昨年までの2年間は,続々と登場する新品目を収録してきた。今追録では,開花特性をめぐる基礎的な研究と,新品種や新技術の導入によって作期を拡大し需要も伸ばしてきた切り花の大品目を大改訂。課題になっていた鉢花の鮮度保持技術をめぐる最新研究も紹介。
○研究者と産地の力を結集して作型開発,養成期間の短縮,新品種の開発など急速に新技術を開発しているデルフィニウム,リンドウ,ガーベラなど切り花品目の大改訂。
○ユーストマ(トルコギキョウ)・・・北海道から九州まで7産地の事例を一挙収録。各種の技術を組み合わせ,オリジナル品種の育成でロゼット回避と作期拡大に成功し,高品質生産を実現。
○切り花で開始されたバケット流通の動向,鉢花の鮮度保持技術をめぐる新研究。
○屋上緑化の推進などを契機に大きく転換する都市緑化。ハンギングバスケット,トピアリー,宿根草花壇など新たな緑化技術を紹介。
●ユーストマ
北から南まで特徴的な産地の7事例を一挙収録。各地の自然条件を活かし,さまざまな技術を導入して作期の拡大を実現している。
北海道夕張郡由仁町・窪田真澄さん 6月切りは温度の確保で,8月切りは遮光資材による涼温化管理で,9・10月切りは暖房機による温度の確保で,10月切りは遮光資材による短日処理で,と長期出荷を実現。品種は白八重系が主体。高温期はボリュームのあるエクローサグリーン,アクロポリスホワイト,ダイヤモンドなど。
岩手県遠野市・駒込和男さん 加温促成では地中暖房で開花促進,抑制では冷蔵苗の利用でロゼット化回避,10月切りではシェード処理で日長管理。品種はロゼット化しにくいもの,ブラスティングしにくいものを重視。
長野県伊那市・伊東茂男さん 産地の品種の95%は伊東さんのオリジナル品種。つねにロゼット発生率の低い品種を選抜してきた。
長野県更級郡上山田町・宮原洋一さん 加温電照に加えて,直播栽培(1か所1粒まき)で抑制栽培を確立。オリジナル品種の育成にも成功。
高知県香美郡野市町・島内勇雄さん 冷房育苗の導入で11~12月出荷と1~2月出荷が加わる。品種は冷房育苗への適応性を重視。電照も導入。
大分県杵築市・荷宮 豪さん 高温期のロゼットは遮光率60%の寒冷紗で回避。安定した本数重視の生産。品種は8月中旬定植はキングオブスノー,8月下旬定植はネイルシリーズが中心。
福岡県嘉穂郡嘉穂町・末継 聡さん ロゼット対策は,半抑制と促成は種子冷蔵処理で,抑制は冷房育苗に種子冷蔵を組み合わせる。流体ゲルを利用した播種で苗立率100%。ボリュームを重視して疎植を基本に。オリジナル品種の育成も実現。
●デルフィニウム
エラータム系についで,シネンシス系やベラドンナ系の生産も多くなり,品種が多彩になってきた。生態についての研究もすすみ,低温遭遇によるロゼット化打破や早期抽台を防止する冷房育苗,遮光による短日処理などの技術も導入されて各産地で周年出荷を実現。そこでシネンシス系,エラータム系とともにザリルなど,原種も加えて全面改訂。
●ガーベラ
「技術の基本と実際」を改訂。「夏期は灌水量を抑えて水分過多による株のストレスを軽減する」「従来,葉かきは花芽立ち促進に効果があるとされていたが,効果がないだけでなく,悪影響を与えることもある」など,精密な生育調査に基づいた新知見がふんだんに盛り込まれる。
養液栽培では,岐阜県の高橋明利さんを紹介。培地にフェノール発泡樹脂を用いた新システム。この培地は灌水直後の液相,気相ともに40%を超え,根域への酸素供給量が多くなり,夏場の葉の展開速度や花蕾の発生数が2~3倍増加して,需要期の9月(11月まで)の安定出荷が可能に。
●リンドウ
連作障害に悩む産地が多くなっている。その対策を中心に栽培技術のコーナーを一新した。
画期的なニュースがある。
かつてリンドウは播種後3年たたないと本格的な収穫ができなかったが,ジベレリンの利用で2年間に短縮。ウイルス病には弱毒ウイルスの利用が始まる。
鉢ものでは,岩手県では‘あおこりん’,‘ももこりん’など栄養系の新品種が続々と登場。福岡県では‘福寿盃’からはじまって,ササリンドウ系の‘白寿’など,これまでのリンドウのイメージを打ち壊す斬新な品種が甘木市の民間育種家の手で続々と育成されている。繁殖法から「敬老の日」に合わせた開花調節技術まで詳細に解説。
●キク
夏秋ギクは無側枝性ギクの‘岩の白扇’に転換されているが,9月出荷での奇形花の発生など,いくつかの欠点がある。側枝の発生には栽培期間中の昼間の高温の影響が大きい。また,未展開葉では,分化した後では高温条件下におかれると側枝を形成しない。生育診断に基づく的確な灌水による生育コントロール。無側枝性発現技術(肩換気のみによる昼間高温管理,摘心栽培による不萌芽対策)など,最新の研究を盛り込んでつくりこなし方を追録。
事例では,福岡県の末石敏さんの事例を改訂。
秋ギクは‘神馬’(無摘心栽培による二度切り)に,夏秋ギクは‘優花’(摘心栽培)に転換。‘神馬’ではシェードも利用(9月下旬~)。‘優花’は導入2年目で未知な点が多く,貫生花の発生など課題も多いが大幅な省力化が可能になっている。
