●追録23号の重点は4つ――この11月1日から完全実施される「家畜排せつ物法」。有機物循環をうたうこの法律の精神を活かした現場的な展開に向けて,次の4つの点から追求。さらに,酪農家の間で話題にのぼっている「新二本立て給与法」を,その原理と応用について収録!
(1)さらに充実,低コストふん尿処理施設。これから問題となる尿処理技術
貯留施設を超えた,低コストでできる省力堆肥化施設4例。排水規制をクリヤーする尿処理システム情報
(2)「バイオマス・ニッポン総合戦略」の目玉,「バイオガスプラント」最新情報
話題のメタンガス生産によるコージェネレーション技術の展望は? 実態を踏まえて最新技術を公開
(3)激変する養豚経営の動きと,最新の飼育技術を総点検
HACCP導入の基本,繁殖技術および育成技術に加えて,堅実な経営を実現している農家事例(3例)を収録
(4)飼料イネの栽培と調製,商品残渣の飼料化技術
増え続ける飼料イネ栽培の栽培技術,低コストで高品質を実現する手づくり乳酸菌培養,また海外では常識になりつつある食品残渣のリキッドフィーディングについて収録
☆バイオマス・ニッポン総合戦略
2003年12月27日に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」の柱の一つが,バイオガスの活用である。これは,家畜ふん尿と生ごみなどのバイオマス系廃棄物,あるいは食品工業排水や下水などの廃水を利用してバイオガスを生産し,燃料に,電気に,肥料に活用していこうというものである。
今追録では,バイオガスプラントによるメタンガス生産の最新技術およびその課題を収録した(第8巻,エネルギー利用システム)。
わが国のバイオガス利用の全体像を羽賀清典氏(畜産草地研究所)に,内外の情勢に精通する松田從三氏(北海道大学)には実態をまとめていただいた。技術的な面では,メタン発酵の生産を高めるための微生物活性制御技術を木田建次氏(熊本大学)に,消化液の肥料利用を松中照夫氏(酪農学園大学)に,消化液散布機器を岸本正氏(帯広畜産大学)に。現在稼働しているバイオガスプラント一覧や,発電した場合の売電の情報,消化液の肥料としての有効利用など,実用的である。
☆明らかになってきた課題
買うに高く,売るに安い日本の電力。改善されたとはいえ,買電は20円以上/kWhなのに,売電は昼間で9円/kWh,夜間で3.8円/kWh(北海道の場合)。2000年4月に「再生エネルギー法」ができたドイツの売電価格は13.4円/kWh(表1),オーストリアでは20円前後/kWhと,再生エネルギーに対するわが国のたち遅れが指摘されている。

もう一つが,メタン発酵後に残る「消化液」の利用である。先端的な取組みとして京都府八木町のバイオガスプラント(「BIMA消化槽」第8巻に収録,図1)の最新情報を収録(小川幸正氏・株・大林組)。高温菌によるメタン発酵槽を新設することによって,病原菌汚染の不安を解消し,消化液利用を町内の農家とともに調査開始。意欲的な取組みが大きな話題を呼んでいる。

図1 京都府八木町のバイオガスプラント施設の外観。左の2つのタンクがメタン発酵槽(BIMA消化槽。中温発酵と高温発酵の2基が稼働),右のタンクがガスを貯留するガスホルダー
この11月1日から完全施行される「家畜排せつ物法」では,牛なら10頭,豚なら100頭,鶏なら1,000羽以上飼育している農家は,法律に適合したふん尿処理施設を設置していなければ50万円以下の罰金が科せられることになる。その対策として,昨年に引き続き,今追録でも低コストふん尿処理施設の例,新たに,今後大きな問題になってくる尿汚水も含めた畜産廃水処理の最新情報を収録した。
☆そのまま良質堆肥化――シート利用ふん尿処理施設
群馬県方式 堆肥盤にコンクリートは使わず,遮水シートの上に土壌を圧密した簡易堆肥盤とする。数年間は耐久性があり,しかも手づくりできるのが強みである。穴あきの足場パイプによって通気し,ふん尿を短期間で確実に発酵させる(図2)。

