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<診断>

リンゴ カメムシ類


防除法 病気・害虫選択
リンゴ カメムシ類 リンゴ 果実


バラ科

チャバネアオカメムシ

[学名]Plautia crossota stali Scott
[分類]半翅目\カメムシ科
[英名]Brown-winged green stink bug

クサギカメムシ

[学名]Halyomorpha halys Sta゜l
[分類]半翅目\カメムシ科
[英名]Brown malmorated stink bug


↑幼果期の被害:果実表面への吸汁。(舟山健)
↑果肉内部:幼果期の吸汁加害による果肉内部のようす。(舟山健)
↑卵塊:リンゴの葉裏に産卵されたクサギカメムシの卵塊。(舟山健)
↑果実の肥大期の被害:吸汁痕を中心に緑色を伴って大きくくぼむ。(舟山健)
↑カメムシの吸害による果肉内部のようす:果汁が抜けて広く褐変する。(舟山健)
↑クサギカメムシ雌成虫(舟山健)
↑クサギカメムシ孵化直後の幼虫(北村泰三)
↑クサギカメムシ3齢幼虫(萩原保身)
↑クサギカメムシ老齢幼虫(萩原保身)
↑チャバネアオカメムシ成虫(北村泰三)


診断の部

〈被害のようす〉

▽カメムシ類の加害によるリンゴ果実の被害様相は,加害を受けた時の生長ステージによって異なる。

▽幼果期の加害では,果実表面が吸汁痕を中心に窪んで奇形になる場合もあるが,窪みは収穫期には目立たなくなる場合が多い。

▽果実の肥大期の加害では,果実表面が吸汁痕を中心に緑色を伴って大きく窪んで奇形となり,内部の果肉も褐変する。

▽成熟期の加害では,果実表面が若干窪む程度であるが,内部の果肉は果汁が抜けて白くスポンジ状になる。

〈診断のポイント〉

▽カメムシ類の吸汁加害によるリンゴ果実の被害痕は,カルシウム欠乏症による斑点や各種病害による病斑などと様相が類似していることも多い。

▽果実の吸汁痕の断面は,幼果期の被害では口針挿入による線状の褐変が認められ,加害の判別が容易である。

▽果実の肥大期の被害では,内部の果肉が褐変してスポンジ状になっており,口針挿入痕の確認は難しい。しかし,カメムシが植物を吸汁加害した時,吸汁部位には唾液鞘を残すことから,これがカメムシによる被害の指標となる。

〈発生動向その他〉

▽秋田県では,従来,カメムシ類の加害によるリンゴの被害は山沿いなどの一部の地域に限られていた。ところが,果樹カメムシ類が全国的に多発した1996年には,多くのリンゴ園でクサギカメムシやチャバネアオカメムシの飛来数が多く,吸汁加害による被害果実が多数発生して問題となった。2001年には1996年以上にカメムシ類が大発生し,近年はリンゴ生産者にとってカメムシの防除対策が深刻な問題となっている。

防除の部

〈虫の生態,生活史〉

●クサギカメムシ

▽クサギカメムシは年1回発生し,建物の間隙,樹の粗皮下,屋外に積まれた木材やわらの下などで成虫態で越冬する。越冬場所からは3月下旬~5月中旬の間に離脱し,離脱直後は付近の樹木などに多く見られる。5月上中旬頃から移動・分散し,果樹,ヤマザクラ,クワ,キリなどに順次飛来する。この過程で,果樹園外で餌が不足した時には果樹にも飛来する。

▽クサギカメムシは5月下旬から各種の植物に産卵し,7月下旬から第1世代成虫が羽化する。7月以降の生息場所は針葉樹やキリなどさまざまで,9月中旬ごろから越冬場所に移動する。第1世代成虫の発生数と餌量のバランスが崩れると果樹にも飛来する。

