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<診断>

トマト 灰色かび病


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トマト 灰色かび病

トマト 葉
トマト 果実
トマト 茎




ナス科

[学名]Botrytis cinerea Persoon
[分類]糸状菌/不完全菌類
[英名]Gray mold
[別名]鼠黴病



↑葉の病斑:葉に発生した褐色の大型病斑と表面に生じた灰色のかび。(竹内 妙子)

↑幼果での発生(竹内 妙子)

↑花と果実での発生(竹内 妙子)

↑分生子:分生子梗の上に房状に形成された分生子。(竹内 妙子)


診断の部

〈被害のようす〉

▽果実,花弁,葉などに多く発生するが,茎,葉柄にも発生する。

▽幼苗期や定植後に茎の地ぎわ部に発生すると被害部は褐変し,その部分に灰白色のカビを生じ,病勢の激しいときは株全体が枯死することがある。また地ぎわより上の茎に発生すると,紫褐色に囲まれた淡褐色~暗褐色で長楕円形の,大型の病斑をつくる。発病した茎の付近にある葉や葉柄も侵されることがあり,枯死して垂れさがる。このような被害は,土壌に接触している茎葉に多い。病斑が茎を一周すると,その部分から上が萎れて枯死する。

▽幼果では,はじめ,咲き終わった花弁に灰褐色のカビが密生し,花落部から幼果に広がり,幼果全体が灰白色のカビで覆われ,肥大せずに終わる。未熟果では,被害部は水浸状となり,その表面に灰白色のカビを生じ軟化腐敗する。

▽葉では,葉身に落ちた花殻を足がかりに紫褐色に囲まれた淡褐色の病斑を生ずる。拡大して周囲の葉や葉柄に広がり,ついに褐変枯死する。また葉縁からは淡褐色に枯込む病斑を生じる。

▽被害部には灰白色のカビを密生することが多いが,温度が極端に低いときには生じない。

▽灰色かび病は,促成栽培,半促成栽培,抑制栽培など施設栽培で多発する。20℃くらいで多湿のときに発生しやすいので,一般に11~4月にかけてみられるが,曇雨天が続くと5~6月にも発生することがある。また,トンネル栽培や露地栽培では,育苗期や梅雨期に発生することがある。

▽多発すると著しく減収する。灰色かび病はハウス病害の中では葉かび病やすすかび病,菌核病と並んでおそろしい病気である。とくに果実に発生が多いので,多発すると著しく減収する。

〈診断のポイント〉

▽促成栽培,半促成栽培,抑制栽培など施設栽培で発生しやすい。

▽トンネル栽培,露地栽培では育苗期や梅雨期に発生することがある。

▽果実,花弁,葉,葉柄,茎などの被害部の表面に,灰白色のカビを密生させる。

▽発生が著しい施設栽培では,緑色の果実に2~3mmのゴーストスポットと呼ばれる白いリング状の病斑を生じることもある。

▽菌核病の場合も果実が腐敗するが,病斑部に灰白色のカビではなく,白色綿毛状のカビとネズミ糞状の菌核を生じるので見分けることができる。

防除の部

〈病原・虫の生態,生活史〉

▽灰色かび病は,不完全菌に属する一種のカビによっておこされる。灰色かび病菌はトマトのほかナス,ピーマン,イチゴ,キュウリ,レタスなどの野菜や多数の花卉類,果樹類を侵し,灰色かび病をおこす多犯性の病原菌である。

▽灰色かび病菌は,被害部に生じた菌糸,分生胞子,または菌核(菌糸のかたまり)で越年する植物病原菌であるだけでなく,有機物の上で腐生的に繁殖をつづけることができ,伝染源となる。

▽灰色かび病菌の発育適温は23℃くらいである。低温の場合には,分生胞子をほとんど形成しない。

▽越年した分生胞子や菌糸,菌核から生じた分生胞子は,風によって飛散し宿主上にうまく付着すれば発芽して菌糸を伸ばし,柔軟な部分から侵入して感染する。

▽灰色かび病菌は,とくに咲き終わった花弁の上でよく繁殖し,つづいて菌糸によって幼果に蔓延し発病させる。

〈発生しやすい条件〉

▽ハウス栽培で11~4月にかけて発生しやすい。この時期には外気温が低いため,とくに夜間の冷え込みをおそれてハウスを密閉しがちである。20℃くらいで室温も低く多湿になりがちで,葉先に水滴が滞留する環境になると発病しやすい。

