<防除>

トマト ミカンキイロアザミウマ



ナス科

[学名]Frankliniella occidentalis Pergande
[分類]アザミウマ目\アザミウマ科
[英名]Western Flower Thrips

[多発時期]露地(5~7月),施設(4~6月,9~11月)
[侵入様式]施設開口部からの飛来侵入,苗による持込み
[加害部位]展開葉,果実
[発生適温]20~30℃
[湿度条件]降雨の少ない年に多い
[防除対象]成幼虫
[他作物の加害]キュウリ,ナス,ピーマン,キュウリ,イチゴ,レタス,ネギ,温州ミカン,ブドウ,モモ,花卉類全般

防除のポイント

▽本種はトマト黄化えそウイスル(TSWV)を媒介するため,本病発生地域では育苗時や生育初期に徹底防除が必要である。

▽本種は花卉類や雑草の花で増殖しやすいため,圃場周辺の不要な花卉類や雑草を取り除く。

▽トマト黄化えそウイルスはキク科,ナス科およびマメ科作物にも感染するため,圃場周辺のこれら作物を取り除く,または薬剤による防除を徹底し,ウイルスの発生源を断つ。

▽5~7月は各種雑草の開花期にあたり,野外での発生量が多くなる。特に空梅雨の年には多発しやすく,注意が必要である。

▽トマトでは開花前には葉表に数mmの白斑および葉裏のシルバリングを発生させ,発生確認の目安となる。また,開花後は主に花に寄生し,子房への産卵により幼果に白ぶくれ症状が発生させる。なお,これらの被害は近縁種のヒラズハナアザミウマでも発生する。

▽ハウス開口部からハウス内に侵入するため,ハウスの開口部に防虫ネットまたは寒冷紗(1mm目合い程度)を張り,侵入を防止する。

▽UVカットフィルムの使用も施設内への侵入を抑制する効果がある。

▽成虫は花を最も好むため,開花中の花は本種を見つけるポイントとなる。軽く息を吹きかけるとアザミウマが花の中から出てくる。または白紙上で花を叩き,虫を落として観察する。黄色いアザミウマ成虫が観察される場合,本種の可能性がある。

▽ピンク色や濃青色,または黄色の粘着トラップを施設開口部付近の株上に設置するとアザミウマ類の発生を把握しやすい。

▽栽培終了後は直ちに残渣を焼却する,土中に埋める,またはビニール袋に密封するなどして,周囲に分散する前に虫を死滅させる。また,土壌中の蛹や成虫を死滅させるために,ハウスを密封して次作の定植まで10日程度蒸し込む,または土壌消毒を行なう。

農薬による防除

初発時

〈初発の判断〉

▽施設栽培では,開口部付近(出入り口や側窓,天窓下)の株で発生が早いので,これら株の下葉の被害に注意する。

▽芽や若葉よりも下葉において,葉の両面が光ってみえる「シルバリング」症状が発生する。食害が進むと葉脈間が白化し,特に葉表は不定形の白斑が散在する状態となる。被害葉を注意して観察すると,約1mmの細長いアザミウマの成虫または幼虫が観察できる。

〈防除の判断と農薬の選択〉

▽下葉にアザミウマ幼虫がみえる場合,幼虫に対し殺虫活性の高いカスケード乳剤,マッチ乳剤,マラソン乳剤を散布する。ただし,トマト黄化えそ病が発生する地域では成虫により媒介されるため,成虫に対し殺虫活性が高く即効的なスピノエース顆粒水和剤またはアファーム乳剤を散布する。

▽春や秋には本種は増殖しやすいため,薬剤防除後も葉や果実被害の発生に注意する。反対に夏の高温期には増殖は抑制される。

▽花卉類の花などの発生源が近くにある場合は次々に再侵入してくるため,薬剤の効果が出にくい。したがって,発生源の除去や侵入防止対策に努める。

多発時

〈防除の判断と農薬の選択〉

▽幼果の果実表面に数mm~1cmぐらいの円形に白く膨らんだ「白ぶくれ」が散在する場合,早急に防除する必要がある。この被害は開花時に雌成虫が子房へ産卵することにより,子房の肥大に伴って産卵痕周囲が白く膨れ上がり,顕在化する。果実の成熟に伴って白ぶくれは治まるが,産卵痕周囲の着色は不良となる。

▽成幼虫に対して殺虫活性の高く,即効的なスピノエース顆粒水和剤またはアファーム乳剤を散布する。数日以降,土中から新成虫が発生するため,1週間後に再度,アーデント水和剤またはサンスモークVPで防除する。その際,散布剤では蕾または花に薬液がかかるようにする。

