県北西部に位置する諸塚村《もろつかそん》の料理です。村の94%は山林で、かつては林業、椎茸、茶、肉牛の複合経営が行なわれていました。 おひらと呼ばれる正月の煮しめは、春に収穫し保存しておいたぜんまい、たけのこ、自宅で栽培した椎茸、里芋、手づくりの豆腐の厚揚げ、こんにゃくが材料です。これにいわしの……
大根もちは台湾や中国の南の地域で正月前後につくられるもちです。神戸には欧米人が中心の異人館街とは別に南京町と呼ばれる中華街があり、周辺には華僑や東南アジアの人々が多く居住しています。南京町の旧正月(春節祭)は外国の祭りというよりも神戸の年中行事のようになっていて、そこで欠かせない大根もちを日本人……
県内の多くの地域では4月3日は学校が休みで、近くの山に花見に行きました。子どもたちは赤と緑のようかんが入った弁当と、シナモンの香りがするカラフルなニッキ水を持って出かけます。聞き書きをした広島市南区の家庭では毎年、家族で近くの黄金山《おうごんざん》に登りました。黄金山近辺は江戸時代に、広島湾に浮……
おくずかけ(お葛かけ)は、かたくり粉などのでんぷんでとろみをつけた具だくさんの汁物で、宮城県の代表的な郷土料理です。禅宗の普茶料理の「雲片《うんぺん》」(細かく切った野菜をくずでとじたもの)をまねたともいわれており、もともとは寺院で食べる精進料理でした。それが家庭に広まってお盆やお彼岸に食べるよ……
日向《ひゅうが》灘に面し県中央部に位置する川南町《かわみなみちょう》は米、さつまいも、果樹、茶などの栽培とともに、畜産業がさかんです。だぎねん(駄祈念)は、地区ごとに豊作を感謝し、家内安全・牛馬安全・五穀豊穣を水神様に祈る行事です。 孫谷《まごたに》地区では毎年旧暦9月15日に行なわれます。祭り……
県南部の人吉・球磨《くま》では、地域ごとに親しまれている神社があり、多良木町の天満宮なら「天神さん」、湯前町の里宮神社なら「里宮さん」と呼ばれます。各神社の秋祭りのごちそうに決まって出されるのがつぼん汁です。里芋やにんじん、ごぼう、鶏肉や焼き豆腐などを小さく切って煮た具だくさんの汁もので、食べる……
えびす講や節分などにつくる祝いの汁で、大根、にんじん、ごぼう、里芋などを大きく切り、昆布だしで煮こんで汁とともにいただきます。じっくりと煮た根菜のおいしさが溶けこんだ濁りのない汁は、寒い季節のごちそうです。 えびす講の日には「今日はおざく煮よ」と祝い膳がつくられます。新米を炊き、ざく煮、尾頭つき……
平野部で水田が広がる伊勢原市小稲葉《こいなば》では、11月20日はえびす講です。1月から働きに出ていた恵比寿様と大黒様が家に戻られる日なので、2人分の料理やお酒を床の間に用意し、この一年に感謝し、来年の豊穣と繁栄を願います。 お供えするのは赤飯とけんちん汁、尾頭つきの魚、なます、煮しめ、煮豆、み……
福井県は昔から真宗王国と言われるほど浄土真宗がさかんです。その宗祖、親鸞聖人《しんらんしょうにん》の遺徳に感謝する報恩講をはじめ、さまざまな行事のあとにみんなで食事をする「お斎《とき》」があります。一般的にはお斎は葬儀や法事でふるまわれる食事を指すことが多く、故人の供養のためと考えられているよう……
県南西部で飛騨山地の北端にあたる五箇山《ごかやま》地方は、現在は南砺市に含まれますが、砺波平野とは急峻な山地によって隔絶されています。山々に囲まれ平坦地は乏しく、生活の場は山腹のゆるやかな斜面です。わらでしばって持ち歩くことができるほどかたい五箇山豆腐が有名で、山腹を利用した赤かぶの栽培と赤かぶ……
秋口から春先にかけて、正月や祭り、法事などの人寄せがあるときにつくられる具だくさんの汁ものです。地域によってはのっぺ汁とも呼ばれます。味つけは醤油とみりんだけとシンプルで、あっさりしているのでたくさん食べられます。ごちそうの食べすぎで胃が疲れた正月などに、野菜がたっぷり入ったのっぺが喜ばれます。……