▽密植しすぎたり,軟弱な生育となったり,繁茂しすぎたりすると発生しやすい。

▽ハウス促成栽培や暖地のハウス抑制栽培では密植栽培になりやすく,多湿になり多発しやすい。

▽とくに,朝夕の急激な冷え込みは,灰色かび病の発生を著しく助長する。

▽着果後の花落ちの不良な品種にも発生しやすい。

〈対策のポイント〉

▽低温にならないように,保温に努める。

▽多湿にならないように,日中高温のときは積極的に換気を行ないハウス内の水分除去に努める。

▽発病前から薬剤による予防散布を行なう。

▽ビニールなどによるうね面や通路のマルチを行ない,施設内の湿度の低下と土壌中の罹病残渣からの伝染を防ぐ。

▽果実に付着した花は早期にとり除く。ブロアーやコンプレッサーによる花殻の吹き飛ばしも省力的である。

▽発病した果実や茎葉は分生胞子形成前に見つけ次第,摘除し,施設外へ搬出して土中深く埋める。被害部位に分生胞子形成が認められたら胞子が飛散しないようにていねいにビニール袋などに密封して処分する。

▽ポリビニルアルコールフィルムは吸放湿性や透湿性があるので,これを内張りに用いると夜間や早朝の多湿環境が改善され発病は抑制される。

〈防除の実際〉

▽毎年発病する圃場では発病のおそれのある1か月くらい前から,ボトキラー水和剤など生物農薬を散布して,病原菌の増殖を抑えると本病の発病予防になる。ボトキラー水和剤の散布にあたっては液体散布だけでなく,水を用いない送風ダクトを利用した散布も登録されているので,発病前から定期的に予防散布しておくことも有効である。ただし,最低気温が15℃を下回ると有効成分の微生物が十分に活動できないので防除効果は低くなる。

▽発病果に形成された灰色かび病の分生胞子が密な場合は,発病果を圃場外へ持ち出し適切に処分してから薬剤散布する。病原菌密度が高い状態で薬剤散布すると耐性菌の発達を助長することになる。

▽通路に籾がらを敷いてその上からマルチをするなど,通路からの水分蒸発を防ぎ,日中の換気を十分行なってハウス内の水分をできるだけ外に放出したうえで,散布した薬液が十分に乾く余裕をもって防除を行なう。

▽発病した果実や葉をできる限り圃場から持ち出したのち,ベンレート水和剤,ロブラール水和剤,ゲッター水和剤を散布する。耐性菌のおそれがある場合は,ジャストミート顆粒水和剤,フルピカフルロアブルを散布する。さらに,灰色かび病のほか菌核病や葉かび病などと同時防除をねらう場合は,アミスター20フロアブル,ファンタジスタ顆粒水和剤,カンタスドライフロアブル,アフェットフロアブルなどを1作1回使用で輪番散布する。

▽ジャストミート顆粒水和剤,ファンタジスタ顆粒水和剤,アミスター20フロアブルは,ミニトマトに適用登録されていない。

▽灰色のかびがやや粗であったり,やや黒褐色になっていれば,その分生胞子は活性が低いか死滅しているので,その後の二次伝染は少ない。このようなときには散布しなくてもよいが,他の病害が発生していれば上記薬剤にダイアメリットDFやベルクートフロアブル,ダコニール1000,オーソサイド水和剤80,ポリオキシンAL水溶剤などを混合散布する。散布間隔は長くしてもよい。

〈その他の注意〉

▽ハウス内の保温,換気に努める。灰色かび病は,高温で湿度を低く保てば発生は少なくなる。露地栽培で発生が少ないのは,このためである。日中高温のときにはつとめて換気を行なったり,株元にマルチを行なったり,地下給水を行なったりして湿度を下げる。また朝夕の冷えこみを防ぐために,暖房に努める。

▽日ごろから気象情報,トマトの生育状況などに注意し,発病が予想されたら薬剤散布を開始する。地ぎわ部にも十分薬液がかかるように散布する。

▽カリグリーン,ハーモメイト水溶剤およびボトキラー水和剤は,有機農産物の日本農林規格(JAS)によって使用が許可されているので有機農産物の生産にも使用できる。

▽ボトキラー水和剤などの生物由来殺菌剤は,多発してからでは効果が劣るので,開花期からの予防散布に用いる。

▽灰色かび病は薬剤耐性菌が発生しやすいので同一薬剤を連用しない。

▽繁茂しすぎたりすると風通しが悪くなり発病しやすくなるので,栽植密度,施肥,誘引,整枝,灌水などに注意する。

▽老化した下葉は発病しやすいので,早期に摘除して発病を防ぐとともに株元の通風を図る。

▽伝染源となる被害果,茎,葉は早期にとり除き,施設外へ搬出して土中に深く埋める。

〈効果の判定〉

▽薬剤散布を行なっても,灰色かび病の発生が止まらない場合は,耐性菌のモニタリングを依頼するとともに,換気・保温などについても十分検討してみる。

■執筆 阿部 善三郎/善林 六朗(東京都農業試験場/埼玉県園芸試験場)
■改訂 岡田 清嗣(地独・大阪府立環境農林水産総合研究所)  (2013年)

≪適用農薬表 (岡田 清嗣,2013)

この場所に掲載されていた農薬表は、内容が執筆当時のものであるため、非表示にしています。

使用できる農薬については、『登録農薬の確認』ボタンを押すか、『登録農薬検索』のコーナーで確認してください。


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