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「ウドンコ病は湿度が五〇から八〇%のやや乾燥気味の日が続くと蔓延しやすい。ビニールハウスでは霧を防止するタイプのフィルムを使うと、細菌や糸状菌で起こる病気は減るけれど、ウドンコ病はかえってふえやすい」
という。これらの点は、先のベト病とは反対だ。ウドンコのふえやすい条件は、ダニの発生条件と似ているので、観察がとくに大切になる。発生の多い、下葉や日陰になる部分を中心に観察して早期防除が大切だ。
「ウドンコなんて水をかけときゃ治る」という人もいるが、それは間違いと茨城大学の阿久津克己先生(九〇年九月号)。先生によると、ウドンコ病菌といっても作物ごとにいろいろあって、水に弱いというムギのウドンコ病菌の性質が、あらゆるウドンコ病菌に共通のものであるかのように広がってしまっているらしい。この点、注意したい。
ウドンコ病でとくに問題になっているのがイチゴ。宝交早生から女峰・とよのかという品種に替わったからだ。
佐賀県の松尾良満先生は、イチゴ農家で次のような人がウドンコ防除で失敗しやすいという(九一年六月号)。
(1)こまめに「常時予防散布」をする人……ウドンコ病は温度の高い夏を除くすべての季節で発生する。そのため、苗から定植株→収穫株→親株→と常時予防対策が必要と考えてしまい、ウドンコ病の発生の有無に関係なく七~一〇日ごとに散布してしまう。こういうハウスでは、ウドンコ病菌に薬剤抵抗性ができてしまって、収穫期に発病したときにはどの薬剤での防除もむずかしくなり、被害がとくにひどくなってしまう。
(2)「何とか防除しなきゃ」で頭がいっぱいの人……開花中や収穫期に発病した場合、奇形果やミツバチに対する気配りを忘れてしまうと、薬害による奇形果、殺虫剤との混用による訪花阻害の失敗につながる恐れがある。
では、どの時期に防除すればよいかというと次の四回がポイント。
(1)四月下旬~五月上旬の親株
(2)六月の子苗
(3)花芽分化前(ウドンコ病はチッソ切れで葉色がうすいときほど出やすい)
(4)出蕾時
かけ方は回数は少なく、散布量をやや多くして、散布ムラをなくすことが大切。そうしておいて開花受精時は散布をしないにかぎる。
しかし、花が咲き始めてから防除しなくてはならないときはどうするか。松尾先生がすすめるのは、開花終了や収穫の中休み。この時期に徹底防除することをすすめている。具体的には、低温暗黒処理、夜冷短日処理による作型では、第一花房と第二花房、また第三花房との中休みが適当にあるので、このときが防除の適期になる。
また、この作型は開花が早いだけに雑草などによる外からの感染を防止するために、ハウスの張り方も、天井ビニールよりサイドビニールを先に張り、菌の侵入を防ぐのも有効。ウドンコ病菌は地上五〇~六〇cm以上の飛散は極めて少ないことがわかっているからだ。
花農家にとって防除はホントに気が抜けない。病気が出る出ないで、商品価格はまったく変わってしまうからだ。ところが、神奈川のバラ農家・石井通生さんは、「もうずいぶん殺菌剤は使っていない」というのだ。その秘密が、イオウ蒸散器。電気蒸散器で温室内にイオウ蒸気を充満させ、ウドンコ病・ダニを防ぎながら、かつ、店頭での花ぐされ、灰カビを防ぐというものだ(八九年六月号)。
一〇〇ボルト、一〇〇ワットの低電力で、イオウを燃やさず、蒸気を温室内に充満させるというところがミソ。イオウを燃やしては有毒ガスが発生して作物は枯れてしまう。
石井さんは現在、毎日、夜中の三時間半、一〇〇坪に四個の割合でぶら下げている蒸散器でイオウを蒸散させている。たったこれだけで、殺菌剤ゼロのバラ栽培をしているのだ。
イオウにウドンコの防除効果があることは知られているのだが、他の灰カビやベト病などにも効果があるのだろうか?
「ウドンコが出たら必ず灰カビが追いかけてやってくる。さらに灰カビが出たら必ずベト病が入るぞ」
……これが石井さんがこれまでの経験からつかんだバラの病気のつながり方だ。逆にいうと、ウドンコ病が出ていなければ、その後に続く灰カビやベト病は出てこない。ウドンコ病が出ていないのに、灰カビやベトの防除は必要ない!ということなのだ。そして石井さんの温室では、実際、イオウの毎日三時間半の蒸散だけで、殺菌剤を使わずにすんでいるのだ。
イオウ蒸散器が知られるようになって、バラ農家だけでなくいろいろな農家からの問合せがあったという。「ホントに効くのか」というものから、「(市販のコントロールできない)ホットプレートでやったらイオウが燃えて被害が出た」というものまでさまざま。しかし石井さんの温室から、いままでにキク農家→イチゴ農家へとこの蒸散器は広がっている。この蒸散したイオウ蒸気は、病気以外にも害虫への忌避効果もあるようだという。