阿川佐和子聞き書き甲子園の魅力 七年前、初めて「聞き書き甲子園」のお手伝いの依頼を受けたとき、正直なところ、はたして高校生が森で働く人々にどれほど関心を抱くのか、レポートを書くことが彼らの今後にどんな好影響をもたらすのか、少々疑っていた。しかし不安はどこへやら。回を重ねるにつれてこの活動の勢いは、まさにネズミ算方式に盛り上がり、当初の想像をはるかに超えた意義と実質をもたらしている。まず、ひと夏の思い出作りといった軽い気持で参加した高校生たちは、自分のおじいちゃん、おばあちゃんほど歳の離れたかけがえのない友達をつくり、その喜びを思い出だけに納め切れなくなる。「聞き書き」卒業生の多くが先輩として、次年の活動を支える貴重な力となったうえ、全国の森作りに関わってさらなる活動に踏み出している。同時に「聞き書き」を受けた森の名人たちにとっても、衝撃だったようだ。テープを回し、熱心に質問し、そして思いの外、立派なレポートを完成させてくれた高校生たちに対し、感謝と親近感を抱くようになる。そして、もはや消えゆくだけの職業と自覚していたはずが、もう少し頑張ってみようかという意欲へと変貌するのである。
「こんな若い子が私に興味を持ってくれるなんて思ってもいませんでしたよ」
 そう呟く名人の笑顔をいくつ見たことだろう。森を大事にしよう。早急に後継者探しをしなければ。切迫した難題を机上で論じるより、まずは出会ったことを宝にすればいい。それだけで互いの元気がどれほど回復することか。「聞き書き甲子園」は、そのことを森と大地のなかで教えてくれている。  阿川佐和子(あがわ さわこ/文筆家・インタビュアー)

塩野米松聞き書き甲子園の魅力 あなたは自然や森を大事にしなければとお考えですか? テレビや新聞で「自然」や「森」のことが取り上げられ、たくさんの本も出ています。皆さんの中にも、自然や森と触れ合ったり、様々な活動に参加している方がいるかもしれません。しかし、自然や森のことを本当はどれだけ知っているのでしょうか? わかったつもりになっていませんか?
 私たちは森と共に生きる人々の暮らしや生き方を知ってもらいたくて、「森の聞き書き甲子園」を始めました。樵や猟師、炭焼き職人など、自然や森の中で生きてきた「森の名手・名人」に、毎年100人の高校生が森の仕事、草木のこと、培われ受け継がれてきた森の技と知恵、その人の考え方などを一対一で聞きに行き、お話を文章にまとめる活動です。名人は、単なる知識としての自然や森だけでなく、生活の一部として向き合ってきた自然や森を語ってくれます。高校生のまとめた聞き書き作品は、森と人のつながりを知る、大事な手がかりになるのではと思っています。
 名人が高校生に語った言葉を、じっくりと噛みしめてください。そして、森と共に生きる、新たな価値観をつくる糧を得ていただければと思います。。  塩野米松(しおの よねまつ/作家)

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