煮しめは県全域でつくられる行事食で、大晦日の祝い膳をはじめ節句、冠婚葬祭などに欠かせません。用いる食材が地域の特徴を表しており、秋田との県境の山間部ではぜんまいの一本煮、凍《し》み大根、身欠きにしんなどを使うのに対して、三陸沿岸の大船渡では干し魚が入ります。うま味が強いのでだし汁を使わなくても風……
鯛の唐蒸しは婚礼に際して供される金沢の郷土料理です。かつては嫁入り道具とともに花嫁が持参する雌雄2匹の鯛を、婿側が調理して招待客にふるまう習わしがありました。背開きにした鯛に卯の花(おから)をいっぱい詰めて、大皿に腹合わせに並べます。切腹を連想させる腹開きにはしません。「にらみ鯛」「鶴亀鯛」とも……
郡上《ぐじょう》市の明宝《めいほう》地区で、行事やもてなしの際につくられる、砂糖が入った甘さのある料理を2種、紹介します。砂糖が貴重だった時代に、甘い汁は特別なごちそうでした。 菓子椀は、報恩講や法事をはじめ、節句のお祝いなどさまざまな行事でつくられます。具材を一つずつ味つけし、甘い汁をかけます……
佐渡のどの家庭でも食べられている伝統料理の代表が佐渡煮しめです。コトコト煮こんで味がよくしみこみ、人が集まるお盆や祭りや冠婚葬祭に欠かせません。ご恩がつくように大根、昆布、にんじん、こんにゃくなど「ん」のつく野菜を煮て、だしをたっぷりと吸った車麩を入れることが特徴です。少量ではあまりつくらず、大……
非時《ひじ》(会葬者に出す食事、おしのぎ)の際、近所の人たちが集まり、大量の料理を一度につくり、来客に出すという風習を象徴する料理です。手に入りにくくなった氷こんにゃく以外、特別な材料は使いません。すべての食材を個々にゆで、さらに煮合わせ、合わせ酢で和えるため、衛生的で大量調理に適し、日持ちがし……
山口との県境にある大竹市で、冠婚葬祭や日常の食事として昔から親しまれてきた混ぜご飯です。「もぶる」は「混ぜる」の方言で、白めしに旬の野菜や魚介を混ぜこみます。まめまめしく元気にと入れる黒豆の甘煮の甘味やなめらかな舌ざわりが混ぜご飯にマッチし、絶妙なおいしさです。 家建て(建前)や結婚式などお祝い……
県北の北広島町では、葬儀や法事でふるまわれる食事のことを「おとき」といいます。おときはご飯、汁、おひら、おつぼ、白和えや酢の物などで構成されています。お膳の中で少し深めのつぼ椀に盛る料理がおつぼで、小豆と小さく切った根菜、こんにゃくなどの煮物です。 広島は安芸門徒《あきもんと》と呼ばれる浄土真宗……
県東部の岩国はれんこんが特産で、ハレの日にはれんこんを飾った「岩国ずし(殿様ずし、角ずし)」と「はすの三杯(酢の物)」とともに、れんこんが入った煮物「大平」が必ず出されるといわれます。大平はたくさんの野菜を大きな平釜でごった煮にした汁けの多い薄味の煮物です。汁ごといただき、吸いもの代わりにもなる……
薄い醤油味の汁に甘く煮た小豆が入ります。デザートではなく、料理の一品として冷まして供されます。萩市とその周辺の地域の郷土料理で、祝いごとや法事など冠婚葬祭の膳についていました。日本海に面する萩は毛利三十六万石の城下町なので小豆は切腹してはいけないといわれ、小豆の皮を破らないよう煮上げるのが特徴で……
昔から冠婚葬祭のときによく出された料理で、長門市や萩市、山口市に伝わる伝統食です。「柏椀」と書いて「かしわん」と読む呼び名の由来は、地元で聞いてもわかりませんが、江戸時代の京阪では大型の汁椀のことを菓子椀と呼び、魚や鶏肉、野菜など具だくさんの汁ものを入れていたので、それに由来するのではないかと思……
土佐の宴会(おきゃく)料理は、山、海、野、川の幸を39㎝くらいの大皿に盛り合わせた皿鉢料理です。明治中頃まで全国各地に神様に感謝して食べる「盛り鉢料理」があり、土佐では皿鉢料理として発達しました。皿鉢料理の基本は、「生《なま》(刺身)」と「組み物」です。刺身は、まぐろや旬の魚を平づくりにします。……