(1)温暖化でクローズアップ! 家畜の暑熱対策
夏の暑さによる乳量ダウン20%! さらには受胎率の低下,疾病の増加,廃用牛の増加……暑熱対策スタートのタイミング決定法と画期的対策を詳述。
(2)生ごみと家畜糞尿の混合処理技術
今追録は,家畜糞尿を持続的農業に生かす堆肥化技術はもちろん,都市が生み出す膨大な生ごみとあわせて高品質の堆肥を生み出す処理施設の最新情報,肥料・エネルギー・燃料などへ変換するコージェネレーションシステムを実現している地域事例紹介。
(3)自然・人間と共存する林畜複合システム
地域の自然・人間と家畜が共存し,より豊かな地域をつくりだしていくための畜産のあり方を林畜複合経営の実例で追求。
☆夏バテによる乳量の減りは?
夏バテするのは何も人間だけではない。四国4県の畜産試験場が,農水省四国農試(現・近畿中国四国農業研究センター)の統括のもとに進められた研究は,乳牛に対する高温・多湿の影響と,的確なタイミング,ローコストで最大の効果をあげる暑熱対策を明らかにした(第2巻「乳牛(1)」)。
四国地方の乳牛たちを調査した戸田克史氏(愛媛県畜試)・川田建二氏(香川県畜試)は,「暑熱を原因とする廃用牛は毎年150頭以上発生し,乳生産量も15~20%減少していると推定される」という。しかし現場では,暑くなり出荷乳量が減少してからその影響に気づくことが多い。同プロジェクト研究に携わった中井文徳氏(現・徳島県農業大学校)・萩原一也氏(高知県畜試)は,「発情が弱くなったり,発情がこなくなったり,夏バテ症状は繁殖障害として現われる」と指摘している。秋以降に長期不妊牛として廃用される牛がでるのは,数字に現われない家畜の夏バテが原因なのだ。
図は,実際に春から秋にかけて乳量が低下する事例を,夏バテしなければこれくらい搾れるだろうという期待乳量と比較したものである。この期待乳量と実乳量の差が「真の暑熱被害」と考えられる。高泌乳牛ほど発熱量が多くて夏バテしやすいから困る。
☆夏バテの予測方法
これまで的確な暑熱対策が実施できなかったのは,酪農家自身が簡単に暑熱対策スタートのタイミングを予測する方法がなかったからである。中井氏ら(前出)は緻密な調査に基づいて,呼吸数を指標とした乳量水準ごとの「夏バテ発生時期予測式」と,送風開始や日中の細霧散水併用などの「暑熱対策の強度切替え時期判断予測式」を導きだした。なお,これを自動的に判断する「夏バテ警報装置」も開発され,すでに商品化されている(有限会社カワノテック TEL.088-625-3352)。
☆簡易で効果的な「ダクト細霧法」
夏バテ予測法と組み合わせて活用したいのが,戸田氏ら(前出)が開発した「ダクト細霧法」である。この方法は次頁の図のように,送風ダクトの真下に細霧ノズルを設置して,吹き出した細霧が牛の肩から十字部に当たるようにする。通路には換気扇を設置し,牛群の平均乳量にあわせて,体感温度19℃を目安に運転する。それだけで,表のように牛体周辺の温度は見事に低下する。
この方法は牛の周辺のわずかな環境を改善する方法のため,牛舎全体の温度を低下させる従来の方法に比べて,運転経費は安くすむ。40頭規模の場合,1頭1日当たりの電気代は8~15円,水道代は2~3円。この装置を導入した酪農家は,期待乳量の98%まで乳量が回復し,過去3か年の成績の10~30%増。おまけに種付けもよく,熱射病がなくなり治療費も減ったとのことである。なお,この方法は乳牛だけでなく,豚にも効果的らしい。
今回の追録では,農業環境三法によって法的に規制されることになった家畜糞尿処理について,新しく開発された最新技術をもとに第8巻「環境対策」の内容を大きく改訂した。
