県東部(呉東)で富山湾沿岸の滑川《なめりかわ》、魚津《うおづ》、黒部あたりでは、うまづらはぎや鯛、ぶりなどを焼いてむしった「むしり魚」と、野菜やなるとも入った具だくさんの雑煮がつくられます。紹介するレシピは滑川の商家で食べられてきたものです。魚の頭も捨てずに一匹丸ごとを利用します。昭和30年にこ……
大阪の雑煮は白味噌で焼かない丸もち、子芋(里芋)、大根、焼き豆腐が定番です。 大阪の人は甘い白味噌が好物で、とくに雑煮用には普段使う白味噌より上等の“雑煮味噌”を注文したり手づくりしました。普段の白味噌の味噌汁よりだしをきかせた、こくのある雑煮で三が日毎朝祝いました。家庭によっては「うるうもち」……
紀州藩の城下町として栄えてきた和歌山市と、その南側の海南市から紀美野《きみの》町にかけて食べられている雑煮です。白味噌仕立てに、丸い小もちと小豆をつきこんだ赤い福もちを焼かずに入れ、小芋(里芋)、青身大根、真菜《まな》を入れます。年末になると雑煮用の青身大根と真菜が店頭にたくさん並ぶのは、今もこ……
奈良市や天理市の雑煮は焼き丸もちの白味噌仕立てです。もちは雑煮から出し、きな粉をつけて食べます。丸く切った大根や里芋などの具には和(輪)を大事に、丸く収まるようにとの思いが込められ、きな粉は黄金色が豊作を意味しています。豆腐は白壁の蔵が立つようにと蔵に見立てて切ります。 大和郡山市は白味噌仕立て……
県内陸で田園地帯や丘陵、奥羽山脈にまで広がる加美《かみ》町の山間部で教わった雑煮です。この地方では、魚類を雑煮に使う習慣はなく、精進に近い雑煮が食べられてきましたが、近年では多くの家庭で鶏肉など動物性の具が使用されるようになっています。その中で、野菜類と油揚げ、凍み豆腐といった精進の雑煮が受け継……
三重県は角もち・丸もち、醤油味・味噌味、そして具の種類や組み合わせで、非常に多様な雑煮がつくられています。ここで紹介するのは伊勢平野の中心である鈴鹿市、白子《しろこ》のすまし仕立ての雑煮です。大晦日に大鍋一杯《いっぱい》の輪切りの大根を煮ておき、ときどき火を入れて三が日はその大根と角もちだけの雑……
広島県の雑煮には塩ぶりが入ります。広島ではぶりは大ごちそうで、年末に塩ぶりを1尾購入し、無駄なく食べ切りました。ぶりは島根県から入ります。山陽から山陰に抜ける交通の要である可部町と、県北にかけては、昔は塩ぶりを家々の軒につるし、大きさを近所と競ったそうです。 元日という一年の中で最もハレの日に食……
土佐の雑煮は「角もちすまし汁」が基本で、場所によってだし材料と上にのせるものが違います。高知市内でも高知城下に近い中心部では、昆布とかつお節でだしをとり、里芋と潮江菜を入れるのが定番でした。ほっくりと煮えた里芋としゃきしゃきの潮江菜、煮もちにしたやわらかいもちが醤油味の汁とからまって、なんともお……
目を見張るほど大きなえびに、里芋、さつま揚げ、かまぼこ、干し椎茸、豆もやし。鹿児島の雑煮は具だくさんですまし仕立て、もちは焼きもち、そして、焼きえびでだしをとるのが特徴です。えびは出水《いずみ》市沖の八代《やつしろ》海でとれるクルマエビ科のクマエビです。これを炭火で焼き、干した焼きえびは島津家の……
宮城県の雑煮は「ひき菜雑煮」とも呼ばれます。ひき菜とは大根、にんじん、ごぼうをせん切りにし、さっとゆで、しぼって水けをきり凍らせたもので、凍らせることでしなやかな食感になります。正月中に何度も雑煮をつくるので、凍ったまま汁に入れればよいひき菜は年末に大量につくりおきしておくそうです。県全域で使わ……
米や野菜の生産がさかんな伊勢原市小稲葉《こいなば》では、正月三が日は毎朝、里芋と大根だけのシンプルな雑煮をつくります。 雑煮は、先に神様に供える分をつくります。具の里芋と大根は暮れの晦日に正月三が日分をまとめて切ってゆでて、昔は外の納屋に保存しました。この野菜を水と味噌で煮て、生ののしもち(切り……
鶏肉、小松菜、なるとに焼いた切りもち、かつおだしのすまし仕立てが東京の雑煮として紹介されますが、23区内から奥多摩までの7地域で調べたところ、だしも具も地域によって違いがありました。 品川はいわゆる東京の雑煮ですが、板橋では小松菜と八つ頭のみ。小松菜は名(菜)をあげる、八つ頭は子孫繁栄の縁起をか……
