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「小農の世界」が新しい力を得て蘇る

雑誌『現代農業』2016年4月号「主張」より転載

「小農の世界」が新しい力を得て蘇る

本誌「小さい農業のすゝめ」の連載でおなじみ、石川県の西田栄喜さんの本が発行された。題して『小さい農業で稼ぐコツ 加工・直売・幸せ家族農業で30a1200万円』。西田さんは兼業農家の次男坊、バーテンダー、ホテルマンを経て「日本一小さい専業農家」になって15年。多品目の野菜をつくり、野菜セットや漬物などを直売やネット通販で販売。そのコツを惜しげもなく公開した本書はさいさきのよい売れ行きで、話題の書になりそうだ。

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TPP大筋合意以降、政府や大マスコミは規模拡大や輸出戦略など「攻めの農業」「強い農業」と叫び続けているが、西田さんの農業はまったく逆のやり方。直接、消費者とつながり、地域との関わりを強め、規模拡大は目指さず「ミニマム主義」に徹する。

「大げさかもしれませんが、私は世界の最先端農業のスタイルは『少量多品目家族経営農家』ではないかと思っています」という西田さん。その考え方、やり方は「新しいビジネスモデル」ともいえるが、伝統的でもある。

「元来農家は、家族単位で何世代にもわたり数百年続いてきたのが当たり前の世界。小さいからこそ、歴史の表舞台がどんなに荒波の時でも水面下でしたたかに生き抜いてきたのではないかと思います。そしてこれからも激動の時代。こんな時こそ小回りのきく農業経営が生き残れる手段の一つかもしれないと思っています。私はこのような家族経営的農家がもっともっと見直されてもいいと思います」

この国の百姓衆が、根絶やしにされようとしている

「もっともっと見直されてもいい」家族経営、昨年11月には、九州の農家や研究者を中心に「小農学会」が設立された。このねらいについて、佐賀県の山下惣一さんが、今月号の「意見異見」(344ページ)で次のように述べている。

「『小農学会』なるものを立ち上げた。(略)なぜ、それがいま必要か? 改めていうまでもあるまい。政府の政策によって百姓が駆逐されようとしているからである。日本人の命を支え、国土を守り、代々そこに住みついて地域社会を形成し伝統文化を継承してきたこの国の百姓衆がまさに今、根絶やしにされようとしているのだ。百姓がいまほど自信を失い前途に光明を見出せず、不安に生きている時代はあるまい。この状況を自分たちの知恵と力で変えていきたいのである」

学会の立ち上げにあたって「小農」という言葉が問題になったが、山下さんはこう述べている。

「『小農』=『小規模農』と理解されるが経営規模で決めようとすると収拾がつかなくなる。大か小かは相対比較の問題だからだ。私は耕作面積の規模や投資額の多寡ではなく、農業の目的によって区分すべきだと考える。

主に家族労働によって暮らしを目的として営まれているのが『小農』であり、規模は小さくても雇用主体で利潤追求を目的とするのは『大農』である。若いころ私が大好きだった守田志郎もそんなことを書いていたように思う。家族農業と同義であり、昔からいう『百姓』のことだ。日本は99%小農の国である」

守田志郎さんの「小農はなぜ強いか」

山下さんが大好きだった守田志郎。1971年(昭和46年)に、『農業は農業である』(農文協刊)という本を書き、それ以後、本誌『現代農業』や農家との交流会など、農家に語りかける活動に精力的に取り組んだ。

その守田さんの著書に『小農はなぜ強いか』(1975年刊、その後『農業は農業である』などとともに農文協の「人間選書」に収録)がある。守田さんは「小農というのは、家族が中心になって行なっている農業的な生活のすべてを意味している」とし、それがなぜ強いのかを、本書で優しく、深く、書き綴っている。

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この本のはじめのほうに、当時出された「農業白書」についてのテレビの解説の話がでてくる。

「なにもニュースキャスターまでが国の弁解を代行することもなかろうにと、いささか絶望的になる」と守田さんにいわしめたニュース解説はこんな具合だ。

「工業経済がこんなに成長しているのに、日本の経済の矛盾があれこれの形で現われるのは、農業の規模が小さいからである。そして、自分で食べるために作っているというような農業をやっている農家が多く、そのため、広い国土の貴重な資源が産業的に利用されずに眠っている。これをどうするかが今日の一番重要な問題であることを、この白書が示している」

40年も前の話だが、似たようなことをいう人は今でもいるし、財界や政府は農業や農地を「産業的に利用」すること、そのために小農を追い出すことにますます熱心になっている。

さて、「小農はなぜ強いか」。切々と語りかけるエッセイ風の守田さんの文章の一部を引用することの無理を承知でいくつか紹介したい。

「面積の問題なのではなくて、生活と生産の仕方の中に、小農らしさがある、ということなのである。そういう意味では、農家はみな小農なのである」

「人の働きを頼りにせず、人の働きでもうけようとしないということは、農家は資本家にはならないということである。そして、つまり、農業は工業のような資本にはならない、ということなのである」

