.affrc.go.jp/new/hinshu.html)が公開されています。CD-ROM「日本の育成品種(果樹)」も郵送料のみで配布いただけます。詳細は下記の住所までお問い合わせ下さい。
〒305-8605 茨城県つくば市藤本2-1 果樹研究所企画調整部情報資料課