<診断>

トマト 葉かび病



ナス科

[学名]Fulvia fulvum (Cooke) Ciferri

[英名]Leaf mold
[別名]黄斑病,褐色黴斑病,葉銹病,鼠黴病,葉枯病,葉渋病
[多発時期]促成,半促成栽培の生育後半,抑制栽培
[伝染源]土壌,種子,被害残渣
[伝染様式]種子,分生胞子の飛散
[発生部位]茎,葉
[発病適温]20~25℃
[湿度条件]多湿
[他作物の被害]なし

↑葉表の初期症状
↑葉裏の初期症状
↑葉裏の初期症状
↑激発下葉からの激しい発病
↑古い病斑古くなった葉かび病の病斑
↑被害株株全体に発生した葉かび病


診断の部

〈被害のようす〉

▽葉かび病は主に葉に発生するが,茎,花,葉などにもまれに発生する。

▽葉かび病の病斑は,はじめ下葉に現われ,しだいに上葉にひろがる。ときに中位の成葉から発生しはじめることもある。はじめ葉の表面の一部分がわずかに黄変し,その裏側に灰白色の輪郭の不鮮明な病斑を生じ,灰白色のビロード状のカビを密生する。多湿時にはのちに葉の表面にもカビがはえてくる。

▽ビロード状のカビは,淡褐色,褐色,灰紫色としだいに濃さをましていく。病勢の進展につれて病斑は拡大して円形または葉脈に囲まれた不正形となる。

▽病勢の激しいときは,中位の成葉に小型の病斑が多数できる。病斑は,はじめ大型で葉の先端などに多くみられるが,蔓延期には,中位の葉に小型の病斑が多数現われる。このようなときには,病原菌が多くの葉に侵入しており,すでに防除適期を失っており,手おくれである。葉かび病にかかると,しまいには葉は乾燥し,上に巻きあがって枯死するため,成葉のほとんどが枯死してしまうことがある。着果不良,果実の肥大の不良,早期着色の原因になる。

▽葉かび病は施設栽培で多発する。トンネル栽培では被覆中に主に発生するが,多湿のときには,ビニール除去後も蔓延することがある。露地栽培でも雨の多い年にまれに発生するが,実害はほとんどない。

〈診断のポイント〉

▽葉かび病は,温室,ハウスなどの通気不良の場所にでやすい。

▽病斑は,表面が黄変し,裏面に灰白色~灰紫色のビロード状のカビを密生する。多湿のときには葉の表面にも同様のカビを生ずる。

《誤診されやすい病気》
病害名葉の表面の病徴葉の裏面の病徴発生部位
葉かび病黄色の病斑であるが,灰白色~灰紫色のビロード状のカビを生ずることもある灰白色~灰紫色のビロード状のカビを密生する主に葉に発生
灰色かび病灰褐色の病斑上に灰色のカビを生ずる表面と同じ主に果実に発生。葉,茎にも発生
疫病暗褐色~灰緑色の大型病斑上に白い霜状のカビを生ずる表面と同じ葉,茎,果梗,果実いずれにも発生
輪紋病暗褐色の病斑上に同心輪紋,のちに黒いビロード状のカビを生ずる表面と同じ葉,茎,果梗,果実いずれにも発生

防除の部

〈病原菌の生態,生活史〉

▽葉かび病は,不完全菌に属する一種のカビによっておこされる。本菌はトマトだけを侵す。

▽分生子をつくる。葉に生ずるビロード状のカビは,この分生子の密生したものである。

▽葉かび病菌は,温室・ハウス・トンネルなどのガラス・ビニール・骨組・支柱などの表面に付着して生き残るほか,ハウスや温室に残された被害葉上で生き残って伝染源となる。また,種子の表面にも付着して生き残り,種子伝染も行なわれる。