埼玉県方式 土を盛った堆肥盤の上に送風パイプを敷設し,下部から間歇送風して発酵させる。堆肥化施設に運び込む前処理施設(蒸散方貯水槽)を組み込んだシステムも紹介。
青森県方式 堆肥盤に傾斜をつけ,暗渠管を入れて水分を除去しやすくし,被覆資材に通気性シートを使うことによって,切返し作業なしで堆肥化する方式である。
☆尿汚水浄化・処理の最新技術
中小規模の畜産農家で設置可能な尿汚水浄化処理施設。遮水シートと土壌を利用することで1頭当たり1万円強の工事費ですむ(「土壌を利用した尿汚水浄化処理施設」,鈴木睦美氏・群馬県畜産試験場)。
本格的な尿汚水処理についての研究も3編収録。窒素の除去に関してはORPやpHセンサーを活用したリアルタイム制御の手法(「尿汚水処理における窒素除去技術」,金主鉉氏・埼玉県環境科学国際センター)。リンに関してはMAP反応などの結晶化反応を利用した「養豚での尿汚水からのリン除去・回収技術」「曝気を利用した結晶化法による豚舎汚水中リンの除去・回収」(鈴木一好氏・畜産草地研究所)。枯渇するリン資源を回収する手法として優れており,注目を集めている。
平成15年度は全国で約5,000haを超え,年々増加の一途をたどる飼料イネ。今追録では,第7巻に飼料用イネ栽培とサイレージ化技術の最新情報を収録した。既収録の「飼料用イネの栄養・生理的価値と活用」(第7巻)と併せてご活用ください。
☆飼料イネの低コスト栽培追求
楠田宰氏(野菜茶業研究所)に,省力・低コストを目指した栽培法をお願いした。打込み点播による無カルパー籾湛水直播栽培,田植機を利用した湛水直播,スクミリンゴガイ対策はもちろん,イネの再生力を活かした2回刈り栽培についても収録。刈取り時期による内容成分の違いを活かすことで,乳牛にとっては最高の粗飼料となる。
☆自家培養の乳酸菌でコスト10分の1
糖分の少ない飼料イネのサイレージづくりに欠かせないのが乳酸菌資材の添加である。その経費を10分の1にする画期的な技術が,自分でつくるFJLB(付着乳酸菌事前培養)液である。
サイレージの品質および菌叢の推移を丹念に追った平岡啓司氏(三重県科学技術振興センター)と,実際に導入して成果を上げている広島県の大和町飼料イネ生産組合の岡田正治牧場の取組みを,沖山恒明氏(広島県農業改良普及センター)に紹介していただいた。新たな投資はほとんどいらないこと,さらに,イネに付着する地元の乳酸菌を培養するため,選抜された市販の乳酸菌よりも不良環境に強いという点も魅力である。
日本の養豚はこの30年間に大きな変化を遂げた。30年前には30万戸あった養豚農家は8,000戸台へと急減。今追録で,「養豚塾」を主宰し,養豚農家の経営コンサルタントとして活躍している山下哲生氏に,この間の養豚産業の変化,経営や技術の変化を,現場の立場でまとめていただいた(第4巻,「養豚の基本と動向」)。
☆離乳後の事故率を減らす
山下氏は,現在の日本養豚の最大の課題は「衛生問題」だと指摘する。
慢性疾病(SEP,ARなど)の常在化に加えて,最近では,ウイルスが関与した豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)や離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)など,免疫低下をまねく疾病による複合感染が問題になってきている。ウイルスに感染後,通常では病原性がないと考えられてきた日和見感染体が複合感染して病徴を重くする。複合感染については既収録の石川弘道氏(サミット動物病院),久保正法氏(動物衛生研究所)の記事が役立つ(いずれも第4巻)。
☆これから進む養豚でのHACCP
HACCPは食品製造から流通までを安全にコントロールしていく手法として始まった。トレーサビリティの声が強まるなか,当初は食肉加工場に導入され,続いてと畜場,そして最近ではと畜場に運びこむ家畜もまたHACCPで衛生管理されたものが求められ始めた。このシステムを養豚場の生産管理にどう適用していくか,今追録で福安嗣昭氏(麻布大学)にまとめていただいた。今後,養豚場の実際についても追録していく予定である。
☆繁殖障害の全面改訂
繁殖障害の全面改訂を伊東正吾氏(麻布大学)にお願いした(第4巻「豚の繁殖障害」)。原因の40%を占める卵巣の異常については,臨床内分泌学からの最新知見をもとに詳述されている。
なお,ホルモン剤に頼らない繁殖障害治療方法として既収録の川井田博氏(鹿児島県立農業大学校)の「灸治療法」(第4巻)がある。図3が豚のツボ。腰部の4つのツボ(百会,雁翅,卵巣兪,開風)の6か所へのお灸で治癒効果が現われたと報告されている。

