農業技術大系・花卉編 2002年版(追録第4号)


●注目のオーストラリア,南アフリカ原産の新植物を中心に32品目を新規追加。パンジー,ビオラ,アジサイなど技術革新が進み,品種や用途が多様になった20品目を全面改訂。

●別冊『花卉品種名鑑』を発行(別売不可)。国内27社の種苗会社が販売する,980種,12,000以上の営利栽培用品種を収録。

 昨年発行した「種子」に苗,栄養系,球根などを加えて,学名のABC順に収録。学名,カタログ名,和名,通称名から引ける索引つき。各種について,分類,発芽特性,栽培適温,栽培適地,開花期などの特性を詳細に解説。各品種の花色,花型,大小,早晩性,用途,育成者,販売商社などが一覧できる。

 学名,科名は『Zander:Handwterbuch der Pflazennamen(Dictionary of plant names)2000年版』(ドイツ ULMER社発行)と『New Encyclopedia of Plants and Flowers 1999年版』を基本にしました。なおこの内容案内の5頁以降に『Zander』の1979年版と2000年版との植物分類の比較の一覧を収録しています。

●その他,平成10年に改正された種苗法を分かりやすく解説。キクでは,‘岩の白扇’の奇形化をめぐる最新研究を収録。


新花卉品目追録の第2弾 多彩になる新花卉品目のつくりこなし方を一挙掲載

 昨年の追録3号に続いて,今追録でも32品目を新規に加え,20品目を改訂した(右表の一覧)。

追録第4号で新たに加わった品目,改訂した品目(新が新規収録,改が改訂)

8巻

一・二年草

オジギソウ(含羞草)

なじみの植物だが,利用が多くなったMimosa pudeicaを中心に紹介

パンジー,ビオラ

3シーズン開花する花壇苗の主力品目に成長。ビオラも加わって秋出し品種も多様になった

ハボタン

コンテナの寄植え素材やハンギングバスケットなど用途が広がる。わい化剤の利用法など用途に合わせた栽培法を詳細に解説

ヘリオトロープ

元々は香水原料のハーブ。H. Europaeumを中心にわい性種が登場し,鉢ものや花壇に利用が広がる

ラークスパー

季咲きからシェード抑制,冷房育苗抑制,電照加温促成と周年出荷が可能に

9巻

宿根草

アガパンサス(ムラサキクンシラン)

南アフリカ原産。切り花や景観美化など利用が広がる。課題の開花調節法を詳細に解説

オタカンサス(ブルーキャッツアイ)

ブラジル原産。9~10月が出荷期なので,シクラメンなどの補完品目によい。寄植えやハンギングバスケットなど用途は多様

カラミンサ

切り花,鉢もの,花壇用と用途は広い。カスミソウと同じような使いかたができる

グレコマ・ヘデラケア

丈夫な植物で斑入種が鉢花や花壇に利用される。約3日で発根するので圃場回転率が高い

クンシラン

一部のマニア品目とのイメージが強かったが,値ごろの出荷も多くなり,切り花も登場

コケサンゴ(タマツヅリ)

匍匐する細い茎に広玉形の葉が一面に広がり,径5~6mmの小さな実をつける人気の鉢もの

ジギタリス

和名はキツネノテブクロ。釣鐘状の花が長期間下から上へ咲き上がる。花壇の利用が多いが,切り花にも期待

シバザクラ

繁殖が容易で発根率も良い低コスト花卉。法面緑化など地被植物としても利用

シュウメイギク

アネモネに似た花は,和風の庭にも洋風の庭にもよく合う。ガーデニングブームで人気が高まる

ダイモンジソウ

山野草として人気があり,たくさんの品種がある。株分けによる栽培とメリクロン苗栽培を解説

ドイツスズラン

コストのかからない養生法から,鉢花栽培,促成・半促成の切り花栽培まで

ブラキカム

オーストラリア原産。草丈が50cm以下の低いものが多く,丈夫なので,鉢花だけでなく,花壇,ロックガーデンなどに利用できる

ブルークローバー

鮮やかなブルーの花色と開花期間が長いのが魅力。小鉢から平鉢,寄植えなど利用法も多様

マーガレットコスモス(イエローエンジェル)