▽病斑上にできた分生子は,風によって運ばれ,葉に達し,発芽して菌糸によって気孔から侵入し,2週間くらいの潜伏期を経て発病する。

▽分生子は,病斑上に多数生じた短い分生子梗の上に形成される。病斑に密生したビロード状のカビは,この分生子である。

▽侵入した菌は,2週間内外で発病し,葉の裏面に多数の分生子を生ずる。湿度の高いときには,葉の表面にも多数の分生子を生ずる。これらの分生子が風によって運ばれ,つぎつぎに蔓延していく。

▽葉かび病は,施設栽培のトマトで発生しやすい。葉かび病菌は,20~25℃の温度と95%以上の多湿を好む。このため,十分な換気を行なうことのできない晩秋~早春に施設栽培のトマトで発生しやすいことになる。

▽トマトの生育がおとろえると発生しやすい。肥料が不足したり,干害をうけたりして生育がおとろえると,葉かび病が発生しやすい。とくに着果する時期になると,トマトは多量の養分を必要とするので,肥料切れしやすい。

▽本病の病勢の激しいときは,葉だけでなく,茎・花・果実なども侵す。

▽多発すると,ほとんどの成葉が枯れあがり,ほとんど収穫できないようになる。

〈発生しやすい条件〉

▽施設栽培で多発する。葉かび病は,施設栽培の重要な病害であるが,トンネル栽培や露地栽培でも発生する。

▽多湿のときに発生する。葉かび病菌は,95%以上の多湿と20~25℃の温度を好むので,外気が低温で,換気を十分に行なうことのできない晩秋~早春の栽培で発生しやすい。

▽密植のとき多発する。密植しすぎると,茎葉が繁茂し,多湿となるので発生しやすくなる。

▽過度の灌水を行なうと多発する。過度の灌水を行なうと多湿となり,苗も軟弱に育つので,発生しやすくなる。

▽草勢がおとろえると多発する。肥料切れしたり,干害をうけたり,日焼けをおこしたりして,生育がおとろえると多発しやすい。とくに収穫期に入ると,肥料切れしやすいので多発する。

〈対策のポイント〉

▽‘マイロック’‘麗容’などの抵抗性品種を栽培する。

▽多湿にならないようにする。多湿は葉かび病を多発させるので,換気につとめ,過度の灌水や密植栽培をさける。

▽薬剤防除は,発病極初期から行なう。多発してから散布をはじめても,もはや手おくれのことが多い。発病が予想される場合はあらかじめ予防散布を行なうと効果が高い。

〈防除の実際〉

▽別記防除適期と薬剤の表参照。

〈その他の注意〉

▽換気を十分に行なう。湿度を低く保てばほとんど発生しない。露地栽培で発生がまれであるのは,このためである。日中,気温の高いときを見はからって,換気を行なう。サイドの換気だけでは不十分で,天窓換気も必要である。換気をおろそかにし薬剤散布だけにたよっても,防ぎきれないことが多い。

▽日頃から圃場をよく観察し,発病が認められたら直ちに薬剤を散布する。

▽発病が予想される場合は苗床期から,薬剤を散布して予防する。ほとんどの株の中位の葉に病斑がみえるようになってからでは,もはや手おくれ。

▽ジマンダイセンフロアブル,ビスダイセン水和剤,ダコニール1000,ユーパレン水和剤などは,いずれも予防散布で安定した防除効果を示すので,主として発病前に使用する。

▽散布間隔は発病前の比較的発生しにくい時期には10~14日とし,発病初期には7日に短縮する。

▽アミスター20フロアブル,サルバトーレME,トリフミン水和剤,ルビゲン水和剤,カスミンC水和剤,トップジンM水和剤,ベンレート水和剤,カリグリーンなどは比較的治療効果が高いので,発病初期から使用する。

▽アミスター20フロアブル,サルバトーレME,トリフミン水和剤,ルビゲン水和剤,ベンレート水和剤,およびトップジンM水和剤は,連用すると耐性菌が発生し防除効果が低下するおそれがあるので,連用をさけ,グループの異なる薬剤を交互に散布する。

▽サルバトーレME,トリフミン水和剤,ルビゲン水和剤はEBI剤というグループに属し,ベンレート水和剤とトップジンM水和剤はベンゾイミダゾール系剤というグループに属する。