「人びとの値打ちを軽く小さくしながらそのことによって大きくなっていく資本にくらべるならば、農家というものは、他人の値打ちを小さくしたり傷つけたりすることもなく、また、他人からその値打ちを損なわれることもなく、一人一人の人間として、それぞれに暮らす部落の地にその生活を根ざす動かしがたい存在なのだと思う」

そして守田さんにとって、「小農」と「それぞれに暮らす部落」は切り離すことができない。

「部落は(略)だれかが良いものだと思って作ったものでもないし、だれかが悪いことをたくらんで作ったのでもないのです。農家が農耕の生活をしているということで部落は自然にできているもののようなのです。そして、そういうものだから、部落は強く、他の人たちがいろいろにおせっかいをやいたりしても、容易にこわれたりしないのです。人が考えて作りあげた『人の組織』ならば、人の力でこわすことは可能ですが、人が意識しないでできている人と人との関係だから、こわれそうに見えてもなかなかこわすことができないのです」

「重症になるおそれ」と「復元力」

「こわすことができない」けれど、「重症になるおそれはある」と守田さん。

「部落はだめだ、部落なんかいらない、と農家のみんなに思い込ませるような外からの指導、教育といったもの、情報といったものの影響があまりにつよくて、農家の人たちがほんとうにそう思ってしまうようになると、その結果、部落はそうとうな重症になって、みんな、ほんとうに農業の生活がやりにくくなっていくおそれもあるのです」

しかし、「復元力」が働く。

「あまり重症でなければ、みんなが暮らしにくくなり農業をやりにくくなったことに気がついて、部落で何度も集まって話し合ったり、その話し合いできめたことをみんなで実行したりして、いつのまにか部落はいきをふきかえしている、ということになるのです」

それから40年、むらはずいぶん変わった。かつて、田んぼ地帯なら「オール兼業農家」といった様相だったが、今では、土地持ち非農家、自給農家、販売農家、集落営農、法人・株式会社など、農家の多様化、「階層分化」が進んだ。集落営農や大規模農家が増え、小規模農家も農家数も減った。これは「重症」なのだろうか。

守田さんが目にしていた農業・農村と現代とで、大きく違うことが2つある。

一つは直売所や直売など、直接、地域住民や消費者とつながる販売方法が飛躍的に広がったこと。かつて販売といえば共選・共販、市場出荷のことだったが、今ではたくさんの小さな農家が参加して直売所が賑わい、先の西田さんのような直売・加工も、その気になればやれるようになった。

もう一つは、集落営農に代表される農家の協同が大きく進んだこと。あるいは、大きな農家と小さな農家の連携もある。西田さんも、大規模農家とのつながりを大事にする。

「地域としては大きな稲作農家のまわりに小さな野菜農家がたくさんいる。そんなご飯とおかずのような関係が理想形でないかと思っています。

稲作農家から出る米ヌカやワラ、モミガラ、また転作で出る規格外のダイズなどを野菜農家が利用して、逆にその米を野菜農家も販売するというようなネットワークがあちこちにできたら、地域も強くなっていくのではないかと思っています」

「農地の出し手を生産から遠ざけたらダメなのさ」

ここで「土地持ち非農家」について考えてみよう。

「土地持ち非農家」は、農林統計上では、農家以外で耕地及び耕作放棄地を5a以上所有している世帯。政府やマスコミはもちろん、一般的にも「土地にしがみつき、農業の発展を妨げる悪者」のようにみられがちだが、次のようなむらのほうが普通なのではないか。

「田園回帰」で全国的に注目を集めるようになった島根県邑南町。ここでは、集落営農が地域を支える大きな力になっているのだが、集落営農の立ち上げに当たっては、どの集落でも10年後の農家人口予測を行なった。この時、自給農家や土地持ち非農家も含めて集団営農する形を目指し、農作業に従事できそうな人をすべてあげていった。

役場職員として多くの集落営農の立ち上げに携わり、現在は地元の集落営農で活動している坂本敬三さんは、こう述べている(「集落営農どう立ち上げた? 集落の10年後予測が第一歩」本誌2014年8月号)。

「K集落では、後継者のいる農家、いない農家が同舟しているので、皆さん複雑なご様子。高齢女性一人ともなると、すでに離農し、農地を誰かに預けている場合もあります。聞けばそのようなおばあさまもすべての農作業は無理だが、軽作業ならまだ可能とのこと。ではもう一度表舞台に戻り、できる作業をしてもらえば、一部の農家に負担がかかることもなくなるかもしれません」

そんな話はいろいろある。岩手県盛岡市の農事組合法人となん代表・熊谷健一さんは「9割の人(農地の出し手)を生産から遠ざけたらダメなのさ」といい、「草刈りや水管理・水路管理は生活部(出し手農家が多い)の事業としていく」という(『季刊地域』18号・2014年夏号)。

直径40kmの範囲、約180人から農地を借り、直売所・米粉パン屋・レストランが一体となった店で地産地消を進める福井市の(株)アジチファーム。代表の義元孝司さんが心配するのは、田んぼを預けて土地持ち非農家になってしまった人たちが、だんだんにこの地に住み続ける理由を見失うかもしれないということ。農地という絆を失うと、地域と自分をつなぎとめるものがなくなるからだ。