☆コージェネレーションシステムの開発
今追録で「生ごみ・畜糞混合処理システム」を新たに設け,全国各地で稼働し始めた優良事例のシステムを収録した。伊藤元氏(岐阜県畜産研究所)には,生ごみや家畜糞処理に悩む自治体からの要望の実態と技術的な問題点,さらには岐阜市で取り組まれている学校給食の生ごみと家畜糞尿を利用した混合堆肥化の事例を紹介してもらった。
また,すでに3年以上の稼働実績があり,年間3,000人以上の視察者が訪れる京都府八木町の「八木バイオエコロジーセンター」を紹介している。このシステムはBIMA消化槽と呼ばれ,メタン発酵法によってメタンガスを取り出し発電に利用,余剰熱は暖房に,固形分は堆肥にして利用し,消化液はオゾン処理,ろ過膜を通して放流する(小川幸正氏・大林組)。他にも,栃木県高根沢町の市街地の生ごみと家畜糞尿を混合処理している「高根沢町土づくりセンター」。臭気を一切外には漏らさないシステムは,各自治体からの視察者が絶えない(盛下学氏・荏原製作所)。乾式メタン発酵技術を採用し,汚泥の濃度が非常に高くても運転可能にしたのが,鹿児島県国分市のプラントである。ここでは,敷料や古紙,草,剪定枝などもそのまま発酵できる特徴を持つ(三崎岳郎氏・栗田工業)。岩手県金ヶ崎町で試されたのがメタン発酵による発電と,乾燥物の燃料化をねらったシステムである(高垣一良氏・川崎重工業)。
☆小型化した実用処理装置と微生物資材
従来の糞尿処理施設も性能を落とすことなく小型化が進んできた。間欠曝気式膜分離活性汚泥法(アクアフロンティアョ)もその一つ。比較的小規模な養豚場を対象としたもので,現在,神奈川県の(有)厚木市養豚センターで稼働している。
籾がらをろ過材としたろ過装置によって細かい浮遊物質を除去し,間欠曝気式膜分離活性汚泥法によって処理する。ろ過した籾がらと汚泥は,発酵させて堆肥に。リンの回収装置がユニークで,特殊リン吸着剤が利用され,リン濃度のいかんにかかわらず処理水のリン濃度はほとんどゼロ。吸着容量が一杯になったら,その場で容易に吸着剤の再生・活性化を行なうことができ,しかも吸着剤は何回でも使用することができる。国外からの輸入に頼っているリン資源だけに,有望な技術である(畠中豊氏・共和化工)。
畜産農家にとって,糞尿処理関係の微生物資材の情報は必須。今回,羽賀清典氏(畜産草地研究所)と編集部で6年ぶりのアンケート調査を行なった。その成果をもとに「微生物等を原料とする各種資材の特徴と使い方」を全面改定。現在流通する118資材の最新情報を役立てていただきたい。
変わったところでは,生物活性水を利用した場合に悪臭が減る現象を,その活性水を飲んだ家畜体内の微生物相の変化や生産される物質から追跡した稲元民夫氏(秋田県立大学)の研究がある。また,第4巻「豚」には,竹ヤブの土着菌を敷料の発酵に利用する鹿児島県松山町の益田農場の取組みも紹介した。
☆悪臭・地下水汚染の実態と規制
代永道裕氏(畜産草地研究所)には「悪臭と有害ガス」改訂をお願いした(第8巻)。「悪臭防止法」による規制は,かつての12物質から22物質に増え,特定悪臭物質だけでは規制しきれない場合は,人間の官能(嗅覚)による規制も可能になった。また,牛などの反すう家畜のゲップや堆肥や尿溜から発生するメタン,堆肥化の過程で発生する亜酸化窒素による地球温暖化も問題にされている。これらの温室効果微量ガスは,これまで問題にされてきた二酸化炭素に比べて,その温室効果はメタンが20倍,亜酸化窒素が300倍以上とされている。
