農業技術大系・花卉編 2001年版(追録第3号)


●今追録から,続々と登場する新たな品目を収録していきます。2001年・追録3号では34品目を新規収録。新品種の登場や作型の開発で利用も栽培も広がる25品目を改訂。

●バラ,カーネーション,スプレーギク,ユーストマでは省力・低コストを実現する新技術を紹介。

●別冊・『花卉品種名鑑』の第1弾『花卉品種名鑑―種子編』を発行(別売できません)。わが国で流通しているほとんどの品種を学名順に配列し,和名・カタログ名・通称名などでひける索引つき。次年度は「苗,プラグ,球根編」を発行予定。

 学名(旧学名),カタログ名,和名,通称名,オーサーネーム,品種登録番号,花色・花形・大小・草状,早晩生,用途,育成者,販売社名,最低販売単位などが一覧できる。

 ガーデニングブームで新花卉が続々と導入されてきたが,本来の植物名や品種名とは全く異なった名前で販売され,流通しているのが実状であった。世界市場と直結している花卉品種の正確な情報が1冊に。


続々と登場する新花卉品目の最新情報を満載

 公園はもちろん,街の道々や家庭の庭先,ベランダにと,さまざまな場所が花で彩られるようになってきた。突如として活況を呈してきたガーデニングブームは,いつ熱がさめるかと不安視する向きもあったが,ようやく定着してきたようである。花はより身近なものになってきた。

 それにともなって,花の種類も多彩になってきた。毎年海外から新たな品目が続々と導入され,次々と栽培に挑戦している方も多い。しかし,これらはマイナー品目だけに,十分な情報もないなかで,試行錯誤しながら取り組んでいるのが実状のようだ。

 そこでこの『花卉編』では,市場で急速に出荷量を伸ばしている品目,今後有望と思われる品目の情報を今後の追録で毎年充実していく。追録3号はその第1弾(右ページに一覧)。

追録3号で新たに加わった品目,改訂した品目(新が新規収録,改が改訂)

6巻

マーガレット

極早生やウエディングマーガレット,鉢もの品種など新品種の紹介とつくりこなし方

マトリカリア

新品種の紹介とともに,無摘心・一度切り栽培など新作型も紹介

8巻

一・二年草

アリッサム(ロブラリア)

コンパクトに育つ多彩な花色の品種が揃う。寄せ植えやハンギングバスケットに人気

アレナリア

ロックガーデンや山野草として扱われてきたが,寄せ植えの素材に用いられるようになる

イソトマ

大鉢やハンギングバスケット,ガーデニングで人気が高まる。暖地では露地でも越冬可能

エリシマム (チェイランサスを含む)

露地でも3月から開花。ウインター・ガーデンの素材として有望

ケイトウ

切り花用品種だけでなく,花壇用にも各種品種が登場して多彩に

コキア(ホウキグサ)

夏は黄緑色,秋には紅葉して長期間観賞できる

ストロベリーキャンドル

元々は牧草。赤に加えて白,わい性品種も登場し,寄せ植えやプランター素材として利用

スプレーストック

カルテットシリーズ,シンフォニーシリーズなどスプレータイプのストック

ディソディア

無霜地帯では冬でも花が楽しめる。5~6寸のスタンド鉢や寄せ植えのハンギングも好評

ナスタチューム(キンレンカ)

春の花を楽しんだあと,夏に切り戻せば秋も楽しめる

ニコチアナ(ハナタバコ)

夏に美しい花が咲く。丈夫で長く楽しめる。品種も多彩に

ネメシア

株元が弱いのが欠点だったが,花壇,鉢もの用品種で改良種が登場

ネモフィラ(ルリカラクサ)

耐寒性が強く,暖地では露地でも10月まで播種が可能

ヒャクニチソウ(ジニア)

江戸時代から栽培されてきた品目だが,夏花壇に向くわい性種が登場

ファセリア(ハゼリソウ)

自生地はカリフォルニア。鉢もの,花壇用に利用

ブプレウラム

緑の色調と広がりのある草姿がアレンジ素材に人気

ブロワリア

コンテナ,ハンギングに適する。暑さに強い品種もあり夏花壇にも利用できる

ヘリクリサム

ビキニ,チコなど鉢もの,花壇苗向きの品種が登場

ミムラス

播種2か月で開花する回転の早い花。極ミニ鉢,ハンギング,寄せ植えなど仕立て方も多様にできる

メランポディウム

丈夫な花なので,夏の花壇,コンテナ栽培,グランドカバーと多様に利用できる

9巻

宿根草

アルケミラ

添え花として安定した需要。省力・省エネ作物でつくりやすい

イポメア(サツマイモ)

ラムスライス,レインボー,パープルなど多彩な園芸品種が登場

エボルブルス(アメリカンブルー)

