農業技術大系・果樹編 2003年版(追録第18号)


○暖地にまで広がり技術も進化したオウトウの全面改訂

○各樹種で開発が進む省力新樹形と新たな技術を大特集

○摘心,夏季剪定など低樹高化に欠かせない夏期管理を詳細に解説

○病害虫防除・施肥量の削減など環境保全型農業の取組みと新研究

 オウトウの垣根仕立て(すっきりして日当たりも良い。平面的で作業もしやすい)

最新の研究と技術を盛り込んで「オウトウ」を大改訂

対抗して健闘しているのがオウトウ。主産地の山形県はもとより,最近では観光摘取り園などを中心に暖地でも導入されている(追録17号の「暖地のオウトウ栽培と課題」を参照)。現場の技術はもちろん,試験研究も深められており,主産地の山形県を中心に,青森,山梨,長野各県の方々の総力で,第4巻「オウトウ」が最新の内容になった。

 作型の分化 オウトウは雨よけ栽培の導入で安定生産が可能になっているが,規模拡大には中生,晩生といった品種の組み合わせとともに施設の導入が進んでいる。この施設栽培でも,普通加温,早期加温,超早期加温と前進化しているが,逆に露地栽培との端境期をねらう無加温栽培も加わって収穫作業の平準化が実現されている。

 休眠打破技術の確立 この施設栽培の技術が安定したのは,シアナミド剤の利用などの休眠打破技術の確立とともに,被覆時期が的確に決定できる自発休眠覚醒判定法(チルユニット。「発芽の条件」で詳細に解説。追録17号「落葉果樹の休眠と低温要求性」も参照)の確立も大きい。

 結実安定化 オウトウの生産を左右する結実の安定には授粉樹の選択が重要である。「結実を左右する条件」を改訂していただいたが,山形園試によるオウトウ主要品種の交配和合性の研究は注目である(表1)。

 開園・改植・更新技術ほか そのほか,新たに「地域別オウトウの品種生態」(各地の発芽期,開花期,収穫期などのデータ集)も追加。「台木の品種」も世界的な動向も含めて改訂。「開園・改植・更新」のコーナーも,早期成園化が可能な「不織布ポット養成による大苗定植」など新技術も盛り込んで改定。これから新植したり改植する方は必見。また生育診断方法,摘芽,摘果,裂果対策,品質向上技術,収穫適期の判断や鮮度保持法などもより緻密になっている。

樹形改善,新栽培法の導入でさらに省力化―女性も経営の主体に

オウトウでは,雨よけ施設にむりなく収めるために,樹齢とともに主幹形→変則主幹形→遅延開心形にする整枝法がとられてきた。ここ数年,細形仕立て(図1),Y字仕立て(図2),垣根仕立て(冒頭写真)などさらに省力的な樹形が開発されている。


図1 オウトウの細形仕立(8年生)

 リンゴ,クリ そこで今追録では,リンゴでは,最高結果部位が2.5mにできる改良ソーレン(図3),ソラックス樹形(宮城農・園研)を,クリでは,従来の短幹変則主幹形樹の骨格枝をカットバックすることで樹齢が20年以上経過しても剪定位置を2.5m以下に維持できる「改良型岐阜方式低樹高栽培法」(図4)を紹介した。


図4 クリの改良型岐阜方式低樹高栽培

 ナシ すでに追録16号で「各種栽培方法」として紹介した「2本主枝一文字整枝」の農家事例を収録した(千葉県栗源町・佐藤菊江さん)。単純な樹形なので,女性1人と雇用労力だけで2ha近い面積を悠々とつくりこなしている。

 カキ,ブドウの根域制限栽培 さて,省力化ともに早期収穫も可能なのが根域制限栽培。研究の進展とともに,現場でも広がっている,カキの「コンテナ栽培」,ブドウの「拡大型根域制限栽培による一文字広島仕立て」を最新の内容に改訂していただいた。

 いよいよ始まった果樹の養液栽培 果樹でもついに養液栽培が始まった。ブルーベリーである。ブルーベリーの根域環境にきわめて適する,粒状フェノール発泡樹脂を利用したシステムが開発され,各地でha規模で導入が始まっている(次年度はイチジクも)。