南アフリカ原産。春から秋にかけて開花。凍らなければ戸外で冬を越す

リシマキア

グランドカバーに向く草丈の低い種や,水辺を飾ることができる湿地性の種など多様な種がある。冷涼地でも無加温で栽培可能

10巻

球根類

ユーチャリス

結婚式用のブーケ,コサージュ,アレンジ用に欠かせない花。開花数を増やすための地温管理の新研究

11巻

花木

アオキ

緑化樹として古くから利用されてきたものだが,ガーデニングや寄植えなどの素材として重要に

アジサイ

底面給水の利用など省力化が進む。また,生産者の品種改良も精力的。切り花栽培も始まる。花色にも関わる施肥管理,最近多くなっている抑制栽培なども加えて全面改訂

エリカ類,カルーナ・ブルガリス

南アフリカ原産の人気のある花で,鉢花経営の補完品目として導入されたが,つくりこなすのは難しかった。日本の代表的な生産者の浜松市・塩田正人氏のご協力をいただいて,つくりこなし方を詳細に解説。最近の人気品種も紹介

クフェア

中米原産。露地でも栽培できるためシクラメンの後作品目に適する。クフェアは250種以上あるが,花壇材料にも利用できるものなど人気品種も紹介

クレロデンドラム

代表的なのは熱帯アフリカ原産のゲンペイカズラ。温度管理で5月から年末まで出荷可能

クロウエア

オーストラリア原産。鉢花の複合品目として有望なのだが,つくりこなすのは難しかった。導入の仕方から,仕上げ方まで詳細に紹介

コンロンカ(ムッサエンダ)

「ハンカチの花」の愛称で親しまれるのはムッサエンダ・ルテオラ。暖地では5~9月まで屋外でも栽培可能

ソラナム

ナスの仲間で,花や果実が美しいものが次々と園芸化されてきた。代表的な7種の特性と栽培のポイントを紹介

ダチュラ

「エンジェルトランペット」。花が上を向くのはダツラ属,下を向くのはブルグマンシア属。生産者が中心になって濃いピンク,白色など品種の改良も進む

ツンベルギア

出荷まで1.5~2.5年かかるが,低温で管理できる低コスト品目。周年開花するこの花を,5~7月期に樹形も花つきもよい商品に仕上げるのがポイント

ハツユキカズラ

かつては庭園用のつる性植物として利用されてきたが,最近は鉢ものや花壇,ハンギングバスケットなどガーデニング素材として人気が高まる。商品価値のポイントになる新葉の発色のさせ方を中心に解説

ヒベルティア

オーストラリア原産。ハンギングや寄植え素材として人気。省力的な花なので施設の有効利用が可能

フクシア

「女王様の耳飾り」とも呼ばれる人気の高い花。日本の暑い夏を越せる品種も登場

プロスタンテラ(ミントブッシュ)

オーストラリア原産のハーブの一種。見栄えのする商品に仕上げるには2年以上かかるが,丈夫なので省力的

テロペア

オーストラリア原産で,やせた酸性土壌に生えている。現在は切り花が輸入されているが,春出荷の鉢もの生産として有望

ボロニア

オーストラリア原産の植物で昭和50年頃から日本でも栽培が始まり,栽培される種類も10種以上に

マサキ

生垣や生花用に利用されてきたが,冬期間の花材が少ない時期のカラーリーフとして利用価値が高く,ガーデニング素材として有望に

ランタナ

熱帯アメリカ原産。「七変化」とも呼ばれるような,花色が変化する種類も。春から夏にかけて長期間出荷できる

レケナウルティア

オーストラリア原産。「初恋草」の名前で鉢植えが出回り,人気が高まる

11巻

観葉

コリウス

葉の大きさ,形,色,斑の入り方がさまざまな,匍匐性のものも含む多様な品種が開発され,観葉植物だけでなく,プランターや花壇の素材としても利用が広がる

シェフレラ

カポックとも呼ばれる。観葉植物の重要品目に

ステレオスペルマム

平成になってから出回るようになった新しい品目。寄植え材料としての需要も

デュランタ(ドゥランタ)