▽アミスター20フロアブルは浸透性を高める効果のある展着剤を混用すると薬害を生じる場合があるので,このような展着剤と混用しない。

▽アミスター20フロアブルは高温多湿条件で散布すると薬害を生じるおそれがあるので,このような場合は使用しない。

▽施設栽培ではくん煙剤の使用により施設内の湿度を低く保つことができ,発病前から予防的に使用すると効果が高い。

▽くん煙剤には,ダコニールくん煙剤,トリフミンジェット,ルビゲンくん煙剤などがある。使用方法は簡単で,夕方にハウス・温室を密閉し,所定量を発煙させそのまま放置し,翌朝窓を開放する。薬価は高いが,省力的な薬剤防除ができて便利である。

▽薬剤は葉の裏にも十分に散布する。葉かび病菌は気孔から侵入して発病をおこす。トマトの葉では気孔が葉の裏に多数存在するため,葉かび病菌は葉の裏から侵入することが多い。このようなことから,薬剤散布のさいは,噴霧器の噴口を上に向けて葉の裏から吹きあげるように散布する。

▽抵抗性品種には,葉かび病だけでなく,他の病害にも抵抗をしめす多くの複合抵抗性品種が市販されている。また,地域によって一部の抵抗性品種をおかす菌系があるので,品種選定に注意する。

▽肥料切れになると発病しやすくなるので,肥培管理に注意する。とくに,収穫期に入ったら,肥料不足にならないようにする。

▽過度の密植や灌水を行なうと多湿になり多発しやすいので注意する。地下給水やチューブ灌水を行ない,さらに地表をビニールまたはポリシートでマルチすると,葉かび病,灰色かび病,疫病その他の病害の発生も少なくなる。

▽ダコニール1000は,人によりかぶれることがあるので,かぶれやすい体質の人は他の薬剤を使う。

▽ダコニール1000は魚毒性が高いので,薬剤が河川,湖沼,養殖池に飛散,流入しないように注意する。

▽伝染源となる被害株をとり除く。多発したときは,被害株をていねいに集めて,ハウス外の土中に深く埋める。

〈効果の判定〉

▽葉かび病菌は,侵入してから発病までに2週間ぐらいかかるので,薬剤の効果は,散布を開始した日から15日以上たって判定する。

■執筆 阿部 善三郎,善林 六朗(東京都農業試験場,埼玉県園芸試験場)

■改訂 竹内 妙子(千葉県農業総合研究センター)

(2002年)


≪防除適期と薬剤≫

防除時期商品名希釈倍数使用量使用時期使用回数

生育期(初発後)

アミスター20フロアブル

2000倍

100~400l/10a

収穫前日まで

4回以内

生育期(初発後)

サルバトーレME

2000~3000倍

200~250l/10a

収穫前日まで

3回以内

生育期(初発後)

トリフミン水和剤

3000~5000倍

収穫前日まで

5回以内

生育期(初発後)

ルビゲン水和剤

6000倍

収穫前日まで

3回以内

生育期(初発後)

ベルクート水和剤

3000~6000倍

150~300l/10a

収穫前日まで

3回以内

生育期(初発後)

カスミンC水和剤

1000~1500倍

収穫前日まで

5回以内

生育期(初発後)

ポリオキシンAL水溶剤

2500~5000倍

収穫3日前まで

3回以内

生育期(初発後)

トップジンM水和剤

1500~2000倍

収穫前日まで


生育期(初発後)

ベンレート水和剤

2000~3000倍

収穫前日まで

5回以内

生育期(初発後)

カリグリーン

800倍

収穫前日まで

8回以内

生育期(発病前)

ダコニール1000

1000倍

収穫前日まで

4回以内

生育期(発病前)

ジマンダイセンフロアブル(ペンコゼブフロアブル)

1000倍

150~300l/10a

収穫前日まで

2回以内

生育期(発病前)

ビスダイセン水和剤

800倍

収穫前日まで

2回以内

生育期(発病前)

ユーパレン水和剤

500~600倍

収穫前日まで

5回以内