味噌仕立ての汁にもちとかつお節のみの大変シンプルな雑煮です。もちも直径7~8㎝と一般的なものよりひとまわり大きいのが福井、とくに県北部の嶺北《れいほく》の雑煮の特徴です。この雑煮を毎年食べているので、たくさんの具材がのった雑煮には違和感があるという人も多いです。「味噌ともちのみで、それぞれのおい……
府北部の丹後地域では、小豆雑煮や味噌雑煮(海藻入り、かぶ入りなど)で正月を祝います。小豆雑煮を食べる家庭の方がやや多いようです。元日に食べるか2日に食べるかは家庭によります。 小豆はその赤色が邪気を払う厄除けとされ、祝いのときの赤飯や正月の小豆雑煮などで大切に食べられてきました。自家で収穫した小……
県内の雑煮は「平もち(丸もち)で焼かない」という共通点はありますが、味つけや具が異なります。 東部と隠岐《おき》地域ではかつお昆布だしのすまし汁に、花かつおと雑煮用のもちのりをのせたのり雑煮。のりは、十六島《うっぷるい》のりという出雲市平田地区十六島地方でとれる、朝廷や将軍家へも献上されてきた天……
県内の一般的な雑煮はいりこだしに白味噌仕立てで、丸もちに大根、小芋(里芋)、にんじん、真菜を入れます。醤油仕立てや角もちの地域や家庭もあり、1日目は丸もちで白味噌、2日目は角もちを焼いてすまし汁で食べたりもします。 もちに黒砂糖をかけるのはやや内陸部の勝浦郡で、海寄りの勝浦町は白味噌仕立て、山寄……
熊本の雑煮に共通しているのは、醤油仕立てで丸もちが使われることです。具は大根、にんじん、里芋、椎茸、ごぼう、京菜、昆布、するめなどがよく使われ、縁起のよいように丸く切ります。これにちくわ、かまぼこ、焼き豆腐などが加わります。30㎝もの長さになり、長寿を願う縁起物とされる伝統野菜の水前寺もやしを入……
すまし仕立ての雑煮に甘いくるみだれを添える食べ方は、宮古市周辺のきわめて限定された地域で昔から続いてきたものです。リアス海岸の三陸沿岸は海に続きすぐ山となり、田んぼはほとんどなく米は貴重品でした。もちはさらに貴重で、雑煮と、ごちそうの代表であるくるみもちの両方を味わいたい、食べさせたいと考え出さ……
すまし汁にもちを入れ、あぶったはばのりと青のり、かつお節を混ぜたものをたっぷりかけます。濃いうま味と潮の味がきいた雑煮です。県東部の海匝《かいそう》地域、とくに山武《さんむ》市や東金《とうがね》市、海沿いの九十九里浜周辺などで食べられています。東金市は海沿いではありませんが、海産物が集まる問屋町……
ぶりは成長に従って呼び名が変わる出世魚です。縁起のよい魚で年取り用の高級魚として珍重され、かつて富山湾でとれたぶりは塩ぶりにして松本を経由し、木曽、諏訪、伊那方面へ運ばれました。安曇平はその流通経路にあたり、経済力のある家庭では暮れには塩ぶりを1尾購入しました。神棚に頭や尾を供え、神仏に一年の無……
米麹がたっぷり入った白味噌で仕立てた甘口の雑煮です。白味噌は熟成期間が短く、塩分量が少なく、日持ちのしない贅沢な食品でした。そのため、白味噌雑煮が食べられていたのは比較的裕福な家庭です。京都では、白味噌は雑煮の他にも和え物や魚の西京漬けなどの料理や、花びらもちなどの菓子にも使われてきました。 農……
宍粟《しそう》市千種《ちくさ》町は中国山地の標高千メートル級の山々に囲まれた、89%が山地の豪雪地帯です。その山奥だからこそ、正月だからこそ食べる「はまぐり雑煮」です。お年寄りは、「はまぐり雑煮はおいしいでぇ。今度お雑煮にはまぐり入れてみぃ」と口々に話してくれます。今も年末には地域の商店にはまぐ……
鳥取県ではほぼ全域で、また島根県や岡山県の一部でも、いわゆる小豆ぜんざいが雑煮として食べられています。元日には新年を祝って小豆雑煮を神棚に供え、食事としても食べる風習があります。 小豆は県民にとって身近な食材で、赤飯、小豆ご飯、おはぎ、ぼたもち、あんころもちなど、主食として小豆を使った料理が多く……
県北の雑煮はするめを入れるのが特徴です。だしも出るし、少し歯ごたえのあるするめとやわらかく煮えたもちの食感が楽しめます。もちは注意しないと「花が咲いたように」やわらかくなりすぎるので、火を通すときにはみんなが集まってから湯を沸かし、もちを入れたら弱火または火を止めて、加減をみながらよそうのが恒例……