ブルーの花と鮮やかなオレンジの実が人気の観葉。開花調節の新研究や天芽を利用した小鉢化など新情報が盛り込まれる

パキラ

「発財樹」という商品名で販売。1本立ちから数本を編み込んだ商品も。原木の導入から出荷まで3か月から半年と回転がよい

パピルス

鉢植えの観葉植物としての利用から,切り枝生産,水辺での観賞法まで

ピレア

たくさんの種類,品種がある。テラリウムや寄植え,ハンギングなど用途も多様。生育が速く,病気にも強いのでロスがない

フィットニア

葉の網目が涼しげに見えるので,需要期は暖かい時期。徒長させない,ボリュームのある成品の仕立て方,周年栽培化など

ブライダルベール

つる性の植物で釣り鉢,スタンド鉢にされる。斑入り種もあり

ヘデラ

明治時代から導入されていたといわれ,現在100種以上利用される。観葉植物だけでなく,グランドカバープランツやガーデニング素材にも

マダガスカルジャスミン

鉢ものだけでなく,結婚式のコサージュ向けの切り花としても利用。開花調節,落蕾対策や仕立て方など最新情報に改訂

ヨウシュコバンノキ

葉の形状から「洋種小判の木」とも(英名はleaf-flower)。切戻し後の復活が早いので出荷時期の調節が容易

12巻

ハーブ類

花卉素材として有望な47種を選択


 シクラメンなどの基幹品目の価格が低迷するなかで,後作品目に何を選択するかということがますます重要になってきた。ガーデニングブームもあって新植物が続々と導入されているが,しかし,なかなか販売につながらなかったり,品目によっては生産量が一挙に増えて価格が暴落してしまうことも多い。

 そこで今追録の新品目,改訂品目の選択にあたっては,用途が広がるなど今後の成長の見込みとともに,既存の施設が利用できるなどコストがかからない,成品に仕上げるのに技術が必要で,つくりこなせば安定した価格が確保できるもの,といった点などを重視した。そこで,南アフリカ原産のボロニアは長野県の筒井園芸さんに,オーストラリア原産のエリカ類は静岡県の塩田正人さんにご協力いただくなど,これら新品目をつくりこなしている生産者を農業改良普及センターなど各地の指導機関に取材してもらい,それらの品目の特性と,導入にあたっての注意,栽培のポイントなどをおまとめいただいた。

〈合理的な栽培システムを確立する鉢花生産者〉

 今追録から生産者事例の改訂を開始する予定だが,追録4号ではシクラメン,アジサイを基幹品目にしてきた3人の事例を改訂し,新たに1人に加わっていただいた。

 この4人の方の特徴は以下のとおり(北から順番に)。それぞれ新品目を加えて合理的な経営を確立しているだけでなく,基幹品目にも新品種を導入したり,徹底した省力化を図っている。

 福島県・佐藤 仁さん シクラメンは6号鉢は1,000鉢だけで,ミニシクラメン(2号)とガーデニング用のミニシクラメン苗もの(15,000鉢)が中心。それに省力的で暖房があまり必要のないクレマチス,ボロニア,ブルーベリーなど花木を組み合わせる。

 茨城県・長谷川幸弘さん シクラメンは品質を重視して高単価がねらえる6号鉢のみに(7,500鉢)。輪作品目には,栽培は容易ではないが,シクラメンと同じ施設が利用できるクレマチス(5号鉢のみ)を選択。

 群馬県・坂本正次さん アジサイの事例を改訂。シクラメンではミニシクラメンも導入。もちろんアジサイが経営の中心で,ポージィブーケシリーズ,マスナルシリーズなど斬新なオリジナル品種を次々と開発。平成9年から,アジサイにもC鋼を利用した循環型底面給水を利用するなど省力化も着々と進めている。

 長野県・市村 透さん シクラメンは鉢の大きさ(3~6号鉢)と多様な品種を組み合わせることで,早期出荷から年末までの出荷で10万鉢の大規模経営を実現。さらに,ハゼ,トウカエデなどのオリジナル小盆栽,ボロニアやアッツザクラなどの花木,フサスグリなどの実ものからラナンキュラスなど,多様な品目を組み合わせた合理的な複合経営を確立している。

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 そのほか,品種が多様になったパンジー,ビオラ,用途も栽培法も高度になったハボタン,アジサイなども全面改訂。ラークスパーなど人気が高まる切り花品目も収録。

 さらに,専門の生産者もめだってきたハーブ類を,花卉素材として有望な47品目を選択して収録。