●チャバネアオカメムシ

▽落葉下で成虫越冬する。4月になると越冬場所を脱出し,次々と好適なエサとなる各種植物の新梢や花,果実などを移り渡る。春~夏にかけて寄生が多い植物としては,クワ,サクラ,キリなどがある。また,夏~秋にかけて寄生が多い植物はスギ,ヒノキ,キリがある。

▽本種はリンゴのほか,ナシ,カキ,ミカン,モモ,ブドウなど多くの果樹を加害する。果樹園外の多くの植物で繁殖し,成虫が果樹園に飛来する。主要な繁殖植物はヒノキとスギである。

▽年間の発生回数は1~2回がほとんどである。成虫の寿命と産卵期間が長いので各世代のものが混発している。

〈発生しやすい条件〉

▽クサギカメムシの越冬場所に隣接した園では,開花期~落花期頃から越冬世代成虫の飛来が多い。

▽山沿いなど雑木林に隣接した園では,カメムシ類の飛来が多い。

▽越冬量が多い年は,リンゴの開花期頃~1か月位の間に,広い範囲で多数のカメムシ類の飛来が予想される。また,その年には,餌が不足する時期(6月下旬以降)にも多数が果樹園に飛来する可能性が高い。

▽第一世代成虫も針葉樹の球果など餌が不足すると9~10月に果樹園に飛来する。

▽越冬場所付近の樹の果実は,第一世代成虫に加害されることが多い。

▽被害は,‘さんさ’‘北斗’‘ふじ’などに多い傾向がある。

〈対策のポイント〉

▽越冬量の多い年には,通年でカメムシ類の飛来に警戒が必要である。

▽園内への飛来状況を頻繁によく観察することが基本となる。一部の樹だけではなく,園全体の樹を観察する。

▽飛来初期には園の内側よりも周縁の樹にカメムシが多い傾向がある。また,果樹園に飛来したカメムシは,果実や葉の隙間に潜み,見えにくいことも多いので,枝をゆするなどして観察する。

▽飛来したカメムシの摂食活動は旺盛である。大発生では防除対応の遅れが,大きな被害につながる。越冬量が多い年には,各機関などから出される情報を積極的に収集し,実際の飛来状況を観察して,迅速な防除対応を行なうことが重要である。

〈防除の実際〉

▽カメムシ類に対して殺虫効果の高い薬剤は多い。しかし,薬剤の残効期間は短く,多発生時の有効薬剤は少ない。現在(平成14年),スミチオン水和剤とMR.ジョーカー水和剤がリンゴのカメムシ類に農薬登録がある。

▽果樹園内にカメムシが飛来していない状況で薬剤散布しても,その数日後に飛来したカメムシに対する殺虫効果はかなり低下している。果樹園外から飛来するカメムシに対して薬剤防除を効果的に行なうためには,飛来開始時に防除効果の高い薬剤を早急に散布することが重要である。

〈その他の注意〉

▽スミチオン水和剤は落花30日以降に使用し(サビ果の発生),高温時や衰弱樹には散布しない(黄変落葉の危険)。

〈効果の判定〉

▽散布後にリンゴの枝をゆするなどして,落下した成虫数を調査する。

■執筆 舟山健(秋田県果樹試験場)

(2002年)


≪防除適期と薬剤≫

防除時期 商品名 希釈倍数 使用量 使用時期 使用回数

成虫の飛来時期

MR.ジョーカー水和剤

2000倍

 

収穫14日前まで

2回以内

落花30日後以降の成虫の飛来時期

スミチオン水和剤40

800~1000倍

 

収穫30日前まで

3回以内

*使用期間、使用回数はいずれも安全使用基準。使用期間の日数は収穫前日数。使用回数は同一主成分を含む農薬の総使用回数。
*農薬の使用にあたっては、毎年使用基準が改訂され、新農薬も加えられる点に留意する。また、使用上の注意事項などは最寄りの指導機関などで確認すること。