●人気が高まるイングリッシュローズ
オールドローズのデリケートな魅力や芳香に加えて,モダンローズの多彩な花色を備えたイングリッシュローズの人気がにわかに高まってきた。主要品種の特性とともに栽培方法から増殖方法まで詳細に解説していただいた。バラがより身近になってきた。
●ポットカーネ,ガーデニングカーネ
「母の日の贈りもの」として栽培が始まった鉢ものカーネーション。品種も増え,花色も豊富になってきた。さらに,ついにガーデニング用のカーネーションも登場してきた。
品種によってピンチの時期などが異なるなど,母の日に良品を出荷するのは難しい。各種苗会社が,各品種の特性と栽培のポイントを解説。また,元サカタのタネの八代氏が,これまでの育種の経過とともに,現在の品種の特性と,それらのつくりこなし方を解説。
●花の開花と植物ホルモンをめぐる新研究
いま花成誘導機構に関する研究が急速に進められており,今回はジベレリンを中心とした植物ホルモンの関与にかかわる新研究を中心に第1巻「生長・開花と植物ホルモンの利用」を改訂。この研究はすでに実用化されており,ストックで,シクロヘキサジオン系わい化剤(イネの倒伏軽減剤のビビフルフロアブル)の利用に成功している。
●本格化する花卉育種での遺伝子組換えの利用
話題になった遺伝子組換えを利用した青色のカーネーション(アントシアニンの利用)に続き,トレニア,ペチュニアなどでも成功し,市場にも登場してきた。除草剤抵抗性,花形・草姿の改変など育種の手法は急速に進展している。2004年には遺伝子組換えにかかわる主な特許権が消滅する予定でもあり,「遺伝子組換えの利用」を最新の情報に改訂した。
●鉢花の品質保持技術
「鉢花の日持ちが悪くなった」と流通関係者や消費者から指摘されてきた。底面吸水への栽培システムの転換とともに,鉢花の培養土は,ピートモスを主体とした軽量のものに変わっており,かつての鉢花とは大きく変わっている。追録では,5県共同で3年間行なわれてきた,鉢花をできるだけ長く観賞するための,栽培・観賞時両方での一連の研究の成果を,「鉢花の観賞持続性向上のための根圏管理」(培養土の配合割合,灌水方法,施肥法,観賞時の養水分管理),「鉢花(花壇苗)の品質保持と出荷予措(ハードニング)」(遮光処理,温湿度管理,水分管理と根へのストレスなど),「インドアプランツの品質保持技術」として収録。
「インドアプランツの品質保持技術」では,「光強度より温度の影響が大きい」「乾燥や過湿などの水分ストレスが品質劣化を助長する」など観賞時の注意点を詳細に解説。また,葉中の糖含量と品質保持との関連が大きいことが明らかに。注目すべきは,出荷前のハードニングとして炭酸ガスの施用によって品質が高まることが明らかになったこと。
●いよいよ始まった切り花のバケット流通
バケット流通が日本でも本格的に導入されてきた。代表的なのは,FAJと兼弥産業が共同開発した,「ELFシステム」。ほかにも(有)ケイネットとJA紀州中央が開発した「花だるま」,福島県の昭和花き研究会のハナコンなどがある。バケット流通のメリットとともに,使用する水の選択,低温での輸送が可能か,市場がどこまで受け入れられるか,など導入にあたっての課題も指摘。
●高品質花壇苗の培用土
愛知県内の花壇苗生産者の調査に基づく「花壇苗生産での用土配合のポイント」によると,自家配合をしている生産者が61.5%と多くなっている。今後は店頭での日持ち性,不良条件下でも活着する花壇苗の生産が求められる。今追録では,各種資材の特性と使いこなし方とともに,地域素材の籾がらくん炭や木炭,篤農技術として利用されてきたゼオライトの活用法などを紹介。
平成13年に東京都が屋上緑化を義務化したことを契機に,都市緑化への認識は高まってきた。各種の施策も変わっており,「都市緑化の施策と事業」を改訂。驚くことに,東京では,残りの86%のビルを緑化すると都市公園面積をしのぐ2,000haにもなるとのこと。
●地域で取り組むハンギングバスケットでの緑化
さて,緑化事業で注目すべきは福岡県。平成12年から「花あふれるふくおかの街」推進事業を開始しており,杷木町(原鶴温泉街で,女将たちのグループ「湯里おこし会」)や久留米市など各地で地域住民が主体となって取り組んでいる。そこで利用されているのがハンギングバスケット。福岡農総試の黒柳先生に,利用しやすい品目,容器,用土,肥料,点滴チューブを用いた自動灌水装置など,管理法を解説していただいた。
●公園,緑地,庭園を賑わいのある楽しい場所に
まずは「トピアリー」。フレームさえあれば家庭でも取り入れられる。伝統ある欧米でも斬新なトピアリーが開発されている。そのヨーロッパの動向と,トピアリーづくりの基本を解説。
ついで「緑化用草花」も改訂。スローガンは「緑化から緑花へ」。なかでも宿根草花70:球根類10:花木10:一年草10の「ふれあい花壇」を提案。自然な落ち着いた植栽で,変化に富み,歩きながら手に触れられ,眺めもよい。
次回は,樹木や花木を中心に屋上緑化にふさわしい素材を取りあげる予定。セダムでは本来の目的は達成されないからである。