▽本種の発生が少ない場合でもトマト黄化えそ病が多発する場合がある。トマト黄化えそ病の病徴は葉の輪紋やえそ斑点,芽の黄化やえそ,果実のえそなどである。疑わしい症状が見られる場合は指導機関に確認し,発病株を抜き取る。さらに,薬剤防除を徹底する。

激発時

〈防除の判断と農薬の選択〉

▽本種の食害または産卵による被害が激発することはない。

▽トマト黄化えそ病が多発する場合は,栽培を打ち切り,施設を密閉して,周辺への感染拡大を防ぐ。

予防

〈多発・常発地での予防〉

▽圃場周辺で花卉類が栽培されている場合,本種が発生しやすい条件であるため,侵入防止対策を徹底する。

▽育苗は栽培施設とは別の施設で行ない,侵入防止対策を実施する。

▽トマト黄化えそ病の常発地ではさらに定植直後から定期的な薬剤防除が必要となる。

〈発生の少ないところでの予防〉

▽圃場周辺に花卉類を栽培しないように努める。花卉類の苗,特に花が開花中の苗は本種が寄生している可能性があるため,圃場近隣に持ち込まない。

薬剤抵抗性への対応

〈抵抗性害虫を出さない組合せ〉

▽スピノエース顆粒水和剤およびアファーム乳剤は本種に対する防除効果が高いが,同系統のため,連用しない。その他の系統の薬剤とローテーションする。

〈すでに抵抗性害虫が出ている場合〉

▽本種は薬剤抵抗性の発達した系統が海外から日本に侵入したため,大部分の合成ピレスロイド剤に対し,薬剤抵抗性が著しく発達している。また,一部有機リン剤に対しても抵抗性が発達している。

〈抵抗性害虫出現の判定法

▽圃場内の発生部分を確認しておき,散布後にも成虫の生存が確認される場合,密度回復が早い場合など,防除効果の低下が疑われる。なお,モスピラン水溶剤やオンコル粒剤,オルトラン粒剤は成虫に対する殺虫活性が低い。

同時防除

▽スピノエース顆粒水和剤,カスケード乳剤,マッチ乳剤,アファーム乳剤はハスモンヨトウ,オオタバコガを同時防除できる。

▽スピノエース顆粒水和剤,アファーム乳剤はマメハモグリバエを同時に防除できる。

農薬使用の留意点

▽幼虫は下葉の葉裏に生息するため,薬剤が届くようにていねいに散布する。

▽くん煙剤を使用する場合,密閉の不十分な施設では防除効果が上がらないため,くん煙処理前に密閉度に注意する。

▽マルハナバチを使用している場合,散布前に巣箱を外に移動する。その際,十分な防寒または避暑対策を行なう。再放飼の間隔は薬剤によって異なるので,注意する。

▽近年,コナジラミ類やマメハモグリバエの天敵寄生蜂が実用化している。これら天敵を放飼後に使用できる本種の防除薬剤は昆虫成育阻害剤のカスケード乳剤,マッチ乳剤のみである。TSWV常発地では殺虫活性の高い薬剤を散布する必要があるため,天敵との組合わせは困難である。

効果の判定

▽簡易的には散布前後の花の寄生数を確認し,寄生数の減少が見られない場合は防除効果が低いと判定できる。

農薬以外による防除

圃場衛生

▽本種は農作物,雑草を問わず多種類の植物の花に寄生することができる。特に花卉類の花には多発する傾向があり,施設内外に不要な花を植えない。雑草でも増加し,また薬剤散布後の一時的な避難場所となるので,施設周囲や内部の除草に努める。

侵入防止

▽本種は野外では4月から11月まで飛翔しており,施設開口部から侵入するため,防虫ネットを張り,侵入を抑制する。微少な昆虫であるためネットの目合いは細かいほど侵入防止効果が高いが,1mm程度でも効果が高く,2mmではやや効果が劣る。また,UVカットフィルムを張ると,アザミウマ類やコナジラミ類など昼行性昆虫の侵入を抑制できる。

天敵類

▽トマトでは登録されていないが,アザミウマ類の天敵としてはククメリスカブリダニやヒメハナカメムシ類が有望な種類である。キュウリ,ナス,ピーマンのアザミウマ類対象としてすでに販売されている。