地下水に対しても,これまでは環境基準の「要監視項目」であった硝酸性窒素と亜硝酸性窒素が「環境基準項目」に格上げされ,濃度10ppm以下とされた。カドミウムやシアン,トリクロロエチレンと同類の扱いとなり,環境に存在すること自体が問題であると位置づけられた。小川吉雄氏(茨城県専門技術員)に,養豚地帯,酪農地帯での河川水と地下水の硝酸汚染,素掘貯留池からの窒素の地下水流出,畜舎周辺からの窒素やリンの流出,堆肥の多量施用による地下水への窒素流出など,豊富なデータをもとにその実態を明らかにしていただいた。畜産関係者にとっては耳の痛い話かもしれないが,避けては通れない(第8巻)。
地下水汚染や土壌汚染の問題については技術大系「土壌施肥編」第3巻,堆肥などの利用については同第6巻(1)(2)にも詳しい。「畜産編」とあわせて解決の道を拓く基本文献であろう。
地域型畜産いよいよ本格化
ここ数年,食品残渣や家畜糞尿を有機物資源として活用する地域型畜産の方向を目指した追録を行なってきた。いよいよ本格展開である。
☆林家と結ぶ畜産
宮崎県諸塚村の,森を育て牛を育てる,村ぐるみでの「林畜複合システム」は,伐採跡地の植林と下草刈り作業ができなくなってきていた林家と,コスト削減・省力化を目指した村内の畜産拡大の手段としてのクヌギ林放牧という思惑が合致して展開した事例である。現在では,クヌギ林だけでなくスギやヒノキなどの針葉樹林への放牧も始まった。また,村の畜産振興センターが保有する繁殖牛を,林家が借り受けて若い林に放牧し,牛に下草刈りをやってもらう例もでてきている。スギへの被害はほとんどなく,成木ではまったく問題ない。ちなみに,電気柵や飲水施設の経費を資材の耐用年数でみると8,370円/ha/年。牛を放牧しない場合の下草刈り費用は117,000円/ha/年だから,牛の飼料代や管理に手間などを考慮すれば,その差はさらに広がる。林家と畜産農家をつなぐ行政の頑張りがあれば道は拓ける!(第3巻 杉本安寛氏・宮崎大学)。
山口県防府市の山本善行さんの例は,棚田に続いて林地が広がる地域での取組みである。棚田に続く林地に放牧し,山を管理する。氏によると「耕・畜・林の複合経営」だという。シバ草地の造成,山の景観つくりなど,牛を仲立ちにした「牛が管理する公園」の経営展開は,中山間地の一つの方向を指し示している(第3巻)。
シバといえば,ノシバ品種の最新情報を小林真氏(畜産草地研究所)にいただいているので参考にしてもらいたい(第7巻)。
☆食品残渣のえさ利用
今回も,食品残渣の飼料化に関する最新研究をとり上げた。一つは,都市生ごみの飼料化。養豚での例であるが,課題であった「軟脂の発生」も,飼料中の粗脂肪含量が5%以下であればなんら問題なしという結果が報告されている(第4巻 阿部亮氏・日本大学)。もう一つは,健康飲料茶の搾りかすをTMR飼料として活かす技術。原料として配合されているハトムギは牛の脂肪壊死症の治療薬として用いられていることもあり,機能性のえさとして今後注目されていくかもしれない(第7巻 石田聡一・雪印種苗)。このほかエゴマの飼料化についても触れた(第4巻 石川雄治氏・福島県畜試)。
おもしろい動きとしては,地鶏である。「特定JAS規格」によって地鶏表示に法的な規制の網がかかった。選りすぐった地鶏たちを紹介してもらった。また,差別化をねらった銘柄鶏と飼育方法の一覧を収録。地鶏もまた,地元のえさが生きる家畜である(第6巻)。
*
このほか,第4巻「豚」では,近年問題になっている豚呼吸器複合感染症(PRDC)について,最新の成果を石川弘道氏(サミット動物病院)と久保正法氏(動物衛生研究所)にまとめていただいた。ぜひご一読いただきたい。