そこで農業者にできること、やるべきことは「食」だと義元さんは思う。ここにいればおいしいものが食べられる、目の前の、いうまでもなく安心なものが毎日食べられる――その幸せを提供すること。そしてそれを「仕事」にすること。地主であり、かつお客さんでもある人たちと連携して、一つの商圏をつくるのだ(同20号・2015年冬号)。

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「非農家」でも村びとであり続ける。村びとであり続ければ、やがて孫がもどってきて農業や地域の担い手になってくれるかもしれない。

また、こんな「新規就農」の新しい形も生まれている。

今月号「市民皆農の時代へ 小さい畑で農家になった」(312ページ)では、大阪府の「準農家制度」を紹介した。「農家ではないが、農業をやってみたい」という人に遊休農地を貸し出すもので、農地の荒廃化を防ぐとともに高齢化する農業の新たな担い手を育てることがねらいだ。制度が始まって5年で77人の準農家が誕生した。直売所などに出荷する人だけでなく、本格就農への足がかりにしている人もいるという。

「この制度ができた背景には、大阪府の実情と国の農業政策が合わないという問題があった」と大阪府環境農林水産部の加茂長郎さん。大阪では圧倒的に小規模な農家が多いが、国は大規模な農家ばかりを支援をしている。そこで大阪の実情にあった独自の制度が必要と考えたのである。

準農家の年齢は、半数近くが50歳未満の若い人たちで、仕事をしながら準農家になった人、農業生産法人で働きながら準農家になっている人、子育てが一段落ついたので、自分でも安全な農産物をつくりたいと準農家になった女性もいる。動機や経営内容はじつにさまざまだ。

そして、準農家としてうまくやっていくには、地域の人とのつながりがとくに大事だという。そこで草刈りや用水路掃除などの共同作業には必ず参加するようにと府からは話している。また、準農家になった人を集めて、地域のベテラン農家の畑で一緒に農作業体験ができる場を設けることもある。

昔からの小さい農家と新しい準農家がつながる。

アメリカでも急増する直売所

「生活と生産の仕方の中に、小農らしさがある」と、守田志郎さんはいう。農家の多様化、「階層化」が進んでも、「生活と生産」をつなぐ農的生き方を希求し、地域に生きる「小農の世界」は、新しい力を得て蘇っている。企業的農業をめざす法人といっても多くは地域への愛着は強く、地域を支え支えられている。大事なことは、地域住民、市民を含め、多様化した農家を結ぶこと。守田さん流にいえば「農家が農耕の生活をしているということで自然にできている部落」を、その「自然さ」を大切にしながら、いろんな力を集めて復元力を発揮していくことである。

TPP推進+強い農業という「TPP的世界」から「小農の世界」を守ることは次世代への責任なのだと思う。

「TPP的世界」の御本家であるアメリカでも家族農業は強く、そして家族農業は本質的にTPPに反対である。

少し前の話だが、米国の家族経営農家でつくる団体のメンバーが、TPP交渉の日米閣僚協議の会場で「アメリカ農民は日本農民を支持する」と日本語で書かれた横断幕を手に、TPP交渉への懸念と日本の農家との連携を訴えた。

「牛肉や豚肉の生産者団体が日本に大幅な市場開放を迫っているのに対し、NFFC(全米家族経営農場連合)のオゼー事務局長は『貿易で利益を得るのは業界や輸出業者だ』と指摘。低価格の農産品を輸出することは、『米国と相手国の農家双方の力を弱める』と指摘した。米国政府に向けて『日本の農家をいじめるな』とのプラカードも掲げられた」(「日本農業新聞」2014年9月26日付)

アメリカでも8割以上が小規模な家族経営で、その半分以上は兼業農家。そして近年、ファーマーズマーケット(直売所)が急速に広がった。ちょっと古いデータだが1994年から14年間で2.7倍の4400になり、その後も増え続けている。CSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)という「地域社会に支えられている農業」もますます盛んだ。地元の小規模農場を支えている人々を「ロカボア(LOCAVORE)」というそうで、「地元で作られたものを食べる人」という意味の造語だが、この言葉、2007年のアメリカの流行語大賞に選ばれている。

 2014年は国連の「国際家族農業年」だった。「小農学会」の立ち上げの背中を押してくれたのも、家族農業こそ世界の困難を打開すると宣言した「国際家族農業年」だと山下さんは記している。

多くの農協人に読まれた農文協のブックレット『農協の大義』で大田原高昭さん(北海道大学名誉教授)は、「小さい農家」を守ってきた日本の農協への高い国際的評価を紹介し、こう述べている。

「大切なことは、日本の経験が小規模家族農業の可能性を事実をもって示していることである。その意味では、日本農業は人類史的な大実験をしてきたのだといってよい。その大事な実験を中途で断ち切り、企業農業に切り替えようとする愚行を、世界はいま糾弾しているのである」

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(農文協論説委員会)

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