害虫の生活サイクルとその変動

〈基本的な生活サイクル〉

▽ミカンキイロアザミウマの雌成虫は体長1.4~1.7mmで,アザミウマ類のなかでは比較的大きい。体色は冬期には茶~褐色であるが,夏期には体全体が淡黄色である。一方,雄成虫は雌よりも小型で,体長約1.0mm,体色は1年を通して淡黄色である。

▽本種の成虫は花に集中して寄生し,春,秋は2か月,夏は1か月程度生存し,植物組織中に200~300卵を産卵する。

▽幼虫は花,果実および葉の表面組織や花粉を食べ,2齢を経て,土中で蛹となり,新成虫となる。卵から成虫までの発育期間は,15,20,25,30℃でそれぞれ34,19,12,9.5日である。休眠性がないため,冬でもハウス内で発育増殖することができる。

▽西日本では本種は野外で越冬することができ,4月上旬から飛翔が始まり,5月に急増し,6月に発生数がピークとなる。7月下旬から8月には発生が少ないが,9月に再び増加し,10月には減少するが,11月末まで飛翔がみられる。

▽寄主植物は多く,海外では200種以上の植物で寄生が確認されているが,農作物,雑草を問わず非常に多種類の植物,特に花に寄生する。西南暖地では多種類の農作物や雑草の花を移動しながら,1年中野外に生息することができる。

▽トマト黄化えそウイルス(TSWV)に感染した植物を摂食した1齢幼虫は,このウイルスを体内に取り込み,羽化後,摂食時にウイルスを媒介する。このウイルスを持った成虫は死ぬまでウイルスを媒介することができる。TSWVの媒介によりトマト,ピーマン,レタス,キク,ガーベラなどで葉,芽,茎にえそ症状が発生し,生育が抑制され,商品価値の低下や収量低下となる。

〈条件による生活サイクルの変動〉

▽野外での発生は降雨により左右され,雨が多いときには発生数が少なく,雨が少ないときは発生数が多い。

▽暖冬や春の高温により,春の発生時期の早まりや発生数増加傾向にある。

■執筆 片山 晴喜(静岡県柑橘試験場) (2002年)

≪適用農薬表≫

商品名使用期間使用回数農薬のタイプ特性と使用上の注意

スピノエース顆粒水和剤

前日

2回

スピノサド剤

アザミウマ類に対する殺虫効果が高く,即効的に成幼虫を殺虫する。鱗翅目害虫やハモグリバエ類にも卓効を示す。マルハナバチへの影響は3~7日程度

アーデント水和剤

前日

3回

《合成ピレスロイド剤》アクリナトリン水和剤

本種に対しては忌避作用が強い。残効期間は10日程度。オオタバコガにも有効。マルハナバチへの影響は3日程度

カスケード乳剤

前日

4回

《IGR剤》フルフェノクスロン乳剤

幼虫の生育を阻害し,殺虫する。雌成虫に対しては産卵を抑制する。ハスモンヨトウ,オオタバコガ,マメハモグリバエも同時防除可能。マルハナバチへの影響は7日程度。天敵類のうち,カブリダニ類や寄生蜂には影響が少なく,同時使用可能

マッチ乳剤

前日

4回

《IGR剤》ルフェヌロン乳剤

幼虫の生育を阻害し,殺虫する。ハスモンヨトウ,オオタバコガも同時防除可能。マルハナバチへの影響は1日程度。天敵類のうち,カブリダニ類や寄生蜂には影響が少なく,同時使用可能

マラソン乳剤

前日

5回

《有機リン剤》マラソン乳剤

本種幼虫に対する殺虫活性は高い。本種成虫に対しては殺虫活性は低い。アブラムシ類と同時防除する。マルハナバチへの影響は30日

サンスモークVP

3日

3回

《有機リン剤》DDVPくん煙剤

本種の成幼虫に対する殺虫活性が高い。残効は短い。アブラムシ類と同時防除する。くん煙剤なので施設の密閉度により効果が左右される。マルハナバチへの影響は7日

アファーム乳剤

前日

2回

《マクロライド剤》エマメクチン安息香酸塩乳剤

アザミウマ類に対する殺虫効果が高く,即効的に成幼虫を殺虫する。ハスモンヨトウ,オオタバコガ,マメハモグリバエと同時防除する。マルハナバチへの影響は3~7日程度

*使用期間、使用回数はいずれも安全使用基準。使用期間の日数は収穫前日数。使用回数は同一主成分を含む農薬の総使用回数。
*農薬の使用にあたっては、毎年使用基準が改訂され、新農薬も加えられる点に留意する。また、使用上の注意事項などは最寄りの指導機関などで確認すること。