省力栽培の鍵を握る夏期管理

 モモでは,大藤流,大草流,Y字形仕立など低樹高栽培が導入されているが,そのために欠かせない管理の一つが摘心であった。また,岡山で開発されたブドウの短梢剪定でも基本技術として位置づけられている(第2巻 ブドウ・技146頁)。

 ついで必須とされているのが夏季剪定。先に紹介したオウトウのY字仕立てや垣根仕立て,クリの改良型岐阜方式でも,それを支えるのは夏季剪定である。作業が増えると思いきや,夏季剪定は作業効率がよく,冬期の剪定量も減って剪定作業全体の時間短縮につながるという。

 リンゴでは夏季剪定はあまり重視されていなかったが,弘前大学の塩崎雄之輔先生に「夏期の新梢管理」で,リンゴでの夏季剪定の重要性と,徒長枝整理の時期と回数,方法(図5),品種による違いなど詳細に解説していただいた。

品質向上と省力化をめぐる新技術

 リンゴ 「授粉樹の選択と配置」を改訂。最近の品種での選択法や配置の仕方や,今後期待できるクラブアップルやカラーナムタイプの利用などを詳細に解説。

 ついで負担の多い摘葉作業についての新研究も収録。新たに登録されたジョンカラーふじの使いこなし方とともに,摘葉作業の省力化が期待できる‘ふじ’の優良着色系統についての最新研究を紹介いただいた。

 ブドウ 「植物生長調節剤の利用」を最新の登録に基づいて改訂したが,ピオーネでジベレリン処理1回で無核化できる最新技術も紹介。さらに,根域制限栽培で重要になってくる水分管理のための,茎径や果粒肥大の微細な変化を測定することによる樹体内の水分動態を把握する新たな手法も収録(第8巻)。

 温州ミカン 早生温州ミカンで9月中旬まで仕上げ摘果を遅らせて強い着果負担をかけ,葉果比25~30に摘果すると糖度が高まるだけでなく,翌年の着花も安定することがわかった。その方法とメカニズムを詳細に解説していただいた。またミカンではマルチ栽培が急速に広がっているが,果樹ではじめて開発された周年マルチ点滴灌水同時施肥法(略称はマルドリ方式)も収録。

果樹の環境保全型栽培のはじまり

 各地で「環境保全型農業」の確立が叫ばれているが,今追録では,果樹栽培でのさまざまな取組みを特集した。

 効率施肥による減肥法 先の温州ミカンのマルドリ方式は省力・品質向上技術であると同時に,慣行の60%の施肥量ですむ,環境負荷を低減できる技術でもある。

 ナシでは「幸水の窒素吸収特性と効率的施肥法」を収録。幸水は高樹齢化にともなう収量低下のため施肥量が多くなっているようだ。基肥と礼肥の2回(8:2の割合)が一般的だが,幸水の窒素吸収特性の調査に基づき,それに追肥2回を組み合わせる(5:1.5:1.5:2の割合に)ことで,2割の窒素減肥が可能になるというもの。地下水中硝酸態窒素濃度も環境基準以下となった。

 薬剤減の実践技術 千葉県のナシ産地,沼南町果樹組合では,平成4年から生産地あげて薬剤の削減に取り組み,現在は慣行の半分にまで低減している農家も登場している。試験場や普及センターの支援もあってのことだが,組合員の「自分自身のための農薬削減」という姿勢が成功の秘訣であったようだ。

 ついで鳥取県では,黒斑病耐病性品種のゴールド二十世紀への転換が急速に進められており,東伯町・西山宏昌さんの事例を紹介させていただいた。意外にも新植園の管理に慣れない生産者が多いようで,その点についても丹念に解説していただいている。

 リンゴでは青森県の須郷陸奥雄さんの事例(わい化栽培)。木酢,玄米酢,リンゴ酢の利用で年間の防除回数7回に。しかも施肥改善で収量は6t,食味もよい「自然リンゴ」で契約栽培というからすごい。

 クリでは収穫果実の殺虫処理に臭化メチルが使用されてきたが,炭酸ガス,低温処理という新たな方法が開発されており,その研究を紹介。

 ハウスミカンでは「NAAを使用しない結果母枝の作成法」を広瀬和栄先生にお書きいただいた。NAAについては議論のあるところだが,地中冷房の利用,土壌乾燥などの耕種的方法から,最近登録されたフィガロンの利用など代替技術を詳細に解説。