<診断・防除>
リンドウ科
トルコギキョウに黄化えそ症状を引き起こすトスポウイルスはTSWVのみが知られていたが,2000年以降に新種のトスポウイルスであるINSVとIYSVによる被害が相次いで報告された。これらのウイルスはいずれも葉にえそ斑点やえそ輪紋を引き起こし,病徴から病原ウイルスを特定することは不可能である。
TSWVの発生はほぼ全国的に被害が広がっているが,INSVとIYSVは日本で発生が確認されてから間がないため発生地域は限られている。2002年までの発生地に関しては,INSVは冷涼地,IYSVは暖地で多発する傾向にある。今後,感染植物の移動やウイルスを媒介するミカンキイロアザミウマやネギアザミウマの被害拡大に伴って,さらに拡大するおそれがある。
ハウス入り口や開口部に発生することが多い。初発は1~数株が上位葉の黄化または黄化を伴ったえそ斑点を示し,下葉に大型のえそ斑紋や退緑輪紋症状を示す。
多発生時は株全体が枯死し,坪状に枯死株が見られることがある。ハウス全体に被害株が散見される場合,見かけ上健全な株にもウイルスが感染している可能性があり,防除は難しい。被害株率が80%を越える場合もある。
最初の発生はハウス開口部や入り口で見られることが多いため,下位葉にえそ斑点や退緑輪紋が生じていないか注意する。1株に病徴が見られた場合,周りの株も感染している可能性が高い。
ウイルス病のため,一度感染した株は薬剤で回復しない。病気が蔓延してからでは手遅れであるため,病徴が見られた株は直ちに抜き取り,土中に埋めるかビニール袋等に入れる。過去に本病が発生した地域では,媒介するアザミウマ類を予防的に防除して発生に注意する。とくに育苗期や定植まもない株が小さい時期に感染すると被害が大きくなるため,アザミウマ類の防除を徹底する。
トルコギキョウえそウイルス(LNV)によるえそ病は本病ときわめて類似した茎頂部の葉のえそ斑点を生じる。下位葉に輪紋症状がでている場合は本病である可能性が高い。検定植物を用いた同定を行なう場合,ChenopodiuM quinoaに接種し,局部病斑を形成すればLNVでなく,本病のいずれかである。ただし,正確な同定にはそれぞれの抗体を使用したELISA検定またはRT-PCRによる遺伝子診断が必要である。
本病の病原ウイルスはアザミウマ類によって媒介されるが,ウイルスの種類により媒介するアザミウマは異なる。TSWVはダイズウスイロアザミウマ,ネギアザミウマ,ヒラズハナアザミウマ,ミカンキイロアザミウマ,チャノキイロアザミウマが媒介するが,とくにミカンキイロアザミウマの媒介率が高い。INSVはミカンキイロアザミウマのみが,IYSVはネギアザミウマのみが媒介する。
感染作物に吸汁することでウイルスを獲得できるのは幼虫期のみで,獲得後一定期間を経た幼虫と成虫がウイルスを媒介する。成虫は新規にウイルスを獲得することはない。経卵伝染はしない。また,非作付け期にはハウス内または周辺の雑草にウイルスが感染し,次作の伝染源になることが知られている。土壌伝染,種子伝染はしない。
アザミウマ類が増殖し,防除が困難になると,一気にハウス全体に被害が蔓延することがある。とくに本病が発生したことがある地域はアザミウマを低密度に抑えるよう心がける。
ウイルスに感染した雑草が感染源となるため,ハウス周辺雑草の刈込みを行なう。アザミウマの侵入を防ぐため,開口部を1mmのネットで覆う。アザミウマの増殖場所となるため,出荷予定のない花は速やかに除去する。
夏期には収穫終了後に施設を密閉して植物残査とアザミウマ類の蒸し込みを行なうことも有効である。
なし。
現在トルコギキョウに登録がある農薬でアザミウマ類に卓効を示す薬剤は少ない。静岡県の防除基準では,オルトラン粒剤1~2g/株(定植前または生育中施用),定植後はオルトラン水和剤1,000倍,アディオンフロアブル1,500倍,テルスターフロアブル4,000倍の散布を指導している。ただし,発生するアザミウマの種類により,防除効果が異なるため注意する。
トルコギキョウでは登録されていないが,アザミウマ類に効果が高いスピノエース顆粒水和剤,マッチ乳剤の早期登録が望まれる。
病徴の認められた株は直ちに抜き取る。ウイルス感染後,1~2週間で発病するため,発病株の周辺をとくに注意し,新たに発病が見られた株は抜き取る。