☆個性的な経営事例を収録
大規模化は進んだが,一方で規模の大小を問わず個性的で堅実な経営が生き残ってきた。今追録で紹介した4つの事例は次のとおり(第4巻「実際家の技術と経営」,第8巻「事例編〈養豚〉」)。
(有)カントリーファームにしうら 母豚204頭の一貫経営を営む三重県の(有)カントリーファームにしうら。西浦虎夫氏は,独自の自家配合に加えて乳酸菌を重視した飼料給与で「紀州岩清水豚」のオリジナルブランドを確立。30%を会員組織への直売。
(有)塚原牧場 幻の豚「梅山豚(メイシャントン)」70頭の一貫経営。専用の飼料を食品副産物から独自に製造する会社も設立し,豚肉加工にも着手して会員制直販組織を通じて販売。林間放牧も取り入れてじっくりと仕上げる。
なお,食品副産物の飼料化については,今もっとも注目を集めている「発酵リキッドフィーディング」を川島知之氏(畜産草地研究所)にまとめてもらっている(第4巻)。
島田福一氏とその仲間たち 稲作・畑作との複合養豚経営の道をあゆみ,仲間とともに地域の稲作農家,高原野菜農家と相互につながり,土つくりの要として位置付いている。生産資材の共同購入会社,機械利用組合の設立など,小規模の仲間との連携で合理的な経営を実現。
第8巻では高床式おがくず豚舎で母豚400頭の一貫経営を収録。なお,高床式豚舎については,第8巻に「土着菌を利用した高床式発酵床豚舎」(柳田宏一氏・鹿児島大学),「剪定枝の発酵床への利用」(崎尾さやか氏・埼玉県畜産研究所)もある。
「二本立て給与法」とは,1960年から1970年代に,全国の酪農家に広がった飼料給与技術である。千葉県の共済獣医師であった故・渡辺高俊氏が,給与する飼料を,「基礎飼料」(維持飼料+乳5kg分。粗飼料)と,乳量に応じて給与量を増減する「変数飼料」(濃厚飼料)の2種類に分けて設計することから「二本立て給与法」と呼ばれるようになった。今回取り上げたのは,お隣りの中国の酪農家がこの二本立て給与法を導入してめざましい成果を上げていること,また,日本でも年間乳量1万kgの牛に対してもむりなく給与できる「新二本立て給与法」が話題を呼びつつあるからである。
今追録では,第2-(1)巻「乳牛」に,中国の酪農指導にあたっている日本NGO河北省鹿泉市酪農発展協力事業メンバーによる二本立て給与法の基本と改良(図4),それに加えて,渡辺氏に師事した宮城県の酪農家である佐々木富士夫氏による「新二本立て給与法」を収録。

事故による高能力牛の短命化が言われているだけに,牛を健康にむりなく高乳量を支える二本立て給与法の考え方が注目されている。
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ふん尿処理に関する「関係法規・公的対策事業」を最新の情報にもとづいて全面改訂した(加藤幸志氏・農水省)。参考にしてほしい。