鉢花のほか,コンテナへの寄せ植え,グランドカバーなど利用が広がる

オキシペタルム(ブルースター)

秋に咲く貴重な青い花で,ブライダルには欠かせない。ロックウール栽培も始まる

オステオスペルマム

耐寒力がきわめて強く,早春に定植できる。晩秋まで咲きつづける花壇に欠かせない花

オダマキ

3.5~5号ポットから極わい性種の3~3.5号ポットが人気

ガウラ

ハクチョウソウ,ヤマモモソウとも呼ばれる。栽培が容易で,花期が長いのでガーデニングに利用される

キクイモモドキ(姫ヒマワリ)

粗放な管理に耐える宿根草。丸弁花,八重咲き花,わい性種などがあり,切り花,ガーデニングに利用

クリスマスローズ(ヘレボラス)

冬に咲くあでやかな姿が魅力。ガーデニングだけでなく,鉢花や切り花にも利用される

ケローネ

盆出荷用の夏の切り花。大型で花立ちのよい‘オブリクア’種の利用が増えている

サルビア

露地栽培できる省エネ品目。切り花,鉢もの,花壇と用途は広い

スクテラリア(タツナミソウ)

ジャワニカ,コスタリカナ,タツナミソウなど種類は多彩。鉢もの,花壇に利用

ステラ(バコパ)

ほぼ1年を通して花が楽しめる。花壇やコンテナへの寄せ植え,ハンギングバスケットなどに利用


〈「自生植物の園芸化」第2弾〉

 昨年の追録で新設したコーナー。今追録で加わったのは次の5種。

 日本のハーブ「イブキジャコウソウ」,薬用植物として利用されてきた「トウキ」,野に咲く可憐な花「スミレ」,古くから茶花に使われてきたが,絶滅危機種となった「フシグロセンノウ」,尾瀬を代表する花「ミズバショウ」。

 野趣に富むもの,可憐な姿などが魅力で人気の高い自生植物だが,多くは絶滅が危惧されている。直売などで販売することで,かえって乱獲を防ぐことができると,精力的に園芸化の研究が進められている。これはその成果。今後も充実を図っていく。

〈新技術の紹介 作期拡大,省力・低コスト化,環境保全型花卉栽培への挑戦〉

キク:‘神馬’を追加 ‘秀芳の力’に替わる品種として期待される‘神馬’。開花始めから純白,水揚げがよい,低温でもよく伸長する,密植栽培が可能で収量が高いなど利点は多いが,その特性については不明な点が多い。「神馬の性質を」という読者の声に応え,鹿児島農試の仮屋崎義友先生に,試験研究の成果に栽培現場の情報を盛り込んで最新情報を緊急に紹介していただいた。

スプレーギク:ソイルブロック育苗で年間4作 愛知県赤羽根町の藤目方敏さんの技術を紹介。すでに苗生産は平成8年から海外で委託生産を開始し,計画生産と経営規模の拡大を実現している。さらに,ソイルブロック育苗を導入することで年間4作を実現。

カーネーション:プランター+点滴灌水システム 各地で導入が進む点滴灌水システムに加えて,土壌病害を克服するために,プランター栽培を組み合わせている愛知県田原町の河合桂さんの技術を紹介。土壌消毒などの作業が省略できるので,6月中旬まで作期を延長できる。

バラ:環境保全型花卉栽培に挑戦 愛知県一色町の鈴木信吾さんは,従来の土耕栽培に加えて,ロックウール耕と点滴灌水を導入している。鈴木さんは,ロックウール耕の廃液をすべて貯水槽に戻して,点滴土耕と土耕栽培の灌水・施肥に再利用するシステムをつくり上げている。用水は全て雨水を利用。さらに出荷でも,バケット輸送に全面転換し,環境保全型花卉栽培に向けて大胆に挑戦している。

ユーストマ:種子低温処理 福岡農総試の谷川孝弘先生のご研究。一代雑種(F1品種)が登場してきて,種子の低温処理(10~12℃の冷蔵庫の暗黒下5週間処理)だけで,夜温が25℃以上の条件でも株が抽台して開花する品種があることが分かってきた(27品種以上が可能)。直播栽培と組み合わせれば,播種後4~5日で発芽することから,播種後の管理も容易になる。各種の作型で利用が検討されており,今後の展開に期待したい。

冷房:多用途の新タイプが登場 冷房システムは,コスト面さえクリアできれば導入したい環境制御法の1つ。近年,細霧冷房法,パッドアンドファン冷房システムなどで改良が進んできた。なかでも高圧細霧冷房は,キクの直挿し栽培,バラでの挿し木繁殖,洋ランの夏期の高温対策や開花促進などさまざまな品目で利用が広がってきた。農薬や,葉面散布などにも利用できるのも魅力(改訂・東海大学の林真紀夫先生)。